081:空へと続く道
「ふぅー」
頂上に作った露天風呂から見える景色を眺めていると、溜め息とともに不安を吹き出せる。松明や魔法の光が夜景を彩るように街道を移動しているのが見える。
「キレイな景色だなぁ。お風呂に浸かってのんびりしていると疲れが吹っ飛ぶなぁ~」
「ほーんとキレイな景色ねぇ。屋敷の回りしか行った事ないから、初めての夜景ね。なぎさちゃんと夜景を見る日がくるなんてねぇ」
「なんか久しぶりにお風呂に入った気がするわ。なぎさが作ってくれないと入れないからねー」
独り言にアカリとリリスが入ってきた……と、いうことは那由姉ちゃんは裸!!?
慌てて振り向くと、リリスの頭にコウモリ姿でアクセサリー化しているアカリがいた。
裸だったら裸だったで慌ててしまうが、コウモリ姿の那由姉さんに、安堵と同時にガッカリもしてしまった。
「なぎさちゃん。今、ガッカリしたでしょ。流石にわたしでも、なぎさちゃんと裸の付き合いをするのはまだ恥ずかしいわ」
アカリは顔だけ人型に戻って照れて見せた。リリスはアカリとのやり取りにニコニコしながら見守っている。
「リリスはアカリと仲良くしていてもニコニコ見ていてくれるよね。今までいろんな所でデーモンアクスが出てきたから……ごにょごにょ」
「なになに~。リリスちゃんが私に嫉妬してくれないから寂しがってるの~」
「い、いや……そんなんじゃないよ……。なんとなく、いつもと反応が違うのを戸惑っているというか……」
「そういうのを嫉妬っていうのよ。私も弟のように可愛がったなぎさちゃんに悪い虫がつくのは嫌だけど、リリスちゃんなら全然いいわね。それに、裸を見せられる関係にまでなってるし」
「アカリって他人のような気がしないのよね。なぎさがアカリと仲良くしているのを見ていると、私のことのように嬉しいの。冷静に言葉だけで考えると、なぎさを人に取られるのは嫌だし、アカリにもとられたくないと思う。でも、ふたりが仲良くしているのを見ていると嬉しくなるのよ」
「何を皆で楽しそうに話しているのじゃー」
「わたしも混ぜて下さいよー」
バッシャーーン ──ユニとウタハが裸でお風呂に飛び込んできた。
「山の頂上で山を崩すゲームをやるのじゃ」とユニとウタハが『ジャンガラ』に集中していたので抜け出してお風呂に入ったが、いつのまにか終了してお風呂に乱入してきたようだ。
ここからいつも通りの騒がしい夜となった。
そんな時、ひとりの女性が小さく決心していた。
「なぎさちゃんは、みんなと裸の付き合いをしているのね。わたしもいつか……」
「姉ちゃん、何か言った?」
「何も言っていないわよ。それと、姉ちゃんじゃなくてアカリね」
闇を照らす月は高い位置まで上り、明かりの少ないこの周辺は、星が掴めそうなほど無数に広がっていた。
「明日は天へとのぼる豆の木を攻略するぞー!」
▽ ▽ ▽
出発準備を整え、天へと伸びる『豆の木』の前にいた。
シンプルにひとりで登ってみるが、数十メートル程行くと靄に突入する。
中は真っ白で視界がゼロになる。豆の木を頼りに登っても登っても靄から出ることは出来なかった。諦めて降り始めると、数十秒で靄から脱出できた。
「なぞは全て解けた!」
…………風がこの場の温かさを奪い去った。
冷めた空気が痛い……
今まで必要な時に忘れていた『緑水』を使う時がとうとうきたのだ。そんな自信満々となった心が、つい有名なセリフを言わせてしまった。
……アカリは知っていても良さそうだが。
「ま……豆の木と言うくらいだからきっと植物じゃないかな。枯れているような色をしているから、『緑水』をかければ復活すると思うんだ」
根本の方から緑水を浴びせていくと、枯れ木の色が新木のキレイな色になるばかりだった。
試しに登ってみるが、結果は変わらず靄を抜けることはできない。
「この木、生きてるよー。なんかエンタだかトレンタ?が分かるて言ってるよー」
いつの間にかアルラウネがリリスの頭に抱きつくように乗っていた。植物同士の会話で聞いたようだ。
「アルラウネさん。私と契約しているのですから私の所に出てきて下さいよぉ。これじゃあ、私が召喚魔法で呼べるのはトレントさんだけじゃないですかー」
言葉を発した人間以外はピンときた。皆がウタハに駆け寄り、今すぐ召喚してと体のいたるところを揺さぶった。ウタハは揺さぶられて目が回りフラフラとへたり込んでしまうが、意識を取り戻すと、立ち上がって真剣な顔つきで召還魔法を描き始めた。
魔法陣を押し広げるように出てくるトレント(46話)。ビルを見上げるように高い召喚獣だ。もしかしたら以前よりも大きくなっている気さえする。
『姉さんー。久しぶりに呼んでくれたんですね。嬉しいっす』
右手で涙を拭う仕草をしつつ左手で豆の木を掴むと、トレントの体が徐々に小さくなった。
ビルの高さから縮んで、人サイズほどにまでなった。
「わぁ。トレントさんが同じ大きさになりましたぁ」
「木人間みたいなのじゃ」
「トレント。この豆の木を登りたいんだけどいい方法はないかな」
「トレントさん。知っていたら教えてください」
『これってウッテーションだよ姉さん。入り口が下にあるはずですよー』
豆の木の根元にかかる土をどけると、確かに小さな扉があった。手を回せば指先が触れる太さの豆の木に、人差し指と親指で作った輪っかほどの扉がある。
「こんなちっちゃな扉にどうやって入るのじゃー」
「ユニちゃん。きっと小さくなる薬があるのよ。それを飲むと小さくなって一生そのままに……とかなのよ」
「こんな小さな扉に入れるなんて小さな種族なのかしらね。でも小さくなったままは困るわねぇ」
「ユニさんに試してもらうのはどうでしょうか。丸薬で女性化出来ますし、元々ちっちゃいですし」
「ウタハ、今さらっとひどいことを言ったのじゃ」
『そんな薬は必要ないです。みんな手をつないでください』
皆が手をつなぐとトレントはウタハの手を握り『豆の木』に触れる。巨大なトレンドが人サイズに縮小したように扉サイズまで縮んでいった。
『ここは塔の中が道になっているんですよ』
トレントは腕を扉の鍵穴に差し込むとひとりでに扉が開かれた。
『さあ入りましょう』
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