出生の秘密

088:海の道

「リリスさん。運命の指輪って作れるんですか?」


  ペルシャにもらったピンク色の『ハートブルマニア鉱石』をもらってから、ウタハはそればかりを気にしていた。何回説明しても同じことを聞いてくる。よっぽど『運命の人を見つける指輪』を完成したいようだ。


「海底神殿で採れる鉱石と、ハートブルマニア鉱石を『変質』の力を使って加工していたわ」


 リリスはそう説明していた。今、分かっているのは『ハートブルマニア鉱石』『変質』そして僕の指にある淡いピンク色をしたリング状の指輪のみ。もう一つ使う鉱石が何かわ分からず、錬金の書にも記載は無かった。

 

 ……これ以上の事は実際に見てから考えよう。




「それじゃあ、みんな! 天界を出発して海底神殿を目指そう」


「なぎさちゃん。みんなの指輪をちゃんと作ってあげてね」


「那由姉さんも気になるの?」


「アカリと呼びなさいって言ってるでしょ!  ……まあ……でも…… 気にならないって言ったら嘘になるわね」


 みんな指輪のことで頭がいっぱいのようだ。リリスが作った指輪は僕の指にあるが、ユニ、ウタハ、アカリの指輪が誰を選ぶのかが気になってしまう。

 自分でも、この気持ちが嫉妬からくるものなのか、親心のようなものなのかは分からない。



「ペルシャも指輪の話をしたら作って欲しいと言っていたのじゃ」


「マーハさんも作って欲しいって言っていましたね」


 どこの世界でも女性にとって恋愛は1番の関心ごとなのかもしれない。僕は色の力を集めて目的を達成して、みんなと過ごす風呂屋を早く再開したいと思っている。しかし、指輪のことを考えると、いつかは、みんなが自分の選んだ男性(ひと)家庭を持つ日が来るのだろう。そんなことを考えると少し胸が締め付けられる……



「なぎさー。そろそろ行くわよ。いっつも自分の世界には籠っちゃうんだから~。 ……そんなに色々と考えなくても、みんながなぎさのおかげで『幸せ』を知ることができたの。 幸せを知ったからこそ、自分の思う幸せを続けられる相手をきっと見つけるとと思うの。その時が来たら笑顔で送り出してあげましょう」



「リリスありがとう。  ……でも、また心を読んだねぇ!」



 僕にとっても今は幸せだ。これからも、みんなと共に幸せが続くようにしていきたい。




▽ ▽ ▽

「みなさん、ありがとうございました。霊芝草を確保する事ができました」


 ペリーヌ王女とペルシャ、マーハに出発の挨拶をしていた。この土地をなぎさに譲渡する説明があった。

 今の旅を続けている間は天女族が土地の管理をしてくれるそうだ。いつか、きっと自分の理想とする国をここで作って欲しいと頼まれた。


 天女族は天界への扉を残したまま海底神殿へと居を移す。


「その珠はハーブブルマニア鉱石を加工した転移球です。それを海底神殿の祭壇に置いてください。祭壇に繋がるエネルギーが確保出来たら、ここからの通り道が出来ますので、よろしくお願いします」


 ペリーヌ王女はマーハに、ビー玉大のピンク色の珠を手渡し真っ白な美しい布に包み僕に手渡した。



「その依頼受けさせていただきます」



「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 

 王女たちに挨拶をして海岸へ移動した。透き通るような水面が水平線まで広がり、色とりどりの魚が泳いでいる。熱帯魚に似た魚や、蟹や宿蟹のような生き物、哺乳類のような生き物もいた。


 自然の中を生きる生き物の邪魔にならない場所で、ウタハの召喚魔法により魔法陣が描かれる。ウタハにお願いしたのは、面倒だからではなく、ウタハに魔法陣の書き方を教授してもらったが、全く描くことが出来なかったからだ。


 ウタハが描き、光が灯された召喚魔法陣に、『リヴァイアサン』をイメージした魔力を流していく。


 (…………)


