004:島を渡る船
そしてついに、門番ゲドスより島流しの決行日が通告された。
……翌日であると
執行当日はバルクスと名乗る審判官から罰の説明があった。
── ──
1.島流しは『犯罪者の首輪』を外すので脱出すれば罪が精算される。
2.荷物類の持ち込みは出来ない。こちらが用意する物だけで罰を受けなければならない。
3.島で採取したアイテムや物資は自由にして良い。
4.獣に殺される、餓死などで死亡しても責は全て自身にある。すべて自己責任であること。
僕の罪の重さが生か死のどちらに傾くのか全ては神の意志である
── ──
全ての条件に同意させられ犯罪者の首輪を外される。そのまま兵士に付き添われ船着き場まで移動する。
そして………
船着き場の途中でそれは起こった。
罪……罰……島流し……死……… 急に沸き出てくる死の実感にひどい眩暈を覚えた。
何とかなる世界で平和に暮らしてきた心の余裕が全て崩れた瞬間だった。
額に拳銃を突きつけられたような絶望感が心を支配する。足はふらつき目線も定まらない……
兵士は僕が倒れないように腕をきつく掴まれて引きずられる。兵士に強制的に連行された。強く掴まれる腕にも引きずられている足にも痛みが感じない程に心が恐怖に支配されていた。
引きずられたまま船着き場まで運ばれ船の前で立たされる。兵士が手を離すと崩れ落ちるように座りこんだ。
僕は力なく船を見上げる。
「ま、まさかこれ……」
某童話で見た泥船が本から拡大コピーして出てきたかのようであった。
船の造形が絶望感をかき消すようにカ○○チ山が頭に浮かび、大きな不安へと心が移り変わる。
兵士たちに腕を掴まれ力ずくで立たされると船に放り込まれた。
船に倒れこむように乗船すると泥船はひとりでに発進した。どうやら泥船には自動操縦の魔法がかけられているようだ。
▽ ▽ ▽
海だか湖だか分からない水面の上を船が進んで行く。波は穏やかだが魚や鳥などの生物は一切見当たらない。
船の旅も既に3回の夜を越えた。この船に積まれている大量の食糧と物資により餓死の心配はしていないが、物資の箱は鍵が掛けられており、島流しの船に積む理由が分からず不安のタネであった。
見渡す限りの水面をひたすら進んでいるだけというのも不安が募る。しかもこの食料や物資の量。なぜ罪人にこれほどの量を与えるのかという不思議さも不安をかきたてる一つのタネであった。
ただただ船の上なのでこれ自体が罰なのではないかと考えたり、魔法が失敗して行き先の設定を間違ったりしているのではないかと色々と考えてしまう。いくら進んでも広がる水面、時間が経つ程に積み重なった不安が日に日に膨んでいき死を実感させる。
「せ、せめて死ぬ前にお風呂に入りたい……」
この苦しい現実に、正反対の現実である楽しいお風呂の事しか頭に浮かばなかった。
「お風呂お風呂お風呂ー」
大きな声で叫ぶと変化があった。右手が光ったかと思うとちょろちょろとお湯が出てきたのだ。
「なんだこれ……」
独り言のように口をついた言葉と共にお湯が少しづつ右手から流れ出てくる…… 手桶一杯分くらいのお湯が出たところで止まった。
このお湯が船の底に少し溜り、触るとほんのり温かく心地良い。
「このお湯が出るときの光りをどこかで見たことがある……」
牢屋に捕らわれている時に訓練場で見た魔法練習の風景だった。そこで見たのは詠唱すると光と一緒に魔法陣が描かれていたが…… まあ、この際いいや。
今はお風呂に入れることと、現実ではありえない手からお湯が出るという魔法がとても嬉しかった。
嬉しかった嬉しかったんだ……
船の中ということを忘れてお湯を出し続けてしまった。
温かい…… 腰が浸るほどにお湯が溜まり、幸せを感じた頃に恐怖がおとずれた。
「はっ、ここは船だ……」
明らかに水面に浮かんでいたが船が重さで沈んでいる。しかもお湯は茶色く濁って…… 泥が溶けているようだ……
沈む! 頭の中に走馬灯のように浮かんだのがカ○○チ山の狸が慌てる姿。悲しさに包まれるように水面に包まれていった。
消え行く意識の中、海の中に大きな龍の姿を見た気がした……
【物語解説】
王国の上位の者しか知りえない秘密がある。ハッサドは王国の息がかかった島で、普通に生活が出来ない強者(犯罪者や狂者、傭兵など)が生活している。
その者たちにあるものを探させているのだ。その者の食料や物資を運ぶ役として島流しとなった者が利用されている。
物資を届けた後は島民によって殺害される。口止めと島民のストレス解消の為だ。中には仲間入りするものも居るという。
その事は、領主レベルには知らされておらず。今回罰を決めた子爵も知らない事である。
島流しに使われる船が泥船というのには理由がある。まず沈みやすいということ。水面に接する部分に防水魔法と自動運行魔法がかけられておりハッサドまで運ばれる。ハッサドに到着すると魔法が切れて泥船が沈むので脱出に使えなくなるからだ。
流石に泥船の上までは防水魔法はかけられておらずお湯を出したことで沈没した。実は本当に送るべき物資は泥の中に隠されていることはあまり知られていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます