OHANASHIしましょ

 さて、ノブカズ君に水をぶっかける。

「ぶわっ!?」

「起きたかい?」

「ってここは?」

「ブートキャンプ場だよ?」

「ブート……?」

「うちの嫁に危害を加えてくれたし、いっぺん〆るから」

「嫁? 店長結婚してたんですか? おめでとうございます!」

「うん、ちなみにどの人だと思う?」

「んー、あの鈍器振り回してたお姉さん? 店長実はMだったんですか?」

「うん、黙ろうか」

 指先から魔力弾を発射する。ちょっとした拳銃弾くらいの勢いで地面にめり込み、砂埃を上げる。

「って……え?」

「うん、俺のステータスを見てみるといいよ?」

「は、はい……って店長、いつの間に人間やめたんですか?」

「やかましいわ!?」

 とりあえずコテンパンにした。その程度の実力で魔王討伐とか片腹痛いわと。

「きゅう……」

 完全に伸びている。やりすぎたか? まあ、うちの嫁を傷つけるレベルの攻撃を叩き込もうとしたのである。自業自得だ。


「それくらいにしてやってくれないか?」

 ん? どこからか声が聞こえる。ふと思いついて魔力探知を行う……剣?

「うむ、気づいたか、今代の魔王殿」

「インテリジェンス・ウェポンってやつか。で、あなたは?」

「初代勇者、ユキノブである」

「うん、とりあえず、その剣の柄の宝石なのね。解呪していい?」

「ごめんなさい、ちょーしこいてましたあああああ!」

 話を聞くと、死に臨んで魂の一部をここに封じ込めたらしい。にしてもこの軽さ、現代日本人かと。そこに来客が訪れる。

「おお、おぬしタルーンではないか!?」

「ケイタさん、この剣しゃべってます。次の目玉商品ですか?」

「いやいや、勇者の剣を売り飛ばしたらまずくない?」

「なに、裏ルートでですね……」

「まてえええええええええええええい。一応王家の宝ゆえにそれはやめてくれ!?」

「しゃーないな。トルネさん、いっぺん棚上げで」

「好事家にオークションさせたら楽しそうなんですけどねぇ」


 再びノブカズ君に水をぶっかける。

「とりあえずだね、バルドとカエデは俺の嫁なので」

「ちょ、店長、重婚は犯罪ですよ?」

「ここはどこだい?」

「異世界……はっ!?」

「そういうことだ、まあ、葛藤はあったけどね」

「ところで、あの黒騎士バルドが店長の奥様?」

「あのって、おま人の嫁をなんだと??」

「王国で名のある騎士が何人討たれたと?」

「戦場でだろ? 自業自得じゃないか」

「まあ、そうなんですが……」

「逆恨みだな。それにな、バルド可愛いし」

「はい?!」

「なんだ、あの可愛さがわからないとは、君もまだまだだな?」

 そこで多分トルネさんから合図が飛んだんだろう。逆らうなと。

 ノブカズ君は無言でうんうんとうなずいている。


「まあ、あれだ。バルドは魔王の娘でね。君はバルドと互角よりやや劣勢だった。そこは理解しているかな?」

「え、ええ。って魔王の娘?!」

「なんだ、知らないのか。んで、バルドと魔王様の力の差は……大人と子供だ」

 見る見る血の気が引いてゆく。

「ちょっと待て!? お主魔王ではないのか?」

「は? なんでそんなめんどくさい事やらないといけない? 俺はコンビニ店長です!」

 ポカーンとした空気が漂う。

「店長、あのですね。僕の鑑定では店長のステータスって漠然としてたんですよ。レベル、とてもとても強そうだ。って感じで」

「ああ、レベル差がありすぎるのかな? 今たしか182だね」

「おお、少し上がっておりますね」

「なんかね、ちょっと強いオークがいて、バルドが危なかったんで吹っ飛ばしたんですよ」

「ほう、どんな感じの?」

「なんか金ぴかの格好してて……」

「「「それオークキング!!!」」」

「それ推定レベル130とかの化け物じゃぞ?」

「うん、レベル二つ上がったねえ」

「いやあの店長、それ軍が出張るレベルです」

「なに、いつぞやのリッチに比べれば……ねえ」

「ちょ! あのリッチを単独撃破したのって店長だったんですか?」

「単独じゃないよ? 6人だね」

「ああ、そういえばこの人昔からこうだったよ……」

 なんか過去のエピソードを引っ張り出してねちねちと言われた。内容については後日語る機会もあるだろうか。

 そして今回の話で、ノブカズ君はうちのバイトに戻ることになった。

 なんかうちの配下に、伝説の勇者(笑)が加わることになったというのが王国と魔国の認識である。というか、俺に逆らうと王都が更地になるとか言われている話を聞いて、ちょっと悲しくなったのだった。

 そんなことしないし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る