「なぎささん、来ました」



 魔法陣を抜けて姿を見せた肢体は、天に向かって伸びていく。美しく煌く青さが、キラリと光る水しぶきをまといながら、透き通る海へ吸い込まれるように入っていった。



『呼ぶなって言っただろー』


 リヴァイアサンは不機嫌だった。それもそのはず、体内の水が抜けていないのか、竜の体は水膨れしており、顔も浮腫んでいるようにぷっくりと膨らんでいた。



「り、プププ……リバイアサン様……ププ……おひさし……ププぶりでププ」


『ペリーヌ姫か、随分と大きくなったな! と、いうことは海底神殿か!』


「は……ププ、ハイ……プププ。い……今は王女にプププなり……ました」



 その場にいる誰もが笑いを堪えるのに必死だった。どちらかというと、僕たちはこの姿の方が接している時間が長いのでしっくりくる。素晴らしい肢体のリヴァイアサンはイメージの中にだけ存在しているのである。


「リヴァイアサン。そんな体の所悪いけど海底神殿に運んでもらえないかな」



『構わんが…… 前に海底神殿に向かった時に溺れていた者がワシに引っかかったので置いてきたことがあったな』



 ……もしかしてハッサドに渡る途中で見た竜(4話)って、リヴァイアサンだったのか!


「リヴァイアサン、その時に運んだ人って多分僕かもしれないよ」



『おー。そうなのかそうなのか。またこれは不思議な縁だな。ほら、そこ! いい加減に笑うのをやめい!』


「なぎさちゃんなぎさちゃん。止めてープププ……もう、青いツチノコにしか見えなくて笑いが止まらないの!」


『なんという失礼な女だ…… まあ良い、海底神殿に運んでやるからワシに乗るのだ』


 リヴァイアサンのぷっくりとした顔が近づいてくると、より一層の笑いが巻き起こった。近くで見るリヴァイアサンのぷっくりとした顔は威厳がまったく感じられない。


 僕、リリス、ユニ、ウタハ、アカリは順にリヴァイアサンの首に乗っていく。リヴァイアサンの表皮はさすがに美しい。水晶のように透き通る青い鱗の1枚1枚が違った角度で光を反射させ美しさを際立たせていた。思わず、鱗の感触を愉しむように撫でていた。


『それじゃあ、海底神殿に向けて出発するかぞ』


 肢体をうねらせて海底へと潜っていく。見送りに来ていたペリーヌ王女たちは見えなくなるまで手を振ってくれていた。


 天界の海は美しい。澄んだ海は透明度が高く泳いでいる色とりどりの魚がはっきりと見える。警戒心がないのか、逃げる様子もなく優雅に我が物顔で海底を自由に泳いでいる。

 僕たちの回りには空気の膜が張られ、息苦しくもなく濡れる様子もない。静かに海中を進んで行くと、海水に浮かぶ油やゴミが海底に影を作っていたり、水の中を漂うゴミや汚い色の塊もあった。酷いところは、汚れた海水が闇を作り視界が遮られる場所まであった。




 1時間ほど海の旅を楽しんでいると、青さが強調されたような海水が広がる場所に出た。先に見えるは海底に建てられた立派な神殿。海底に沈んだロマン溢れる神殿に外観の美しさも相まって心が躍った。



「海底神殿って思ったより小さいのじゃ」


「ユニちゃん、小さく見えるけど、近づくともっともっと大きく見えるわよー」




 リリスは涙していた。海底神殿で起こった悲しい出来事(外伝リリス編3話)が、頭の中を駆け巡っていたのだろう。そんな姿を見て守ってあげたいと思った。静かに肩を掴んで抱き寄せた。


「なぎさ。 ありがとう、もう大丈夫よ」


 涙を拭いながら笑顔を見せるユニ。その様子をニヤニヤしながら見ているアカリたちがいた。


「ユニたちも混ぜるのじゃー」


「ふたりともいっつもいい雰囲気になってずるいです。今度、私も混ぜて下さいね」


 

 小さく見える海底神殿が近づくにつれて徐々に大きくなっていく。懐かしの場所。僕の旅が始まった場所と言っても過言ではない。


「よし、行こう!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る