025:貴族の陰謀

 休日も終わりに近づき1日の最後はやっぱりお風呂。


 ユニはリリスにお願いして僕は男湯でゆっくりとお風呂に浸かっていた。外湯で空を見上げて入るのがお気に入りだ。


 今日は1日大変だった。エリファスとの戦いで自分の力不足を知ることが出来た。


 物理攻撃。確かに僕は使える物理攻撃の手段がない。きっと何らかの手段があるはずだ……今後、色々と考えてみる必要がある。

 ヘルメスの洞窟から何冊か持ってきた本の中に有効なものがあるかもしれない。


 今出来ることは、剣術の鍛錬を積むことだ。ユニに教えてもらおうかな…………zzz zzz



「……ん~むにゃむにゃ……なんか気持ちいいな」

 目を開けるとリリスの顔が目の前に見えた。はっ裸…… しかも膝枕されてる……


 サー


 一気に血の気が引いた。


 僕も裸だ……裸のリリスに裸の僕が膝枕されている……くぁwせdrftgyふじこlp


「なぎさ大丈夫。来てみたら寝ちゃってたからビックリしたよ。ユニに手伝ってもらってここまで運んだの」


 慌てて起き上ってお湯の中に姿を隠す。 ボコボコ……潜った所から口から出た気泡がのぼった。


「ユニはどうしたの?」

 顔を出してリリスに聞いた。


「ユニなら後ろ。大の字になって浮かんでるよ。お湯に浮かんで空を見上げるのが気に入ったみたい。なんか【子供】が出来たみたいね」

 家族か。こんな幸せが続けば良いと思う。しかし、家族といっても『母:リリス14歳(地球年齢22歳) 子:ユニ11歳(地球年齢18歳) 父:なぎさ15歳(地球年齢25歳)』 ……いいのかこれで。


 まあ、細かい……細かくはないけど気にしない。


 僕はみんなを護っていきたい! この気持ちが大きくなるばかりだ。



▽ ▽ ▽

 ユニを加え『ふろやマウントフジ』も順調に客足が伸びている。


 午前中は客足も少なかったので、リリスとユニにお店を任せて、僕は素材集めに町の外に出ることにした。


 最近は素材集めなど魔獣と戦うときに近接武器を使って少しでも慣れるようにしている。


 錬金術師ヘルメスの洞窟で素材にした超硬いドラグナイト鉱石を使った刀身。魔人エリファスのいた鉱山で発見したミスリルで柄と鞘を作った。

 軽くて丈夫。信じられない強度のある武器だ。素材を一体化して『変質』したため鍔(つば)の無いスラっとした美しく弧を描く刀となった。


 この刀と同様の素材で、薙刀、剣、槍、盾を作ったがしっくりこなかった。


 色々考えて自分の武器としたのは特殊な刀である。


 刀の素材は一緒だが、刀身を『変質』する時に自分が振るうことの出来る重さを考え、普段は短く『変質』しておく。実際に使うときに相手に合わせて『変質』する事で長さを変幻自在に変えられるようにした。

 どんなに伸ばしても重さは変わらない。長くし過ぎると振るい難くなるし強度も弱まってしまうのだ。

 この『変質』する刀を質量を変えて右手用(ライカ)と左手用(レイカ)の2本を作り二刀流も視野にいれた。


 水の力はゼリー状にも出来た。ゼリーの粘度もうまくコントロールすればグミ位までは固くできる。


 更に自分で出した水を吸収できることを踏まえて、物質を硬いゼリーで包んだものを吸収してみた。

 最初は怖かった……元々この魔法は、どこから出てどこに吸収されるのか分からなかったので、体内に入ってしまった場合は大変なことになりかねない。


 危険の少ない井戸水から初めて徐々に危ないものを試していく。結果、吸収したもが素材情報として記録され放出した水を『変性』する事で放出が出来るようになった。

 しかし吸収した分のみ『変性』が出来る。ゴムであればゴム弾。鉄であれば鉄砲みたく使うことが出来るのだ。 吸収した分以上を使おうとすると水のまま放出された。


 ちなみに、生命体だけは怖くて吸収しなかった……

 ──合成獣(キメラ)とか体から魔獣の顔だけ出たりしたら怖すぎる。


 『変性』と『変質』に関しては魔法ではなくスキルとなり、魔法の水を物質に変えれば物理攻撃として認識されるようだ。


 夢中になって色々と試していたら家に帰るのが遅くなり、到着する頃には真っ暗になっていた。


 リリスとユニが出迎えてくれたが、2人の顔は暗かった。


「ただいま。今日は何かあったの?」


「午後に来たお客さんがお風呂に入ったの。お風呂の中でこのお湯は普通のお湯ではない『人々の心を奪う悪魔のお湯だ!』と言って逃げるように帰っていったの」

「その後から客足がぷっつりと途絶えてしまい、外を見回すと、こちらに向かう道を貴族とその仲間たちが塞いで、ふろやに来る客を追い払っているの」


「ちょっと調べてくる。しっかり戸締りして僕が返ってくるまで絶対に開けちゃだめだよ」

 僕はふろやを飛び出した。向かった先は酒場。こういうことは絶対噂になっていると思ったからだ。フードをかぶり目立たないように窓際の席に座り、聞き耳を立てた。


『あの有名なふろや、悪魔の水を使ってるんだってよ』

『そういえば、あの風呂に入ると傷は良くなるし体調も良くなるんだよな。あれが悪魔の力か……』

『……その代償に何か取られてるのかもな。そのうちぽっくり命まで吸われたりな』

『あー怖い怖い』


『湯浴み場の貴族が郊外にあるふろやに行ったんだってよ』

『ああ、あの貴族か。偵察か?』

『いや、同じ湯浴みをする店として協力しようとしたみたいよ』

『おーさすがは男爵様だな』

『しかし、風呂に入って驚愕したんだって。魂が吸い取られる悪魔の水だって逃げ出してきたんだとよ』


 そんな噂が渦巻いていた。ふろやに帰る時にも町の噂が耳に入るほど広がっていた。

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