コンビニブートキャンプ再び

 心なしかげっそりしているトルネさんは、近くの温泉宿に宿泊すると言い残して馬車と共に去っていった。奥さんがやたらつやつやしているのはまあ、あれだ。

 ライル王子とパロ君は意気投合していたのは微笑ましかった。そしてその息子君の尊敬とあこがれを一身に受けている彼の父は……いいコネができましたと黒い笑みを浮かべている。いろいろと台無しだ!


 さて、ジョゼフさんが久々に訪ねてきた。馬車の列の最後尾には……檻車? 木枠で組まれた檻の中に10代半ばと思われる少年たちが突っ込まれている。


「ジョゼフさん、彼らが?」

「ええ、ちょいと根性を叩きなおしてやっていただきたい」

 貴族の立場を悪用して乱暴狼藉を働いたらしい。それを知ったレイル王太子が激怒したそうだ。そして弟の様子を聞いた彼はこう言い放ったという。

「わが友ケイタはライルを鍛えなおしてくれたと聞く。彼らもケイタの厳しい指導を受けさせて性根を鍛えなおさせよ! それ馬で貴族の地位ははく奪する」

 貴族子弟の親は激怒したらしいが、王国最強(笑)のレイル王子に逆らえるわけもなく、罪人扱いでこちらへ連行されたらしい。というかラグランは流刑地じゃねえ。


「で、どうしましょ?」

「ブートキャンプで。一人当たり……」

「ほう……ほほう」

 ジョゼフさんが出してきた書類に目を通す。1か月間の訓練コース。一人当たり5万ゴールドの報酬を支払う。無論非課税。代価は王子が建て替え、彼らの実家から取り立てるそうだ。

「お願いできますかな?」

「やって見せましょう」

 そのときから俺は軍曹になった。

「キリッとして燃える旦那様。素敵なのじゃ……」

 バルドは平常運転だった。


「いいか、貴様らは罪を犯してここに送り込まれた! 今から貴様らの生殺与奪はこのハヤシ軍曹が握る。そのことを忘れるな!」

「……」

 無言でこちらをにらみ、不平を言いたそうにしている彼ら。だが先にジョゼフさんの脅しが効いていた。曰く、この方は王子を片手でひねりつぶすほどのレベルの方だと。

「いいか、まずここの作法を教えてやる。その口で何かを言うとき、最初と最後にさーを付けるのだ。わかったか!」

「さー」

「声が小さい! 腹の底から声を出せ! そんな気合だから貴様らはゴミ以下なのだ!」

 怒声を浴びせると、一人大柄な少年が前に出て掴みかかってきた。一応武道の嗜みはあるらしく、しっかりとした歩き方である。そして無言で拳を繰り出してきた。そしてそれを指一本で止めてやる。

「相手の力を見極めることもできんか。愚か者が!」

 魔力を放出して吹っ飛ばす。もちろん手加減はした。それでも彼らは立っていられない。

「このゴミ虫どもが……いいか! これから貴様らを地獄の底に叩き落とす。貴様らは俺を恨むだろう、憎むだろう。だがそうすれば早く学ぶ。俺は差別はせん。ゴミだろうがクソだろうが構わん。お前らは平等に価値がない!」

 唖然とした目線を受ける。もっと聞かせてやろうか……

「ここは戦場だ。貴様らを戦場に放り込めば1日も生きていられない。だが俺は優しいからな、地獄の底で生き延びる方法を教えてやる。どうだ、嬉しいか?」

「「「さー、いえっさー!」」」

「ほう、少しはわかってきたか」

「「「さー、いえっさー!」」」

「ならばこれより訓練を始める! 全員丸太を担げ! そのままコンビニ前からあちらの木までを……20往復だ」

「「「さー、いえっさー!」」」

 若干引きつりながらのろのろと動き出す。そこで手近なところにいた魔獣を魔力を浴びせてテイムする。ふむ、やつざきライオンか。ちょうどいいな。

「グルルルアアアアアアアア!!」

「「「うぎゃあああああああああああああああああ!!」」」

 背後から上がる咆哮によだれをたらしつつ忍び寄るやつざきライオン。それに気づいた彼らは走り出す。うん、いい感じだ。

 その有様を見ていたライル王子とジョージ君はポカーンとしていた。

「えっと、店長、あそこまでやらなくても?」

「んー、乱暴狼藉を働いたらしいしね。貴族ってどういうものだと思ってる?」

「え?」

「ノブレスオブリージュって言葉があってね。貴族の義務という意味だ」

「はい」

「領民は貴族に税を支払う。それは貴族が領民を守るからだ。いざというとき、真っ先に命懸けで働くからだ。だから領民は貴族や王を敬い、税を払う。だが貴族や王が領民を守らなかったら?」

「それは……」

「もう気づいていると思うが、貴族あっての領民ではない。領民の支持のもとに貴族や王の権力があるんだ。そこをはき違えたらいけない」

「はい、肝に銘じます」

「うん、店長だなんだとえらそうにしててもね、結局スタッフのみんなに助けられているんだ」

 この言葉を聞いた二人ははっとしている。ここから何かをつかみ取ってくれればいい、そう思った。

「旦那様……素敵……ハァハァ」

 物陰からこちらを見ているバルドはまたもや平常運転だった。

「とりあえず、へたばったら休憩させておいて。俺発注やってくるから。よろしくね」

「「さー、いえっさー!」」


 ちなみにその後、俺は一つ忘れていたことに気付いた。やつざきライオンに20往復と伝えることをだ。それを思い出したころにはすでに日が暮れており、止まってよし! と号令を入れた後、バケツに水ではなくポーションを彼らにぶっかけて回る羽目になったのだった。

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