007:魔獣との戦い
生きるために、この地で何をやらなければならないのか。
ひとつ目は魔獣と戦うために自分の能力を把握する必要がある。ふたつ目に食事の確保。そして最後に探索する拠点を探さねばならない。
サバイバル経験のない僕が思いつくのはこの程度だ。しかし悲しんではいられない。今まで平和に生きてきた僕が生きる術を全て思いつくことなんてありえない。出来ることを必死にやるだけだ。
まずは拠点探しだ。拠点となりそうな場所をマップを使ってピックアップする。マップにより周辺の確認が容易になったおかげで、この先にある洞穴が拠点として一番良い位置にあることが分かった。
問題は洞穴までの道のりに魔獣が一匹いるのだ。どうやっても避けることができない場所にいるので戦闘は避けられない。
……さてどう対処するか
「しかしまぁ、こんなにゴツゴツした何もない台地。まるで映画の中にいるようだ。こんな状態でなければ心が躍ったんだろう」
「ベヌスは緑の大地だったんだよ。私はアナウスに追われて何があったか分からないけど、本当に美しい大地なんだよ」
ゴツゴツしている岩のおかげで視界が遮られて魔獣から見つかりにくい。こちらからは、マップのおかげで魔獣の位置が手に取るように分かるので見つからないように進んでいく。
拠点に到着する前に考えておく必要がある。食事のことだ。水は自分で出せるしお風呂も入れる。ドリアラの言うことが正しければ『緑水』を飲めば体力や状態異常も回復できる。
火か……
料理をするのに重要な火が無い。さらに周辺は岩だらけで何かを燃やそうにも燃料もないのだ。
食料は魔獣を倒すとして…… 流石に生(なま)の魔獣肉を食べるのは勇気がいる。 そもそも魔獣の肉なんて食べられるのだろうか。
魔獣肉を生で食べて食中毒になって人生終了なんてことになったら死ぬに死ねない。まさかとは思うが、魔獣の眷属(けんぞく)になったりしないよな…… 色々と心配が沸いてくる。
「ふぅ。頭が回らない」
お風呂好きの僕が最近はお風呂に入っていない。こんなに入らないのはいつ以来だろう。
必死過ぎて忘れていたお風呂を思い出したのは、覚悟を決めて心の余裕が出来たからだろうか。
「なぎさはお湯が出せるのだから湯浴みしたらいかがですか」
「そうか。こんな時だからこそお湯に浸かって考えよう」
天に向かって力強いガッツポーズをした。お風呂に入れる嬉しさから顔が緩み緊張感が解けて子供の様にはしゃいだ。
「ふふ」
辺りに、浴槽に使えそうな丁度良い大きさの穴を見つけた。
「ここだ!」
穴の中に水の力を使ってお湯を注ぎ込む。泥船でお湯を出した時よりも勢いよくお湯が出ていた。
「ん!? 前よりもお湯の勢いが強くなってる…… これならすぐ溜まるぞ!」
目を輝かせながらお湯が溜まるのを待つ。 のぼる湯気が温泉感を醸し出し心を弾ませる。
お湯を満たしている間、一人で登った山奥の秘湯を思い出していた。登山装備を揃え、一歩一歩地面の感触を確かめながら登った不安定な道。到着した時の喜び。あの時の気持ちは忘れられない。
思い出に浸っていると、お湯が溢れだしていた。お湯が贅沢に満たされると心も満たされる。颯爽と服を脱ぎ捨てお風呂に飛び込んだ。
バシャーン
「ふぅ~」 ──安堵感から大きなため息が出る──
「気持ちいい」 ──空を見上げてこれまでの事を思い出す──
この世界に転生してから、積み重なった苦労が風化するように心が穏やかになっていくのを感じる。
空を見上げたまま目を瞑りドリアラに話しかけた。
「ねえドリアラ……」
ドリアラの姿を初めて認識した。緑色の髪をした可愛らしい3頭身の女の子。 ……は、裸!? ドリアラがお風呂に入っている姿が脳裏に映し出された。
無理やりこじ開けられる目、この世のものとは思えない程の力が目を見開かせた。
……目玉が飛び出しそうだったと後に語られたとか
「あらいやだ。私の姿が認識できるようになったのね。お風呂に入るときは目を瞑って私の事を考えないで下さいね」
相変わらずゆっくりした口調のドリアラだが威圧感があった。
「は、はい! ごめんなさい」
目を瞑り頭を下げる。 いや、これはわざとじゃない。
ドリアラから伸びた枝で、胸をしめつけられたような強い痛みと苦しみを感じた。
「ご…… ごめんなさい」
お風呂から慌てて上がった。心も体も回復し、ちょっと眼福。トラブルはあったものの満足出来たお風呂であった。
服を着ようと手を伸ばすと服の汚れが目についた。
「がんばったものな……」
残り湯を活用して服を洗うと嘘のように汚れが落ちてキレイになった。
▽ ▽ ▽
途中に闊歩する魔獣との戦いはやはり避けられない。
どう戦うかいくら考えても石しか落ちていないこの地では有効な手段は思いつかない。 石を拾って投げるか叩くかの2択。
一撃死さえなければ『緑水』をがぶ飲みして戦うという作戦もあるが……
そんな単純な作戦で体長1メートル程あるネズミの魔獣『デキマウス』に挑む。
デキマウスに力いっぱい石を投げつけた。
ゴォォォォ……
大きな風を切る音を立てながらデキマウスを襲う。
ドスン!!
石はデキマウスをすり抜け岩にぶつかって粉砕した。ダメージどころか当てることすら出来なかった。
この投擲(とうてき)は僕の居場所をデキマウスに知らせただけになった。
僕の存在に気づいたデキマウスは、ありえないほど瞬間的にトップスピードにのって突進する。 慌てて走り出すも逃げ切れるわけもなく直ぐ追いつかれる。
……やられる!
グシャッ ──アナウスが飛び出しデキマウスを切り裂いた。
ドサッ ──デキマウスの死体が地面に音を立てて崩れ落ちた
守ってくれているのか…… 良く分からない不思議な物体に感謝をしつつデキマウスの解体に挑んだ。
初めての解体作業。素材と肉を切り分ける。目を覆いたくなる場面を繰り返し肉を切り分けた。
「よし! 魔獣の肉を使った食事に挑戦だ。 火は無い。調理用品もない中での料理開始!」
【物語解説】
デキマウス Lv10:体調1メートル前後の巨大なネズミ。
集団で行動する事は少なく、雑食系でなんでも良く食べる。オスとメスが出会うと繁殖活動を行い1~2日程度で出産される。
スキル:突進…1瞬でトップスピードになる。攻撃力の補正はない。
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