現状を把握してみた
さて、現状を把握しよう。問題はいくつかある。まず凶作で食料が不足している。そして、税が払えない住民に対しては、無理やり取り立てることはしなかったそうだ。これもまずい。当面の資金がないからだ。
そしてトルネさんと帳簿を確認したらまともなものは5年前からなかった。
「うーん、これは……」
「ひどいものですねえ……」
もはや言葉もない。内政管理をしていた家臣が蓄電したという。その際に金庫からお金がごっそり行ったとかで、追手は掛けているが発見は難しいというかそれがすでに5年前である。
「お義父さん、なんでその人逃げたんでしょうね?」
「むう?」
「いろいろ話聞きましたが、給料安すぎます。それで人員も増やさない。朝から晩まで働いていたそうですね」
「それがどうかしたか?」
「バルドさん、キレてイイかな?」
「……良いと思うぞ?」
目が笑っていない俺たちを見てお義父さんもまずいと直感的に理解したのだろう。
「いやしかし、命がけで戦う兵や騎士たちよりも待遇をよくしては……」
「役割分担です。彼らの働きを支えるのは誰ですか?」
「うぬ……その通りだな」
とりあえず経理や内政が出来そうな人材を探すことになった。それは良いとして、現状はどうしようもない。
食料は当面キャラバンが運んできているし、支店を設置したのでそこから供給はできるだろう。ただし、広大な伯爵領すべてをまかなうことはできない。もっと支店を建てればいいのかもしれないが、こっちの資金が尽きるし、そもそも店を任せられる人がいない。
支店の店長にはアベル義兄さんをそのまま任命した。領内からよさげな人が居れば雇っていいとも伝えている。
支店の運営を開始したあたりでシステム音が響いた。
『支店の設立を確認いたしました。これよりチェーン運営メニューを開放します』
いろいろシステムが解放された。全体売り上げの閲覧、売れ筋商品の抽出、地域ごとの販売指数などだ。
ほか、チェーン全体の資金管理などのリソースも確認できるようになった。
「アベルさん、商品のチェックを行ってください。食品を多めに在庫してください。生鮮品以外は多少多めでも構いません」
「承知しました」
販売には手形を切ってもらうことにした。1日の売り上げを〆て、その金額をそのまま帳簿に記載する。それを1月ごとに請求することにした。
トルネさんが率いてきたキャラバンは、最近めきめきと商売についての知識を吸収しているリザードマン戦士のリーザさんが仕切っている。とりあえず領都での活動は彼らに任せて、周辺の視察に出ることにした。
「いやあ、彼女は腕っぷしもいいですが、計算も速いし、物覚えがいいんですよね」
「それは良いですね」
移動用の馬車でトルネさんと話しながら移動する。周辺にはカイン義兄さんとバルドさんが騎士6名を率いて護衛してくれていた。
結果は惨憺たるものだった。兵や騎士にまともに給料が出なくなり、やってられるかと任を離れるものが続出し、治安が乱れていた。
モンスターがはびこり、農地が荒らされる。物流が滞る。そうしてどんどん負のスパイラルに陥っていく。
「思っていた以上にひどいな……」
「私がいない間にこんなことになっていたとは、不覚じゃ」
「いや、バルドさんのせいじゃないでしょう」
「それでもこの地は私の故郷ゆえにな。領主の一族として忸怩たるものがあるのじゃ……」
しょんぼりしているバルドさんを見ていると胸が痛む。バルドさんは笑っていないとね。だから彼女の笑顔を曇らせるものはあらゆる手段をもって排除する!
袖を引っ張られたので隣を見ると顔を真っ赤にしたバルドさんと目が合う。
「えっと……じゃな。またいろいろと駄々漏れになっておってじゃな……」
「あれま」
今更ではあるし、もう婚約したんだからバルドさんが好きという感情はあけっぴろげにしているつもりだったんだけどな。
「義弟殿。妹を大事に想ってくれてありがとう。貴公にならバルドを託してまったく心配は要らんと確信したぞ!」
カイン義兄さんがいい笑顔を浮かべる。ああ、確かに兄妹だ。笑いかたがそっくりだし。実際にはいとこなんだろうけど、家族の絆が感じられた。
「父もただ領内を放置していたわけではないのだ。領地のはずれに強大な魔物が住み着いて、それと戦っていた」
「なるほど、そういう事情があったんですね」
「頑固だからな、その理由すら言い訳のように感じていたのだろうよ」
「うん、わかりました。どこまでできるかわかりませんが、頑張ってみます!」
「なに、俺や父の事は良い。バルドのために頑張ってくれればな」
ひとまずギルドの支部に行った。コンビニハヤシとタルーン商会がスポンサーとなり街道の警備とモンスターの駆除を依頼することにした。
素材買取も申し出て、トルネさんとギルドマスターが視線が火花を散らしそうな勢いで商談中である。
「むむむ、ではこのお値段で……?」
「いやいや、ここはこれでどうでしょう」
二人ともすごくにこやかな表情だが目が笑っていない。互いの表情を読み取ろうと一瞬たりとも目をそらさない。
まあ、あれだ。ここでかかった経費はヴァラキア伯爵家に請求するし、嫁さん(仮)の実家だからと手心を加えることはしない。商売は誠実に行きたいのです。情実が不要とは言わないけども、ねえ。
こうしてヴァラキア領復興というか、村おこしが始まったのだ。
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