033:仲間との再会

 勇者パーティーに興味があった。しかし、異世界転移を果たした物が勇者となる良くある展開に少し嫌な予感がしていた。 


『勇者パーティー』は、このスカイブ帝国で名声を欲しいままにし、絶大な人気を誇っていた。各メンバーのファンクラブが設立される程で、既に爵位が与えられている。


 ♢聖(ひじり) 剣(けん)

帝国の持つ聖剣を使い熟し、オリハルコン製の防具を装備する唯一無二の存在。

 ♢里中(さとなか) 千晶(ちあき)

  回復や防御魔法に特化したみんなを癒すアイドル的存在

 ♢古式(こしき) 凛(りん)

  居合切りの達人。その刀で全てを切り裂く強さに全ての人が憧れる

 ♢斉木(さいき) 拓磨(たくま)

攻撃魔法を用いたら右に出るものなし。得意の魔法で人の心も焼き焦がす


 この名前は…… やっぱり友達だ。


 一緒にバスに乗っていた他の友人や運転手、先生はどうしたのだろう。


「なぎさ。何か顔色が悪いよ。ちょっと休もうか」

 リリスは僕の顔を覗き込み、額に手をあて心配してくれた。


 2人を連れて部屋に戻っった。


「知っての通り、僕は違う世界から来た人間だ。友人との旅行中にこの世界へ転移したんだ。 僕だけは不慮の事故で、別の入り口からこの世界に飛ばされ、みんなと別々に行動していたんだ」

「『勇者パーティー』として紹介されていた4人は僕の友人たちだ」

「いきなり島流しにされて苦労を重ねてきた僕と全く違う道を歩んでいる。今となってはリリスやユニに出会えたから良かったと思っているけど、友人の事は心の中に針のようにつっかる物があるんだ」


「そっか。向こうは、みんなが憧れる『勇者様パーティー』だもんね。片やなぎさは島流し。天と地の差だよね。でも私は、なぎさが島流しになったおかげで出会えたから感謝してるよ」


「ユニもなのじゃ。なぎさたちに会わなかったらどうなっていたのか分からないのじゃ。なぎさやリリスと出会えてユニは幸せなのじゃ」


「みんな。ありがとう。明日、『勇者パーティー』に僕の無事を伝えようと思っているんだ。良ければ2人とも一緒に付いてきてくれるかな」


「もちろん (なのじゃ)」

 リリスとユニは笑顔で同意してくれた。


 マップを使った『勇者パーティー』の捜索方法を考える中で、マップを使ってもレベルが全く分からない人がいる原因を探った。特にこの国に来てから1人も知ることが出来なかった。


 帝国内を調べていると原因を解明することが出来た。街を散策する中で、門からギルド間にレベルを確認できる人が数名いた。その者もギルドから出てくると確認が出来なくなっていたのだ


 ……ギルドに入って最初にやること。


 そう、ランクプレートの作成。

 ランクプレートに記録されるとマップでレベルが確認出来なくなることが分かった。仕組みについては分からないが、マップを用いた『勇者パーティー』捜索は難しそうだ。


 捜索の難航を覚悟していたが、『勇者パーティー』の居場所は直ぐに分かった。これは有名税と言われるものなのだろう。

 『勇者パーティー』は貴族区画の一画に屋敷を与えられ、そこに住んでいる。 ……更に、みんなの行動予定まで掴むことが出来た。


 今日は休養日。屋敷で過ごすという情報を得たので、リリスとユニで屋敷へ向かった。


 屋敷は見上げる程大きく、広い庭に大きな建物…… 一体何部屋あるのだろう。 キクでみた領主の屋敷より広いかもしれない。


 門を叩き人を待つ。屋敷から執事の服装をした者が要件を聞きに来た。 聖の執事である瀬場氏とは違うようだ。


「岩谷なぎさと申します。聖さん達の友人です。今日はご自宅に居るとお聞きしたので伺ったのですが、お会い出来るでしょうか」


「聖様の友人ですか……」

 怪訝な表情をされたが、確認をすると屋敷に戻って行った。



 ……暫くして執事が戻ってくる。



「お会いになるそうです。しかし、イワヤ様は死んだと仰っておりますので、なりすましの可能性がありますので、その場所でお待ち下さい」


「分かりました。では、この場所で待たせていただきます」



 30分程して屋敷から4人が出てきた。 まさしく友人の4人だ。


「おー岩谷じゃん。生きていたのか。てっきり死んだと思ってたよ」

 聖が大きく手を振り歩きながら声をかけてきた。


「なぎさ先輩。生きていて良かったです。心配していました」

 古式が目に涙を浮かべ拭いながら再開を喜んでいる。


「なぎさっ。良く生きていたな。バスから落ちておっ死んだと思ってたぞ」

 里中が大きな口を開けてケラケラと笑っている。


「里中さん。一応、回復の女神と言われてるんだからもう少し言葉を……。 ああ、なぎさ久しぶり」

 斉木が里中の事を気にかけながら挨拶してきた。


「何しに来たんだよ」

 聖の口調と目つきが急に変わった。


「みんなの名前を見つけたから僕の無事を知らせようと思って会いに来たんだ。それより先生や他の人はどこに居るの?」


「あー。他のやつらならここには居ないよ」


 ……聖の話を要約すると、帝国の召喚魔法によりこの世界にバスごと転移された。目的は迷宮にある秘宝の探索。

 みんなでこの世界を平和にする選ばれた人間だと信じて訓練に励んでいたが、次第にメンバー同士の考え方に亀裂が生じた。

 

 聖たち4人は、秘宝を帝国が手に入れることで世界を統一し平和な世の中にしたいという皇帝の想いに賛同した。

 他のメンバーは、統一より共生の道を探るべき。と、皇帝に提言していくべきだと意見が対立した。


 帝国の意思を尊重できないのであれば帝国にいる必要はない。どこにでも自分の考えに賛同してもらえる所へ行けと、当面の路銀と食料を渡してスカイブ帝国を追放していた。


 その後の行方は知らないと言い放ったのだ。


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