レベルアップしてました

 王都におけるオープニングイベントを終えて本店スタッフとともに帰路に就いた。かなりの売り上げと利益が出たため、彼らには相応のボーナスを出している。というか、いつぞやの神の雫代金分はすでに返済が終わっているが彼らはうちで働いてくれていたのである。


「だって下手な商家よりも給料いいし」

「店長最強ですし」

「えっと……3号さんにいかがですか?」

「レナ、それは地雷だよ?」

 うふふふふふと笑みを浮かべるバルドが短剣を抜こうとしている。これも先日仕入れたものだ。氷魔法が付与されているこおりのやいばである。

「いえいえ、冗談ですよー」

「ならいい。あと旦那様、浮気は許さないのじゃ」

「店長愛されてますねー」

 バルドが無言で抱き着いてくる。何この可愛い生き物。


 トルネさんのキャラバンも王都で仕入れた品を満載している。丸顔髭面親父は満面の笑みだ。ラグランの市で売るだけでもかなりの利益が出ることだろう。そして事前にジョゼフさんあてに使者を走らせている。おそらくそっち方面で熾烈な買い付け競争が始まることだろう。


「オークション?」

 トルネさんがキョトンとしている。

「数のある商品は普通に利益載せて販売することにして、一品ものの高級品は、一番の高値を付けた人に販売するんですよ」

「なるほど、セリと同じですね」

「うまくすれば貴族とかにも伝手ができますよ」

「それはいい!」

 トルネさんは有頂天になっている。上がる利益を想像しているに違いない。ただ今回の事はラッキーではなく、彼が長年積み上げてきたものが実を結んだにすぎない。


 さて、ラグラン関を抜ければ懐かしい本店はすぐそばである。レベルアップで原型保ってないけど懐かしいものは懐かしいのである。そして建物が見えてきた。そこでふと違和感を覚える。こんなところから見えてたっけ??

 そして本店にたどり着くと……二階建てになってた。鍵を開けて建物に入る。当然だが店内は無人である。内部をチェックすると、バックヤードが一部2階に移設されており、1階の元バックヤードはスタッフ用の部屋と休憩室が拡張されていた。ほか、イートインスペースが拡張されており、自販機が2階にも設置されている。

 さらに地下室ができていた。今まで簡易のユニットバスもどきだったのが大きめの風呂になっている。それこそ二人とかでも入れそうな。風呂を見てバルドがキラキラしたまなざしを向けてくる。と言うのも、この世界、風呂はなかった。水浴びとかお湯で絞ったタオルで身体を拭くとかそういうレベル。お湯にざぶんと浸かることは基本ない。うちのスタッフもドはまりしているのでまあ、福利厚生?

 レナさんとリンさんが入った後のお湯でラズ君とルークが不埒なことをしようとしていてカエデちゃんにチクられ、殲滅されていたのはまあ、軽いお茶目であろうか。


 改めて店の状態を確認する。支店が2店舗になったためレベルアップ条件が緩和されていたことと、王都での売り上げが凄まじかったのもあるだろう。というか、基準に資金に達した時点で、自動でレベルアップがされていたようだ。常連のお客様によると、いきなり光ったと思ったら建物が大きくなってたとか言われた。

 とりあえず復活セールということでレベルアップでとれるようになった新商品を積み上げてみた。パインアップルパイ。ペンもセットで2本置いた。深い意味はない。なにやら派手な格好したちょび髭のおっさんが買いに来てた。

 取れる武器の種類も増えていた。浮遊城ダンジョンで、レッサードラゴンの鱗を貫けないので、打撃武器が有効だという話を聞き、モーニングスターとかおいてみた。これが大当たりでバカ売れし、素材買取も増えた。

 重量制御のエンチャントをバラケルス氏に教えておいた。モーニングスターを振り下ろす時に、鉄球部分の重量を増すのだ。サンプルとして藁人形にはがねの鎧を着せて使用前、使用後を見せるとエンチャントの申し込みが殺到した。鎧ごと人形がぺちゃんこになったからなあ……後でバラケルス氏にはマジックポーションを差し入れておこう。


 久々に本業に精を出し、休憩室でコーヒーを飲んでいるとカエデちゃんが駆け込んできた。

「主殿、市の方でトラブル」

「はい? それはわかるけどなんで俺?」

「ビヤ樽さんが困ってるから」

 なるほど。それはいかん。

 やれやれと背伸びをすると俺は市に向かうのだった。

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