073:君は誰?
ヨハマ連邦からマーマー共和国の国境まで到着した。目の前には国と国を繋ぐ砦があるが砦は崩れ落ち、何者かと戦ったような激しい爪痕が残されている。そこには立派な砦があったのだろう。
「よう。お前さんたちマーマーに行きたいのか。悪いことは言わない、マーマーに行くならタマサイから入った方がいいぞ」
「ヨハマ側とタマサイ側で何かあるのですか」
「ああ。もう何百年か前にネメアという強力な魔物にこの砦が襲われたことがあってな。砦の傷はその時に出来たものだよ。戦いで沢山の人が命を落としてしまい、この先に墓地を作って供養してるんだよ。砦の修繕も進めているんだが、ポンティアナック が来たって噂が絶えなくてこのまんまだよ」
「ポンティアナック って何ですか」
「吸血幽霊だよ。人間を襲って体中の血を全て吸い取る幽霊だ。墓地で赤ん坊の泣き声が聞こえたら気を付けな」
「な、なぎささん。こ、怖いのですぅ」
「なぎさ…… また幽霊の話なのじゃ…… タマサイ側から入った方がいいのじゃ……」
「ユニ、ウタハ。ゆゆゆ幽霊が出てもななぎさがいればだだだ大丈夫ですよぉぉ」
大丈夫そうには全く見えないが…… でも言葉だけでも信用してもらってありがたい。タマサイ王国側から入るためにはサムゲン大森林をぐるっと回るように迂回しなくてはならない。そうなると廃墟となったベオカを通る必要があり、かなりの日数を要してしまう。
「リリスが大丈夫って言ってくれるし、僕がみんなをしっかり護るからこのまま行ってみよう」
「おっ。このまま行くのかい。止めやしないがポンティアナック だけには気を付けなよ。街道を道なりに進めば『ハルサン』という町があるからそこまでいけば大丈夫だ。絶対に街道を外れるんじゃないぞ」
男は砦の奥へと入っていった。しばらく待つと重々しい音と共に朽ちた砦に似合わない赤く立派な扉が開く。その扉を抜けてマーマー共和国に入った。
扉を抜けると墓地が広がり、区画などはなく盛られた山々に十字架や石碑が刺さっているだけの簡易な墓が並ぶ。
墓地を抜けるように敷かれた街道を進んで行くと、思いのほか町までの道のりは遠く、既に日は落ちて景色は赤く染まっていた。
この時間になるとコウモリが元気に飛び始め、真夜中になる前になんとか墓地を抜けたいとユニが急いで馬車を走らせるが、遥か先まで続く墓地が希望を打ち砕く。
暗くなるにつれて草木の影や風の音さえも恐怖に感じてしまう。
太陽が沈むと、辺りはすっかり闇に包まれ、ユニはあまりの恐怖から進むことも戻ることもできないまでになっていた。
「もう無理なのじゃー 怖いのじゃー」
ユニはユニコーン化を解いて震えていた。『燃料湧泉』を使って明かりを灯すと、真っ赤な灯りが街道の両端にある十字架や石碑で建てられたらお墓を優しく照らす。よく見ると荒らされてしまっている墓も多かった。
動くもの全てが幽霊に見えるほどの恐怖を感じているリリスたち3人がしがみついてくる。
……ギ…… ギャ……ン ギャン……
どこからともなく音が聞こえてくる……
ギャーン…… ギャーン…… 近づいてくる
ポワッとした黄色く丸い明るい光が音と共に近づいてきた。
『赤ん坊…… 吸血幽霊…… ポンティアナック』みんなの頭はこれでいっぱいだったんだろう。ユニは荷車に飛び乗りウタハは指をさして口をパクパクさせている。
リリスは既にデモンズアクスを握っていたが、リリスとウタハの2人を制止するように下がらせて前へでる。
近づいて来たのは女性。ゴスロリ趣味のすずらん型の真っ黒な傘を担ぎ、石突きの先に黄色く灯った灯りが光っている。暗くて顔はうっすらとしか見えないが、とても長いツインテールの髪型がとても美しく先がカールしているのが分かった。
「こんな夜更けにどうしましたか。ここは吸血鬼が出没しますので、早く町に向かった方が良いですよ」
「町に向かう途中に馬が逃げてしまいまして…… 連れが怖がって立ち往生をしていました」
「警戒しなくても大丈夫ですよ。先ほどから見ておりました。荷車に入った女の子はユニコーンなんでしょ。墓荒らしと間違えられる前に早く………………!!。あ、あなたは『なぎさ』という名前ではないですか?」
「はい『岩谷なぎさ』です。僕のこと知っているんですか」
「なぎさちゃん!」
「……そっ、その呼び方は…… 那由姉ちゃん……」
その女性はロケットのように抱きついてきた。急なできごとに呆気にとられてしまう…… 何がなんだかさっぱり分からず混乱してしまった。
ユニは何事かとばかりに荷車から顔を覗かせ、ウタハはパクパクしたまま指をさしている。リリスは…… なぜか涙を流していた。
「こんな墓地の真ん中で話し込むのも変だから着いてらっしゃい」
墓地という言葉にユニが反応して荷車の奥に入ってしまった。ウタハも追いかけるように荷車に逃げ入った。
「みんな行くよ」
荷車の奥に隠れている2人を降ろして、荷車をジゲンフォのバックにしまった。幼なじみと会えた嬉しさから人前で使わないようにしていたことをすっかり忘れてしまっていた。
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