075:吸血鬼のひみつ

「2階に沢山部屋があるから好きに使ってちょうだいね。それでなぎさちゃんは誰と寝るの? リリスちゃん? ユニちゃん? ウタハちゃん? それとも、わたし?」


 急に変なことを言われて固まってしまった。どう答えて良いのか分からない。4人にじっと見られている。ここで誰を選ぶのが正解なのか……

 頭の中ではリリスを選ぶのが正解なのだろう…… しかし那由姉ちゃんの前では選びにくい。


─(回想:009話)─

「近いうちにきっと良い人に巡り逢えるよ。私の予想は当たることで有名だから。でもその子と好きだった子が出会ったらどうなるのかなー」

─ ─ ─


 ドリアラのこんな言葉が頭に浮かんでいた。こんな先まで予想していたとしたら凄い人だ。この地で海底神殿の行き方を聞いてベヌスまで辿り着いたらドリアラに問いただしてみたい。


「なぎさちゃん。いつまで考えているのよ! そんな優柔不断じゃだめよ! 罰としてハイゲイトの部屋で寝なさい」


 腕を掴まれ地下室にある1室に閉じ込められた。部屋の中は薄暗く燭台のロウソクが灯っている。奥に見える暖炉に火を灯して光源を確保すると、明らかにあってはいけないものが置かれているのが見えた。


「棺桶……」初めて生で見る、真っ黒な五角形の棺桶、蓋には十字架が描かれ人一人分が入れる大きさ。この棺桶で寝ろという事なのだろうか……


 ガチャ


 薄暗い棺桶のある部屋で背後から急にドアの開く音がしたら、ビックリするに決まっているよ那由ねえちゃん。


「なぎさちゃんはまだまだ甘いわね。もし私が那由の名を語っているとしたらどうするつもり」


 すずらんの様な傘を振るうと、傘地が返り刃に変わる。真っ黒な柄に真っ黒な刃。刃には血管が這うように赤い光がドクドクいっている。柄と刃の長さが同等程度の3メートルはある禍々しい薙刀となった。


「他の3人は始末したわ。あとはあなただけよ」


 棺桶の蓋がずるような音を立てて横に動く。隙間からは大量のコウモリが飛び立ち一カ所にまとまって羽音を響かせている。


『シャイニング』

 ──アカリの手に光球が作り出され、至近距離で連発してきた。


『変質』の盾で全ての光球を防ぐ。盾に弾かれた光球は、跳び散るように光を撒き散らす。弾けた光球の裏から視覚をついてアカリが突進し、盾を蹴って前方に跳ね上がって回転しながら背部を薙刀で切りつけてきた。

 『変質』を使って背部に防御壁を作り、アカリの薙刀を弾いたのを確認したら、一気に防御壁を粉砕させて弾丸のように破片を散らした。


 !? アカリがコウモリに変態し破片を避けた。


 ……何事もなかったようにコウモリが集まってアカリに変態する。


 薙刀の刃が根元から背面側に折れ曲がり、飛ぶように突進してきた。ライカとレイカをクロスさせて受け止めるるが、アカリのツインテールがひとりでに動いて僕の腕にそれぞれ巻き付いた。

 水の力で巻き付いた髪を切り裂いてクロスしている刀を広くようにアカリを押し戻す。

 弾かれたアカリは重力を無視するようにフワリと着地した。


「なぎさちゃん凄いね!」


「はい!?」


 …………


「ごめんね。黒の試練だと思って許してね。本当はなぎさちゃんと戦うのは嫌だったんだけど、上で見ているハイゲイトがあなたを選んだのよ。まあ今の私を見てもらうのにもちょうど良いから引き受けたの」


 宙で飛んでいるコウモリが集まって黒い珠となった。その珠は僕の手に収まり、珠の上に一人の男がホログラムのように映し出された。


『黒の力を継ぐ器を持つ者よ。良くぞ吸血鬼の力を退けた。私には継ぐ器が無かったので力は不十分かもしれない。君の力があればきっと真の力に辿り着けるであろう。それとアカリを幸せにしてやってくれ』


 消えてしまった……アカリのことを言いたかっただけなのではないか……黒の力はなんで、どうやって真の力に辿り着くんだろうか。

 今はただ、那由姉ちゃんとの再会が夢物語にならなかったことを喜ぶしかできない。


「じゃあ寝ましょう」


 既に丑三つ時は越えた時間だろう。アカリは僕の腕をとって腕を絡め、寝室まで引っ張られる。

 扉の前に着く頃には心臓がバクバクしていた。姿は違えど憧れの那由姉ちゃんと添い寝できる喜びが期待となって妄想を膨らませている。


 ゆっくりと寝室の扉が開かれる……


「ふたりとも遅かったね。こっちは盛り上がってたわよ」


 テーブルの上には『ジャンガラ』と『シウ返し』。ゲーム大会で盛り上がっていた。しかも、アカリの母であるポティアナやメイドコウモリも混じっている。


「キャー。負けちゃったどすえ。みんな強いでありんす」


「ママ。あんまり興奮しないで。 ……興奮すると変な口調になっちゃうのよ」


「今度はユニと勝負なのじゃ」



「「みんなー。早く寝なさーい」」


 言葉はむなしくも黄色い声にかき消され、明け方まで大会は続くのであった。

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