コンビニハヤシの日常とトルネさん一家
さて、ローエンド領と王都に出店することを決められたわけですが、店長候補の二人は今日もがっつり働いています。
「いらっしゃいませ!」
うん、いい感じの笑顔です。ショタ好きのお姉さまが増えたのは気のせいではありません。
ですが当店はコンビニです。勤務時間外のことは何も言いませんが、そのスタッフ王子様です。形容詞的とかそういう意味では一切なくて。文字通りの。だからアフターとか言い出すと外交問題です。ご注意くださいませ。
「こんちはー、店長さんおられますか?」
「ああ、トルネさん。ってその男の子は?」
「ああ、息子のパロです。ほら、ご挨拶は?」
「初めまして、きれいなおねーさん。パロって言います。よろしくお願いします!」
レナさん目の色が変わる。先日の魔国行きのキャラバンで相当なもうけを出したとのうわさはラグランにも聞こえてきていた。
「パロ君、おねーさんのこと、ママって呼んでみない?」
「呼びませんよ?」
なんかすごい美人が入ってきた。最初の一声は底冷えのするような声だった。
「あ、ママー」
「あらあら、パロ。パパと旅行だからってはしゃぎすぎですよ」
胸部装甲はレナさんに匹敵する。10歳くらいの子持ちゆえに、レナさんより年齢は上だろうが、我が子を見るほほえみはまさにお母さんだった。
「おおニーナ、馬車は大丈夫かい?」
「ええ、そこの停車場に停めました。王都の大きな商家でもなかなかないですね」
「ふふ、店長のハヤシさんに紹介しようか」
とりあえず対応中のお話が終わったので、トルネさんのところに行く。
「ああ、どうも。お久しぶりです」
「おお、ハヤシさん。こちら妻のニーナと、息子のパロです」
「初めまして。林圭太です。よろしく」
「初めまして。いつも主人がお世話になっております。今回の行商はかなり危ない目に遭ったと聞いて……」
「それは私の責任もありますね。申し訳ありません」
「いえ、生きて帰ってくれたのでそれでいいですわ。搾り取りましたし」
「ママー、僕お姉ちゃんがほしい!」
「パロ君、君はいいボケのセンスをしているな」
「パパは無理だって言うの。なんでかなあ?」
「うん、姉は無理でも妹ならできるかもね」
「そっかー、パパ、ママ、頑張って!」
こいつわかって言ってるんかな? なかなか将来有望な少年である。きっとお笑いの旋風を巻き起こすに違いない。
レベルアップしてからは初めて顔を出してくれたので、いろいろと新商品の説明をする。ペンに食いついてきたので、1グロス程卸しておいた。ポイントカードの発行枚数もかなりの数だったので、これについても最初の契約分のロイヤリティを渡す。なんか王都の貴族にバカ売れしたらしい。
「店長、お客様です!」
びしっと気を付けの姿勢が美しいライル王子だ。研修で学んだものがきっちりと身についている。
「ありがとう、すぐ行くよ」
「わかりました、さー!」
「それは研修終わったらつけなくてもいいんだよ」
「すいません、つい癖で」
来客は常連になってくれている、戦士のダルトンさんだった。マゴロクブランドの剣の注文を受けて剣を振るときの癖とかをタブレットで細かく入力する。南にあるセキの隠れ里の一族から武器を調達したバイヤーはいないという。うちのコンビニのこのシステムって謎すぎる。
注文処理を終えてトルネさんのところに戻ると、ライル君とパロ君が仲良くなっていた。
「すげえ、あの英雄の子孫なんだ!」
「うん、けどパパはいつもこういうんだ。ご先祖様はすごかったけども、我ら子孫はふがいなく、ご先祖様の店も人手に渡ってしまった。だから、ご先祖様はご先祖様として、新たに自分で店を開くんだって」
「そうか、君の父上は立派だな。王都の貴族どもときたらご先祖様がやったことだけが誇りで、誰かの子孫ってことだけがよりどころなんだ」
「後ろ向いてちゃ前に進めないですよ」
「そうだな。俺もいじけてないで頑張るよ!」
「うん、僕もパパに負けない立派な商人になる。競争だね!」
うん、若い者はいいなあ。未来っていいなあ。トルネさん、背中で息子に道を示してるじゃないか。大したもんだ。
そう感動していたら……馬車がゆさゆさ揺れています。どうも息子に焚きつけられて早速頑張っているようです。おいおい。
「主殿、お手紙」
「うん、ありがとう。カエデちゃん」
「伯父様から」
「だよね。あの人以外に今手紙をよこす人っていない気がするよ」
王子とジョージ君の補佐にあたる人員を送ると。要するに彼らが店長になったときにスタッフに当たるわけか……っておい、あんまり素行の良くない貴族の次男坊とか三男坊を中心にって何なんだ?
新たなブートキャンプの予感に打ち震えつつ、俺は手紙を握りつぶした。
「旦那さま、素敵……ぽっ」
バルドは平常運転だった。なにこれかわいい。
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