069:新しい村
コツに戻る前に、拠点にしたログハウスと訓練場を更地にしておく必要がある。訓練場に配置していた『避けるだけのゴーレム』は、竜崎がどうしても欲しいというので、コツにある屋敷の訓練場に地下室を造って配置することを約束した。
コツに戻る頃には、今まで笑顔を見せていなかった竜崎が嘘のようににこやかだった。今まで背負っていた負担が少し軽くなったのかもしれない。
コツの兵士たちもそんな竜崎の変化に驚きを隠せなかった。が、もともとの人気に加え、今の柔和な将軍に心を射止められた者も多くファンが増えたようだ。
そしてとうとう作戦の最終局面を迎えた。コツから『新しい村』へベオカ民の移動をさせていく。移動中にタマサイに動向を握られている可能性があるので、気を引き締めて臨まなくてはらない。もし王子たちが関わっている事がバレると、国交問題に発展するので、ヨハマ関係者は普段通りの生活をしてもらった。
移動は、僕とベオカ民の信頼を得ているウタハで担当する。その移動中に村長がとんでもないことをお願いしてきたのだ。
「なぎささん。『新しい村』の村名を決めてもらえないだろうか」
村名…… どう名付けて良いものなのか分からない。なにより僕にはネーミングセンスがない! そんな中で浮かんだ村名は『コッカオ』。【(コツ+ベオカ)÷2】といった単純なものだが、ベオカ民は喜んでくれた。
「それとなぎささん。コッカオ村長になってもらえないか」
この話は受ける事は出来ない。僕たちには目的がある。この村なら平和に暮らせそうだが、今は色の力を集めてこの世界の均衡が保たれるようにしたい。
「そうか……それは残念だ。それなら勝手を言って申し訳ないが、自分たちの力で村を復興していきたいんだ」
「もちろんです。もともとそのつもりでいました」
「なぎささん。ありがとう。本当にありがとう。コッカオの代表としてお礼を言わせてほしい」
そしてベオカは収入源を霊芝草を原料にしたポーションをタマサイに売却する事で得ていた。コッカオとなって収入をどうしていくか考えていたら、竜崎からコツで買い取ると提案があったので、村長と相談してお願いした。
効果の高いポーションの入手ルートは、どの国も喉から手が出るほど欲しいそうで、お互いがWin-Winの関係となる。
製法は聞き出さない約束をしていたが、アーガス王子はアルラウネといつのまにかに仲良くなって、製法を教えてもらっていた。
それなら秘密にする必要はないかと思ったが、先生から他国によるアルラウネ狩りが横行する可能性があるので秘密のままにすることになった。
「それでなぎさくん。君がコツの領主になる気はない?」
先生はいったい何を言い出すんだ。コッカオ村長を断ったばかりだというのに…… 先生は僕の力やコッカオ民との関係性を踏まえて譲った方が良いのじゃないかと考えたらしい。
「蒔田君。抜け駆けは許さんぞ! それなら私の姉上と結婚して時期国王となるのはどうかね。君になら次期国王の座を譲っても良いぞ」
リリスたちの目つきが変わった。3人はアーガス王子を睨んでいるが、気にしていないのか気づいていないのかグイグイと推してくる。
「ちょっと待ってください。僕にはやらなくてはならないことがあるんです。メタフ村長にしても、蒔田先生にしても、アーガス王子にしても、今のポジションの適任だと思います。僕にはみんなのように人をまとめ上げる人望は持ち合わせていません。だからその話しはお断わりします」
「大丈夫だなぎさ。みんな分かってる。それよりも私との約束を忘れるんじゃないぞ。この『弓剣』を使いこなせるようになったら絶対に戦ってもらうからな。その後はここでわたしと……」
リリスたちの顔を見回して「いや、なんでもない……訓練してくる」そう言い残してこの場を去って行った。
僕にはもう一つやらなければない大事なことがある。
それは……ベオカの破壊
ベオカ民がタマサイ王国の使者から逃げたことを隠蔽するために、村を破壊されて仕方なく逃げたと思ってもらう必要がある。
このことは国交問題を回避するため、ヨハマ連邦関係者には伏せてコッカオ民と打合せた上で実施した。
作戦として、2日後に到着するタマサイ王国の使者に、ベオカが襲われて村民が逃げ出してしまった所を見せる。これは非常に危険な作戦である。
多人数で動くとそれだけリスクが増すので、1人でベオカに向かった。リリスたちは約束が違うと怒っていたが、作戦内容とリスクをしっかりと説明して納得してもらう。
彼女たちには僕たちが旅に出た後も国を護れるように、蒔田先生と竜崎の訓練をお願いした。
どこから聞きつけたのか、その訓練を自分たちも受けさせてほしいとアールド王子とミルド王子も駆けつけた。竜崎将軍にいま以上に力の差を付けられては困るからしい。
約束の日まで『変質』を使って衣類や仮面を作成。他にはカツラや小物、体格を偽装する装備も用意した。使者には絶対に僕だとバレてはならない。
準備の合間に訓練を眺めていると、蒔田先生にエンハンスの適正を感じた。実際に試してもらうと、一時的な魔法付与や身体強化、属性強化の魔法を扱う事が出来た。
「私にこんな能力が…… 回復と光魔法だけでなく強化もできるなんて今以上にコツを護れるわね」
「素晴らしいです蒔田殿。これでコツも安泰ですな。しかし困った事があったらいつでもこのミルドを呼んで下さい」
適性を感じた理由は、たまたま読んでいた青魔人の宮殿にあった本。エンハンスの魔力の特徴と先生の特徴が一致していることに気づいたからだ。
人の能力を一時的に高めるエンハンス魔法。先生にピッタリの能力だと思う。ただ、回復特化ににエンハンス魔法の聖女様って一番先に狙われそうで心配ではある。
竜崎は、弓剣の扱いに慣れたようで、ずいぶんと動きが良くなっていた。接近戦オンリーだったのが、弓を使った遠距離攻撃も視野に入れて遊撃しつつ、多少使える回復魔法も活用した戦略を組んでいるようだ。
アーガス王子は両手剣、ミルド王子は剣と盾を使う戦闘スタイル。この訓練によって、かなりの戦闘力が底上げされたようだ。
コッサオの方は復興がだいぶ進み、畑の霊芝草も収穫できるほど成長していた。元々がサムゲン大森林に自生する薬草なので、森林を広げた時に自生した薬草を採取して活用したようである。
そしてこれから僕の戦いが始まる……
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