コンビニブートキャンプ
さて、レベルアップ後の売り上げも好調だった。アップルパイのパイン載せ、ペンを添えてはうちの名物になりつつある。ペン、パイン、アップル、パイ。なんかペンがおまけじゃないかと思っていたら、書きやすいと好評であった。何が流行るかわからないものである。
「主殿、伯父様からお手紙」
「ほいほい」
手紙を読んでみると、魔国にばかり支店を出すな。王国にも出していただきたいとのことだ。まあ、そういわれることは予測できていたので、信用のできる店長候補をよこしてもらいたいと伝えた。
どうせこうなると思っていたが、きた人物の片割れが非常に問題だった。レイル王子の弟である。王子様である。向こうは伯爵の弟っていう対抗意識ありありである。あ、ちなみにもう片割れはジョゼフさんの次男坊だった。カエデちゃんのいとこにあたる。
ちなみに最初はレイル王子が志願していたらしい。あんた王太子でしょうが……。
「ライルという、よしなに頼む」
「ジョージと言います。よろしくお願いします」
うん、最初あったころのレイル王子を思い出すふんぞり返った態度だ。まずは叩き込まねばなるまい。接客業のイロハをな。
「いらっしゃいませ!」
「「いらっしゃいませ!!」」
「声が小さい、笑顔がない、やり直し!」
「「いらっしゃいませ!」」
「お辞儀の角度が悪い!」
ビシバシとダメ出しをする。お坊ちゃん二人だからお付きの騎士がいる。彼らは最初怒り狂っていたがバルドのひとにらみでガクブルし始めた。命がけで主君の盾になるのが騎士だ! とか言ってなかったお前ら?
「うっわ……てんちょースパルタだなあ」
「私たちの時より厳しいっていうか……お辞儀の角度なんて指摘されたっけ?」
「いや、されてないぞ。おそらく彼らの甘ったれた根性を叩きなおすつもりなんだろう」
「それなんてブートキャンプ?」
「まあ、次男坊なんて体の良い長男のスペアで、どっちも長男が水準以上の人物だからねえ」
「ああ、だからあんなに甘ったれているのか」
「最初に叱られた時お付きの騎士に目線送ってたしねえ」
「んで、バルドさんのひとにらみで、じ・えんど」
初期スタッフの4人はやれやれと首をすくめていた。
「ルーク! ドリンク棚の補充はまだか? レナさん、イートインスペースのチェック! ラズ君、トイレのチェック! リンさんはレジの確認と中間締めを!」
とりあえず普段と雰囲気を変えて指示を飛ばす。彼らは空気を読んでささっと動き出す。ちなみに彼らのレベルと戦闘能力はそこらの近衛騎士以上になっている。まあ、たまに冒険者の酔っ払いが現れたりするのである意味ちょうどいい。
ちょっと悪乗りして演説を打つ。ハー〇マン軍曹ってかっこいいよね。
「いいか、コンビニは戦場だ! ぼさっとしている暇はない!」
「「さー! いえすさー!!」」
「貴様らはまだ戦場で生きていけない程度のゴミ虫だ! それをまず自覚しろ!」
「「さー! いえすさー!!」」
「貴様らにはまず地獄を見てもらう、どうだ、楽しみだろう?」
「「さー! いえすさー!!」」
「その地獄を生き抜いて初めて貴様らはコンビニ店員の端くれになれるのだ!」
「「さー! いえすさー!!」」
「それまでは貴様らはゴミ虫以下の役立たずだ。一秒でも早くゴミ虫を卒業することだ……さもなくば」
ゴクリと二人が固唾を呑む。
「こうだ」
指先から初級魔法の着火サイズ(ライターほどの大きさ)の火を藁人形に向けて放つ。ふわふわと飛んだ火は藁人形に触れると瞬時に業火と化して焼き尽くした。
「「さー! いえすさー!!」」
やりすぎたようだ。お付きの騎士も含めてガタガタ震えている。そんな俺たちの姿を見てバルドはうっとりとしていた。
「キリッとした旦那様……素敵」
それから二週間、まあうちのコンビニの研修期間に当たる。週二日は休みにしているので、実質十日間だが、彼らは文字通り身を粉にして働いた。と言うか手を抜いたら消し炭にされるとか思っていたみたいだ。
副次効果なのかは知らないが言いがかり系のクレームは減った。と言うかなくなった。
たまにいるのだ。冒険者の最前線であるラグランに上ってきたと勘違いする田舎者が。しかし田舎でブイブイ言わせてたからと言ってここで通用はしないということを様々な教訓によって学んでゆく。
その教訓は例えば黒騎士バルドの武勇伝であったり、エンシェントドラゴンを従えているコンビニ店長であったり、魔王より強いリッチを討伐したコンビニ店長であったりと……あれ? 俺この辺の人外の代表になってね?
そういえば一度、ナギが寝ぼけてコンビニの屋根の上でドラゴン形態になってたことがあった。思わず鼻先をぺしっとやって、子犬サイズに戻ってもらい、そのままお座りさせて説教をした。店の外で。
目撃者はドラゴンを叱り飛ばす姿に畏怖を覚えたとかなんとか。ナギのわんこスタイル可愛いんだけどなあ。
「さて、今日は貴様らに伝える事がある」
「「さー! いえすさー!!」」
「本日ただ今をもって貴様らはゴミ虫を卒業する。貴様らは晴れてコンビニ店員となるのだ」
「「さー! いえすさー!!」」
「だが、これからが地獄の本番だ。ゴミ虫のままであった方が幸せかもしれん。それでも
卒業するか?」
「「さー! いえすさー!!」」
「いい覚悟だ。ならばこれを授与する」
俺は彼らの制服の胸についていた「見習い」のバッジを外し、彼らの名前が刻まれたネームプレートを付けてやった。
彼らの頬は紅潮し、喜びと興奮が身体を駆け巡っているのだろう。
「今この時より、君たちはコンビニ店員だ。よく頑張った」
「「店長……」」
二人の目からぽろぽろと涙がこぼれる。そしてがしっと抱き合った。
「あー、あれって質の悪い洗脳だよねえ。いいのかな?」
「ルーク、ナギさんがいつも言っているだろ? 気にしたら負けって」
「やれやれ」
ルークのつぶやきはそのまま虚空に消えた。あとには号泣する新人二人の声だけが響いていた。
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