076:髪飾り
窓から差し込む太陽の光が眩しい。すっかり日は昇っていた。結局、徹夜のゲーム大会に付き合わされ、布団に入ったのもかなり遅い時間だった。
窓から眺める景色は色とりどりの花が咲き乱れ美しい新緑が輝いている。建物にしても、幽霊屋敷に見えていたのが嘘のようにキレイな造りで、幽霊屋敷という言葉の先入観が恐怖を見せていたようだ。
しかし、昨日は色々とあったことと徹夜をしたせいか疲れは残り心には雲がかかっていた。
「なぎさおはよう」「なぎさちゃんおはよう」
リリスとアカリが扉からW笑顔をひょいっとのぞかせた。ふたりの微笑みが朝の憂鬱な気分を払拭する。
「なぎさ今日はハルサンで情報集めしようよ。海底神殿に渡る方法を探さないとね」
「そうだね。サキュバス族以前に神殿を護っていた種族ってなんだろうね」
かつて海底神殿を護っていたという種族について調べるためハルサンへ向かった。いつも通り、ユニが馬役となって馬車を牽く。
アカリは吸血鬼であり町では忌み嫌われる存在。吸血鬼の羽を隠せないのでバレてしまう。このまま荷車の中に隠れていれば安全だろう。
「なぎさちゃんひっどーい。私を置いていくつもり? 昨日あんなに激しかったのは遊びだったのね」
「……ちょっ、ちょっと昨日のは試練って言ってたじゃないか」
「なぎさ、アカリに何をしたのじゃ。正直に白状するのじゃ」
「なぎささん。私というものがありながら何をしていたんですか。きちんと説明して下さい。ねぇリリスさん。聞きたいですよね」
「えっ、ええ……」
リリスはあまり嫌そうにしていなかった。僕とアカリが仲良くしている事を喜んでいるようにも見える。そもそもリリスとアカリはお互いにとても気にしているように見える。二人の間に何かがあるのではないかと思うほどだった。
「なぎさちゃん見ていて」
アカリはコウモリに姿を変え髪飾りに擬態してリリスの頭に取り付いた。これならコウモリの髪飾りをつけている女性(リリス)にしか見えない。
「そういえばなぎさちゃん。聖くんだっけ…… あのお金持ちの。確か…… 瀬場さん! なぎさちゃんたちが立ち往生していた街道をヨハマ連邦方面に女の人と歩いていたのを見かけたわよ」
「えっ。瀬場さんが…… 温泉旅行へ行くときに運転手をしていたんだけど。 スカイブ帝国で聖たち勇者パーティーと会った時もいなかったなぁ」
不思議である。聖家に何十年と仕えた執事『瀬場進』。蒔田先生や竜崎の様に聖と考えを違えるとは思えない。それに一緒に居た女性とは……
考えても仕方がない。もしかしたらきっとどこかで会う事があるかもしれない。その時に聞いてみる事にしよう。
▽ ▽ ▽ ▽
ハルサンはヨハマ連邦の西に位置し、中腹3合目あたりに町がつくられている。『ハルサン』という名は、町がある山の名をそのままつけていた。
町まで続く街道は、勾配を緩めるように大きく波を描くように整備されている。直線距離だとそれほど長くない道も、大きくくねった道を通っていくと、かなりの坂道を登ることになる。
「この位の坂なら余裕なのじゃ」
木々が立ち並ぶ新緑の道を元気いっぱい牽いていくユニ。山を見上げると岩山がゴロゴロしている斜面を蛇のようにうねる道が見える。どうやら木々を伐採して道を作ったように、一部分だけえぐるように岩肌が出ていた。
「ハルサンは乗馬レースが定期的に開催されているのよ。あの蛇のような道に飛んで行ったけどすごい迫力なのよ」
うねった道を上るにしても下るにしても馬の脚への負担が大きそうである。アカリの話によると、レースで怪我をする馬が非常に多く、馬の幽霊が出るとかそんな噂もあるようである。
「なぎさ、着いたみたいよ。ここは随分と露天が多い町なんだね」
「リリスさん。馬の写し絵や木彫馬が多く並んでいますよ」
「おー。姉ちゃんたち、この町は初めてかい。ここは乗馬レースが盛んで優秀な馬や乗馬師は人気があってな。ランクが高い馬や人は神様みたいなもんだよ」
馬や乗馬師人気の話に釣られるように町民が興奮する。
「何々、フジタキの話? 下りにおいては右に出るものナシだ。カッコいいよなぁ……」
「まてまてまて。レースの醍醐味といったら上りだよ、の・ぼ・り」
話しかけてきた3人がレースについてあーだこーだ言い始めたので、そろーっとその場を離れて酒場に情報収集へ向かった。
「なぎさちゃん! ユニちゃんを休ませてあげなさい」
ここまで荷車を牽いて山道を運んでくれた功労者であるユニをしっかり休ませろということだ。確かにその方がいいかもしれない。でも……
(ワッペンに擬態中なんだからあんまりしゃべらない方が良いかと)
「なぎさちゃん! 心の声が全部聞こえているわよ」
さすが那由姉さんって感じだ。容姿は違ってもアカリと重なって見える。それと、今はリリスの頭にいるから、リリスからも言われているように感じる。
ユニを休ませるため情報収集を後回しにして宿をとった。
「アカリ! これで勝負をするのじゃ!」
取り出したのは『シウ返し(56話参照)』。戦略的ゲームが得意な那由姉さんに戦いを挑むとは……
「なぎさちゃん。これってオセ◯じゃない…… ふふふ。わたしに勝負を挑んだことを後悔させてあげるわ」
リリス、ユニ、ウタハ、アカリのシウ返し大会が始まった。その隙に部屋を離れ酒場にひとり向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます