コンビニハヤシの日常 勇者と

「ところでさ、なんでここにいたの?」

「えーっとですね……ちょっとお付きの人たちとはぐれまして?」

「それっていつ? 昨日とか?」

「3か月くらいですかねえ?」

「おいっ!?」

「たはー?」

「カエデちゃん、宰相殿に連絡お願いね」

「承知です。あなた」

 手をポンポンと叩くと、どっからともなくモモチ衆の人が現れて走ってゆく。

「ほえー、店長、今いったい何やってるんですか?」

「そんなの決まってる。店長だよ」

 ドヤ顔で決めてやったらポカーンとしてやがった。とりあえず、オークの戦利品を抱えて店に戻る。


「旦那さま、お帰りなさい」

 バルドが娘と出迎えてくれる。

「ぱぱー!」

 その時ノブカズ君が剣を抜いて構える。

「店長、危険なので下がってください。こいつは魔族の黒騎士だ!」

 うん、うちの嫁に危害を加えるのであれば、こいつ敵だな。

「旦那様、この無礼者〆ていい?」

「うん、やっちゃいなー」


 ノブカズ君は手の剣を空にかざす。

「雷鳴よ!」

 ぴしゃーんと雷が落ち、剣が帯電する。それをそのまま降りぬいた。雷鳴斬というらしい。

 バルドもどこからともなく抜いたアロンダイトで迎撃する。

「なんだと?! 聖剣アロンダイトが魔の者の手にあるというのか!?」

「ふん、旦那様にもらったこの剣、勇者の聖剣にも劣らぬ」

 そのままガキン、バキンと切り結ぶ。ハルカはまますごーいと無邪気に手を叩いている。ショウタはあの高速の戦闘を目で追い、その技術をトレースしているようだ。


「さあて、皆さん。いつものお時間です!」

 ラズ君が賭け札を販売し始める。

「異世界の勇者ノブカズと、名高い黒騎士バルドの一騎打ち。見ものだよ!」

 人の嫁を見せものにするんじゃない!

「はい、見物の方はこちらからです。使い捨て結界石は500ゴールドです。流れ弾対策にいかがですかー?」

「最近人気のオークソーセージを軽くあぶってパンにはさみました。ホットオークです! マスタードがピリッと効いて旨いですよ!」

「オークカツサンド、おひとつ800ゴールドです。いかがですかー!」

「はい、今のオッズは勇者4黒騎士6、穴狙いなら勇者ですよ!」

 うわさが広まるやいなや集まってくる暇人たち。冒険者は一度任務や依頼をこなしたら数日の休養を取る。すべての冒険者が出払うこともなく、コンビニは格好の暇つぶしスポットであった。

 そして突発的に起こるこういうイベントもあり、一日噴水傍のベンチで過ごすものも珍しくない。


「「「バルドお姉さま、頑張ってー!!」」」

 女戦士たちからバルドは人気が高い。女だてらに大剣を振るい、高名な冒険者となっている。幸せな結婚をしているあたりもポイントが高いそうだ。私たちもいつかという願望も含まれている。名を売って玉の輿に乗りたいそうだ。

 さて、戦いは一進一退を繰り返している。剣技はほぼ互角、身体能力はバルドがやや上、魔力はノブカズ君が若干上。トータルは互角……いやバルドが上か。

 均衡が崩れ始めてきた。俺の渡したアミュレットが魔法攻撃を無効化してゆく。バルドは放出系ではなく、身体強化と、聖剣への魔力注入で攻撃力を底上げしていた。近接戦闘に特化した戦い方である。

 ノブカズ君は遠距離攻撃で牽制し、ヒットアンドアウェイで出入りの激しい戦い方をする。接近した時の打ち合いでことごとく上を行かれ、遠隔攻撃がほぼ無力化されている。決め手がないのだ。

「ふん、その程度か勇者よ」

 バルドがニヤリと笑って挑発する。うん、イイ笑顔だ。

「なめるな!」

 ノブカズ君が剣を逆手に持ち替える。魔力が切っ先に集約してゆく。あれは決め技だな。

「ふむ、良い覚悟じゃ。なれば私も全力で迎え撃つ!」

 彼らの間に魔力が集約してゆく。

「はあああああああああああああああああ!!!」

「やあああああああああああああああああ!!!」

 んー、これはいかん、威力がほぼ互角で、ぶつかり合ったら余波で死人が出るな、これ。

 とりあえずやばそうだったので、割って入った。

「店長!? だめだ、止められない!」

「あら、旦那様?」

 バルドはすぐに戦闘態勢を解いた。そしてノブカズ君の方は、とりあえず聖剣の魔力を解呪して吹き散らし、大き目の魔力弾で頭上に吹っ飛ばす。

「はい、そこまで。とりあえず周囲に死人が出そうなんで止めた」

「すいません、つい楽しくなってしまって」

「ああ、いいんだよ。バルドは悪くない。とりあえず、うちの嫁に危害を加えようとした理由を聞かないとねえ……」

 ドーガ軍曹が泣きそうな顔で天を仰ぐ。勇者様の運命を知り、代わりに絶望したかのような表情だ。

 とりあえず目を回したノブカズ君を引きずって、ブートキャンプのために作られた訓練施設に向かうのだった。

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