035:緑の剣

「私はウタハ・ルグリ・ニードと申します」


▽ ▽ (ウタハの語り) ▽ ▽

 わたしは父と母と3人で幸せに暮らしていました。そんな中、両親が流行り病で亡くなってしまったのです。

 両親が死んだのをいいことに、親戚の一人が、家とお金を騙し取ったのです。

 わたしは、生きていくために1人で旅に出るしかありませんでした。


 もともと明るい性格ではなく、人づきあいも苦手なので、落ち込むことも多かった……

「こんな暗い性格じゃパーティーも組んでもらえない」

 そう考えた私は、短所を克服すべく吟遊詩人を学んで、パーティーに貢献することを目標にしたのです。

 ギルドの依頼を細々とこなしながら吟遊詩人を学び、食いつないでいました。


 ある時、私に召喚魔法の才がある事が分かったのです。

 魔獣を使役する事で格段に依頼をこなすスピードが上がったのです。


 ちょうどこの時です。稼ぎも良くなり、たまたま立ち寄った湯浴み場であなたと会ったのは……


 召喚魔法が使える冒険者は少なく、物珍しかったのかパーティーに誘ってもらえたのです。


「……1人の時間が長かった私にとっては ……例え私でなく召喚魔法が目的だったとしても誰かに認められて嬉しかったんです」


 しかし、召喚魔法が使えるといっても大した力になれませんでした。

 その代わり、食事や装備の修理、裁縫などパーティーの役に立てるように努力しました。

 そんな中、リーダーがスカイブ帝国で開催されるトーナメントの噂を聞きつけ、報酬のために優勝を目指したのです。

 トーナメントをイメージした戦闘で、みんなの足を引っ張ってしまい、優勝が難しいと感じたリーダーは今回のような判断をしたのでしょう。

△ △ △ △


「お金は全部あの人たちが持っているので、ここの滞在許可を更新することも出来ません。明日にはお金が払えず奴隷になるしか……」

 話が終わると泣きだしてしまった。頭を抱えながらフルフルしている。


 ──既に酒場に居た人々もまばらになっていた。


「そっか。じゃあ、落ち着くまで僕たちと一緒に行こう。僕の仲間は良い子たちだから仲良くなれると思うよ」


「え、とても嬉しいです。奴隷になりたくありません! 何でもします! よろしくお願いします! 炊事でも裁縫でもやります!」


「そんなのいいから。君が自立できると思ったらいつでも自由にして良いからね」


 友達から突き放された僕と、仲間から突き放されたウタハが重なって見えたのだろう。助けてあげたいと心から思ったのだ。


 そのままウタハを引っ張りギルドに向かう。


「メリンダさん。彼女の滞在許可延長をお願いします」


「あら。あなたはサクリファスの…… 何かあったのですか」


「はぁいぃ。みんなにずてらればじだぁ(捨てられました)。みゃぎざざんに(なぎささんに)、びりょっでぼらっだんでじゅ(拾ってもらったんです)」

ウタハは泣きながら体全体を使って説明している。


「なぎささん。女の子ばかり侍(はべ)らしていると恨まれますよ。しかも可愛い子ばっかり…… 低レベルの男が可愛い女の子ばかり集めやがってと噂になっていますよ。また、こんなに可愛い子を──」


 説教っぽくなってきたので、メリンダの話を遮った。


「メリンダさん。更新をお願いしてもよいでしょうか」


 無事にウタハの滞在期間を延長して宿に連れて戻った。


 宿に帰り、リリスとユニにウタハを紹介する。


「なんじゃ、なぎさが女の子を拾ってきたのじゃ。私たちじゃ不満か」


「なぎささん、どういう事か説明していただけるかしら」

 リリスはニコニコしている。が、右手にはデーモンアクスが握られていた。


「ままま待ってくれ、ちゃんと説明するから」


 今までの事情と経緯を説明した。


「あっ、あなたはフクロンで……無事だったんですね」

 リリスとユニはウタハにフクロンで会ったことがあるようだ。


「改めてウタハ・ルグリ・ニード。種族は不明です」


 種族が不明。そんなことはあるのだろうか、ウタハが言うには両親が私を拾って育ててくれたので本当の両親は分からない。ただ特徴として、耳と尻尾がある事。感情が昂ると髪がツンツンするそうだ。


「ウタハは緑が好きなんだね。髪は緑だし身に着けている物もどこかしら緑が入っているんだもの」


「そうなんですよ。緑好きというのもあるのですが、緑を身に着けると少し力が上がる気がするんです」

 笑顔で全身を見せるようにくるっと回る。嬉しいのか尻尾がフリフリしている。


「も、もしかして…… ウタハちゃん。明日、私と付き合ってもらっていいかな。もちろんなぎさとユニもね」


 今日は色々とあって疲れてしまった。ウタハも随分と疲れただろう。疲れをとるには風呂が一番。彼女をお風呂に誘った。リリスとユニは「信用できない!」と一緒についてきた。 


 2人にウタハをお風呂に入れてもらった。「奮発してキクで入った時より気持ちいい!」と馬車のお風呂を気に入ったようである。


 僕は、ひとりで湯船に入るのが好きだったが、寂しいと思うようにもなった。ふたりは、いつでも一緒に入ってくれると言うが、なるべく節制はしたい。


 ……ウタハまで一緒に入りたいと言ってきたのはビックリしたが。


 翌日、リリスは、大事な話はスカイブ帝国の外でしたいと言う。誰にも見られず、聞かれないように話をしたいとお願いされた。僕は、帝国から離れた人気のない場所に『変質』で広い地下室を作った。



「ウタハ。あなたは『ドライアド族』の亜種ね。耳や尻尾があるおかげで分かりにくかったけど、それがかえって良かったかもしれない。ドライアド族は、数が少なく貴重なので、身を護れない個体は魔道具に加工されるの。耳や尻尾が無かったら、さらわれていたかもしれないわね」 


 ウタハは青ざめていた。


「あなたが弱いのは、緑の洗礼を受けていないからだと思う。なぎさ、この子は私たちとずっと一緒に行動を共にした方が良いと思うの」


「ウタハを連れてくる時に、自立できたらいつでも自由にしていいからと約束したんだ」


「なぎささん! 私はなぎささんたちと一緒に居たいです! なぎささんと一緒に居たいんです!」

 目をウルウルしながら僕の目を見つめている。ちらっとリリスとユニの目を見てしまう…… 少し怒っているような気がした。


「まあ、今はその話は置いておいて、一緒にくるならなぎさにお願いしたいことがあるの。べヌスで緑の剣をもらったでしょ、それでウタハを斬って欲しいの」


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