勇者様

「クッコロセ! クッコロセ!」

 リンさんが謎のセリフを叫ぶ。このセリフを叫ぶとなぜかオークが寄ってくるらしい。

 さて、なぜこうなっているかと言うと……オークソテーは大好評だった。普通にコンビニの隣に食堂を開く羽目になるレベルである。これはギルド出張所と言う扱いと、そこの職員にソテーのレシピを譲ることで対応してもらった。

 いろいろと試験的に調理してみた。衣をつけて揚げる。オークかつの出来上がりだ。かつ丼やカツサンドは大ヒットした。

 余った肉をミンチにしてソーセージにしてみる。オークソーセージ。うん、なんか卑猥だ。細い目の腸詰を作り、それを細かくねじって、小さなソーセージにしてみた。オークビッツと名付けた。

 これらの腸詰は日持ちがするので、長距離を移動する冒険者やキャラバンに人気だった。そのためか、オークの討伐数は右肩上がりに伸びる。しかしそれでも絶滅しないオーク、謎である。


 さて、リンさんのセリフにつられてオークたちが寄ってくる。ルークが弓をつがえ……放つ。ラズ君も攻撃魔法を唱える。ウィンドカッターである。バ〇ではない。そういえば、知人の娘さんが米良美ちゃんと名付けられたらしい。まだ幼い彼女の幸せを切に祈る。


「グラアアアアアアアアアアアア!!」

 オークがその太い腕をリンさんに向けて振り下ろす。左手のバックラーで捌き剣を突き出して首を貫く。ルークの放った矢がオークの目から脳髄を撃ち抜く。

 ラズ君の風魔法がオークの首を斬り飛ばす。そしてある意味真打、レナさんの振るうモーニングスターが、オークの下半身にめり込んだ。

「ふん、小汚いものをおっ立てるからです!」

 悲鳴すら上げられず、うずくまるオークに無慈悲な一撃が振り下ろされた。

「なあ、ラズ君。いいの?」

「何がですか?」

「うん、そこはかとなく内またになっている君の気持はよくわかるよ。まあ、君がいいなら俺が口出しすることじゃないよね」

「ええ、大丈夫です。ええ」

 ラズ君の悲壮な覚悟を俺は応援することしかできなかった。


 オーク狩りは順調だった。少なくとも俺たちは。やはり未熟な冒険者が油断から死傷することはある。悲しいけど、これ現実なのよね。

 そして少し離れたところから悲鳴が聞こえた。

「ルーク、北東だ! 急いで!」

「了解です!」

 ルークが走り出す。気配によればカエデちゃんも先行している。周囲をモモチ衆の皆さんが警戒してくれていた。

 現場にたどり着く。オークの攻撃をよけきれず、女戦士が気を失っていた。今にも飛び掛かりそうなオークはルークがその首を射抜いて無力化している。そしてそのルークに向けて火球が飛んでくる。

「オークメイジだと?!」

「いけない!?」

 ルークの前に立ちふさがる人影。彼は剣を振るう。その斬撃だけで真空刃を発生させ火球を切り裂いた。

「あれは勇者の剣技、しんくう斬り!?」

 とりあえず魔力をトレースして、オークメイジに魔弾を叩き込む。心臓を撃ち抜かれたオークメイジは即死した。

「んで、あの彼ってもしかして、召喚された勇者?」

「どうもそうみたいですね。あのミスリルの剣からはすごい魔力を感じます」

「と言うか、あの程度の攻撃魔法なら、ルークの持ってるアミュレットが防いでくれるはずだけどねえ」

「まあ、一般人にはわかりませんし」

「まあね」

 のんきな会話を繰り広げる。勇者君は倒れている女戦士を介抱しようとしているみたいだ。と言うところにルークがばしゃっとポーションをぶっかける。

「何をする!?」

「ポーションを使ったんだよ。すぐ目覚めるさ」

「そ、そうなのか。すまない。早とちりみたいだね」

「ああ、大丈夫だ。んで、あんたはもしや、勇者様か?」

「そう、ノブと呼んでくれ。後、様はいらない」

 んー? なんかあいつどっかで見たことが……?

 とりあえずそのままにもできないので、ルークのもとに向かう。

「ルーク、大丈夫かい?」

「ああ、店長。大丈夫ですよ。ポーションも使ったんですぐ目を覚ますでしょ」

「ああ、十分だ。ありがとう」

 とルークと話していると勇者君がこっちを振り向いた。いつぞやの話からそうじゃないかと思ってたんだが……勇者の正体は……うちのバイトの藤林信和君だった。

「って、店長!?」

「やあ、久しぶり」

 ノブカズ君の口が限界まであんぐりと開く。思いがけない再会にお互い言葉もないという状態だった。やれやれ、これはまたひと騒動あるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る