071:目指す先は……【第5章完】

「リリス、ユニ、ウタハ出発の準備をするぞ」


 明るい僕の声を聞いたリリスたちは涙ぐんだ。(……ゴメン心配かけて)


「ゴメン。みんな心配かけて…… もう大丈夫」


 チラリと竜崎を見るとあふれんばかりの笑顔を返してくれた。リリスは何かを察したのか腕を組んで掴み、竜崎のいる反対側に引っ張られた。


「あとでちゃんと説明してもらいますからね」


 笑顔だった。天使のような笑顔だった。サキュバスという種族がイメージする人物像とかけ離れている。どうしても人を先入観で見てしまうことは注意しなくてはならない。


 サキュバスのイメージ……淫魔、ダーク、夢魔 

 リリスのイメージ……品行方正、笑顔、魔法力が高い


 ユニコーンのイメージ……美しい、幻想的、角が薬、救世主

 ユニのイメージ……騒がしい、角が武器化、子供っぽい


 ドライアドのイメージ……おしとやか、怒ると怖い、どこからともなく現れる

 ウタハのイメージ……丁寧、感受性が高い、子犬のよう


 みんなが特殊なのか、この世界の種族適性に合致しているのか分からないが、機会があったらそれぞれの種族にどんな人がいるのか会ってみたい。



 ヨハマ連邦コツから向かう先は『マーマー共和国』。海底神殿に再び行くための方法を調べるためだ。


──(回想)──

「ええ。そうです。長老から聞いたことがあります。マーマー共和国に住むある種族が、サキュバス族の前の守護者だったそうです。いつでも戻ってこれるように、その種族のみ移動方法が伝わっているようです」

─ ─ ─ ─


 この言葉の真偽は分からないが、実際に行って調べてみない事には始まらない。もしかしたら、マーマー共和国で色の力についても何か分かるかもしれない。



 アールドとミルドの両王子は首都に戻っている。先生に出発の挨拶をするために屋敷に向かった。


 屋敷の入口まで来ると竜崎は真剣な眼差しで見つめてきた。


「なぎさ勝負よ…… と、言いたいところだけど。戻ってくる約束を果たしてからにしましょう。今のあたしにはあなたに太刀打ちできないのは分かってる。これから一生懸命鍛錬を積んでこの街の兵士たちと共に強くなってみせるわ!」


「しっしっし。なぎさに勝つには私に勝てないとダメなのじゃ。ユニがこの姿で戦ってあげるのじゃ」


「ユニさん。もしかして角を使うつもりですか」


「そうなのじゃ。竜のねーちゃんに少しくらいは私たちのことを知ってもらいたいのじゃ」


「ユニさん。その挑戦受けますわ」


「心配しなくても丸薬は使わないから安心するのじゃ」


「丸薬?なんのことか分かりませんが、なぎさからもらった武器を使って全力で相手させてもらいます」


 領主の屋敷にある訓練所で竜崎とユニの模擬戦をすることになった。ルールは相手に『まいった』させれば勝ちというシンプルなものだ。


 訓練場で対峙するユニと竜崎。観客は僕とリリス、ウタハ、先生の4人。身体強化をしていないユニと竜崎の戦闘力はほぼ同等では無いかと思う。


 ユニは角を武器化する。まばゆく光る角、質量を増して武器に変形していく。斧? 刃が盾の形をした巨大な異形の斧に変形する。


「なによその角は。武器に変形する角なんて聞いたことないわ」


「これがユニの特技なのじゃ」

 ──ユニが斧を振り上げ飛び掛かった。竜崎は剣を上段に構えて斧を受け止めるが、威力の高さから地面が凹むほどの衝撃を受ける。


「これからなのじゃ」

 左手で刃の中央にある取っ手を掴み、右手で柄を引き抜くと剣が現れた。そのまま竜崎の脇に切りつける。

 竜崎が剣を弓モードに変形させて、刃の盾を受けながら剣の方にスライドさせて弓の右端で盾を、左端で剣を受け止めた。


 そのままユニは後ろに間合いをとる。追撃するように放たれた竜崎の矢。


 ユニは盾で矢を受け流し、右足で地面を蹴って一気に間合いを詰める。

 竜崎はユニを狙って矢を放つが盾に弾かれてしまう。


 ユニは盾を目隠しに剣を突き出す。盾を横にずらした後ろから剣の尖端が竜崎の左肩に迫る。寸前で竜崎は屈んで避けるが、刃が肩の皮1枚分の傷を作る。

 ユニは前方への勢いを利用して武器化を解き、両手を竜崎の頭に乗せて跳び箱のように反対側に跳んだ。


 空中で回転しながら角を弓に変形させ速射で5本の矢を放つと、竜崎も5本の矢を放って全てを撃ち落とす。

 続けて5本射る竜崎。4本は空中にいるユニを狙い、最後の一本だけスピードを変えて着地を狙う。

 ユニは5本打ち込んだのは分かっていたが、4本の矢が繋がるようにスピード調整されていたので、1本の矢がが4本の矢の影に隠れ位置の把握が出来なかった。4本は速射で撃ち落としたが着地した瞬間に、左脚に皮1枚分の傷を作った。


「なかなかやるのじゃ」


「あなたもなかなかやりますね」


「ストップなのです!」


 ウタハがふたりの間に割って入った。体を大の字にして両手の平を二人に向けて交互に見つめる。


「そうだね。いい勝負が出来たし、これで今日の所は終わりにしようか。2人ともすごい戦いだったね」


 竜崎の左肩を、ユニの右脚を緑水で癒した。……ユニが右手に丸薬を持っている。


「ユニ、丸薬は使わないって言ってなかったけ」


「こ、これはじゃな…… つい、ついなのじゃ」


「さっきも言ってたけど、『丸薬』ってなんなの?」


「丸薬はな、なぎさ特製の丸薬なのじゃ。ユニの本当の力を引き出す丸薬なのじゃ。丸薬を飲めば戦乙女にも負けんのじゃぞ」


「ユニさん戦乙女って言わないでくださいよー」


「竜崎さん。戦乙女ってスカイブ帝国のトーナメントの噂で聞きませんでしたっけ」


「先生。そういえば、1人でトーナメントを勝ち抜いた女性が『戦乙女』の称号をもらったって…… そういえば、ウタハって…… あなたたちだったのね」


 こんな所までトーナメントの噂が流れていたようだ。噂の流れるスピードが神がかっている……。いや、この世界の神は見えない力でなにかしていそうで怖い。



 ヨハマ連邦でやるべきことはやった。さらなる色の力を集めるべく次なる国に向かうのであった。


 秘境と言われるマーマー共和国。一体どんな所なのだろう……

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