066:再会

 竜崎に連れられてコツに向かっている。魔人との戦いで馬は逃げ出し、馬車も壊されてしまったので、コツへ徒歩で帰還していた。


 竜崎は無言で僕の横を歩き続けていた。覇気の塊のような竜崎が気落ちしている様子が珍しいのか、後ろを付いてくる兵士たちはどう接してよいのか分からず、時々声をかけようとするが喉元で言葉が詰まるように下を向き声をかけられないでいた。

 下を向いてパラパラと歩いている兵士たちの間を縫うように、後ろから立派な鎧を身に着けた男が走り寄ってきた。


「初めまして、私は竜崎将軍の配下で部隊長イサヤと申します。此度(こたび)はあなた様の助力で生きてコツに帰ることが出来る事を感謝いたします。やりとりを見ると、あなた様は竜崎将軍のお知り合いとお見受けしますが……」


「はい。以前からの知り合いで『岩谷なぎさ』といいます。改めて領主にもお話ししますが、今回の魔人討伐は竜崎将軍が倒したことにできないでしょうか」


「な、なんと…… 魔人を倒すなど英雄と言われる者でないと出来ない所業でございます。その栄光をいらないと」


「ええ。私は行商をしながら旅をしている身です。戦士として名が売れるのは、邪魔にしかならないのです。それに別働していますが仲間がおります。その仲間にも危害が及ぶようなことも避けたいのです」


「仲間だとっ! 一体誰だ! 聖か天城か!」

 竜崎は仲間という言葉を聞いて食って掛かる勢いで駆け寄って、正面から肩を掴んで揺すりながら聞いてきた。


「いや。旅行をしていた人じゃないよ。この世界に来てから出会ったこの世界の人たちさ」


「そうか……」

 竜崎は掴んでいた肩を離し、何かを考えるように下を向き歩き出した。


「まあまあ。討伐の件もありますし、積もる話はコツについてから領主様も交えてお話ししましょう。そうそう。コツの領主が最近変わりましてな。流行り病を押さえ込んだ『聖女様』が就いてくださったのだ。素晴らしいお方ですので安心してください。 ……それにしても竜崎将軍があそこまで取り乱すなんて珍しいですな」


(……聖女様。ユッタの喫茶店で聞いた噂通りだ。一体どんな人なのだろう)




 ▽ ▽ ▽

 黄金の稲穂が所狭しと美しく実る畑を抜けるとコツが見える。野菜や果物などの作物が街を取り囲むように育てられ、田舎のような景観だが繁栄を感じさせるような土地であった。


 コツの門扉を抜けて街に入ると、1人の女性が髪を振り乱して駆け寄ってきた。


 ……ん?


「竜崎さん大丈夫!! 伝令から魔人が現れて討伐隊と戦いが始まったと報告があったの。無事で帰ってくるか心配で心配で……」

 

 涙をこぼしながら竜崎に抱きついて目をじっと見ている女性……


「せん……せ……い?」


 服装と髪型が変わっていたせいか、すぐに先生だとは分からなかった。以前より髪が伸びたせいか、後ろで一本に縛っているいかにも聖女という服装をした小柄な女性になっていた。


「なぎさ殿。我がコツの領主『蒔田なごみ』様です」


「えっ!? え!? なぎさくん……なんでここに……えっ 竜崎さん……どういうこと?」


 僕と先生は指を指しあって変な言葉を発しながら混乱していた。はたから見ると挙動不審者に見えたに違いない


「とりあえず、屋敷に戻るぞ」


 僕と先生は竜崎に手首を掴まれて引っ張られるように屋敷に連れていかれた。


「イサヤ殿、後のことは頼みます。私は2人と大事な話があるので、屋敷に戻らせてもらいます」


 竜崎に引っ張られたまま屋敷までの道のりを前のめりの早歩きになって連れて行かれた。先生も引っ張られて変ないたがニコニコしている。そのまま屋敷の一室に連れていかれいきなり竜崎の質問が飛んできた。


「なぎさ。お前は一体何者だ! 私じゃ手も足も出なかった魔人を倒すなんて」


「さっき言った通り僕は仲間と旅をしているだけだ。名を売れて狙われる事だけは避けたい。魔人は竜崎が退けたことにして欲しい」


「ふざけるな! そんなことできるわけないだろ!」


ドゴンッ!


 興奮している竜崎はテーブルを叩き割ってしまった。先生は椅子から立ち上がって、たしなめるように竜崎の背中をポンポンして落ち着かせた。


「まあまあ竜崎さん落ち着いて。これじゃあ全然話が分かりませんよ。なぎささんからこれまでの話を聞かせてもらっても良いかしら」


「ええ。先生に嘘はつきたくないので最初に断っておきますが、話せない部分は割愛させていただきます」


「分かったわ。それでいいから話してちょうだい」


 僕の転生先は女湯だった。その場で取り押さえられ島流しの罰を受けたが、とある人物の協力で島から脱出することが出来たこと。


 知り合った仲間とメイシンガでお風呂屋を始めたが、貴族の策略で店が潰され旅に出るようになったこと。


 スカイブ帝国で、勇者パーティーと呼ばれる聖たちと仲違いをして帝国を出ることになったこと。


 バチ王国で、島流しを助けてくれた恩人に恩を返したいと、旅を続けていること。


 今回は、旅で知り合った仲間の住む『ベオカ』がタマサイ国王によって滅ぼされようとしているのを救うために動いていることを説明した。


 先生もこれまでの状況を簡単に話してくれた。スカイブ帝国に召喚され、迷宮の秘宝を探す事を頼まれたが、日々接する中で帝国の考え方に不信を抱いてしまい、みんなに相談したら、聖君に帝国の裏切り者として追放されてしまった。

 帝国を出るとき竜崎さんが付いてきてくれたので、ふたり旅をしている時にヨハマ王子と出会って、成り行きでいまの立場にいるとの事であった。


「先生にお願いがあってコツまで来たんだ。さっき話したベオカ民が滅亡の危機に瀕している。サムゲン大森林をコツまで広げて村を作りたいと考えているんだ」


「コツに新しい村を…… 私の一存では決められないから──」



 コンッ コンッ


「入るぞっ」


 扉を開けて入ってきたのは、アールド王子を先頭にリリスとユニが入ってきた。

 2人は部屋に入るや否や、ロケットのように飛びついてきた。


「ふたりとも無事で良かった。アールド王子をここまで連れてこられたんだね」


「(リ)当然です」 「(ユ)当たり前なのじゃ」  二人の声が重なった。

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