勇者とコンビニ
「いらっしゃいませ!」
店頭でお客様を迎える。なんか最近いろいろとありすぎて、混乱していたようだ。まずは自分の根本は何かを考える。そう、俺はコンビニ経営者だ。
店頭で仕事をすると、すっと身体が動く。やはりこれが俺の天職なのだろう。魔王と勇者を裏で操っているとか、王国の貴族子弟を洗脳しているとか、新興証人を操って王国と魔国に食い込み、影の支配者になっているとか……いったい誰の事だろうか?
「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」
ぴしっと背筋を伸ばしてお辞儀する。なんかドーガ軍曹が、あれこそが理想のあいさつである。貴様らは今もっともよいお手本を目にしたのだ。はいつくばって感謝しろとか、さーいえっさーとか聞こえるが、聞かなかったことにする。
タブレットを操り発注をする。最近の売れ筋は……? 気温が高くなってきたからか、ミネラル水が好評だ。おでんはそろそろ絞るか……けど定期的に買いに来る人たちがいるんだよなあ。それも、たまごつゆだくとか、もちきんちゃくつゆだくとか、妙にコアな注文が入る。なんなんだろうか?
「あ、店長。特やくそう残りわずかです。あとエスプレッソマシンのメンテそろそろですけどどうします?」
「ノブカズ君、エスプレッソマシンの洗浄やり方覚えてる?」
「もちろんですよ!」
「んじゃそっち任せる。やくそうの補充は俺がやるよ」
「わっかりましたー!」
うん、勇者を顎でこき使ってやがるとか聞こえるが、彼は元々うちのバイトだ。そのあとで勇者になったことは俺があずかり知らないことである。
棚に商品を補充していると声がかかる。いつもの常連さんだ。
「おお、店主殿。この前のハセベはいい刀だ。ヒュージリザードを叩き切ることができたぞ!」
「ああ、へし切長谷部ですね。あれちょいといわくつきでして」
「ほう?」
「元の持ち主は小国の王だったんですが、小間使いの少年が王の食事に怪しげなふるまいをしたんですよ」
「それはいかんなあ。手討ちになっても仕方ない」
「ええ、で、実際にどうだったかはわかりませんが、まあ、手討ちにされたんですよ」
「その時に使われたってことか? 別に珍しい話じゃないじゃないか」
「まあ、使われ方が……ねえ」
ゴクリとのどを鳴らす。さすがに不気味なものを感じ取ったようだ。
「な、なんだ?」
「聞きたいです?」
「聞こうじゃないか」
「棚の下に隠れたんですよ。それでその刀を」
「振り下ろしたのか?」
「いえ、ぎゅっと押し当てたんです。でそのままごーりごーりと……」
「「「うわあ……」」」
周りで聞いていたほかのお客様も一様に聞かなきゃよかったって顔をしている。けど聞きたがったのはあんたらですよ?
「棚ごと真っ二つか、素晴らしい切れ味だな」
「リザードの鱗にも負けなかったでしょ?」
「鉈の威力と剃刀の切れ味を持つ、実に得難い」
「まあ、またいいものが入ったらお知らせしますよ」
「そうだな、ポイントもたまってきたし、また何かあったらよろしくな」
そう言って笑顔で去っていった。
「店長、なんであんな国宝級の刀があるんですかね?」
「お前の剣に聞けよ。俺もさすがにわからん」
「うむ、わたしがこの世界に呼ばれるときに、世界の情報も一部入り混じったらしいんだな」
「へえ。それでなんか有名な剣とかそういったのがこっちの世界に入ってきたって?」
「概念だけのものもあるがの。アロンダイトなんかがいい例じゃ。あっちの世界で名前とかは伝わってるけども実在はしてないじゃろ?」
「確かにそうだ。なるほどねえ」
そんなこんなで日常業務をこなす。するとナギが寄ってきた。
「店長、なんかめんどくさい気配が寄ってきてる」
「めんどくさい?」
「うん。よくわかんないけど、竜の本能が語り掛けてくる。めんどくせえって」
「どんな本能だ!?」
と会話をしていると、一人の女性が入ってきた。すごい美人だ。服も上等のものを着こなしている。というか、あの頭に乗っかってるティアラにどっかで見た紋章が入っている……?
「大魔王ハヤシケイタ! 覚悟!」
いきなり短剣を抜いて腰だめに構え、ヤクザ映画のように突っ込んできた。それを見て俺は思わず……
「誰が大魔王じゃああああああああああ!!」
ハリセンで迎撃してしまう。一瞬ノリツッコミにすべきだったと後悔がよぎるが、時すでに時間切れ、放ったハリセンは戻らない。転がって行く女性はそのままノブカズ君の足元でにょきっと立ち上がった。
「勇者様!」
なんだろう、ハートマーク散らしたような声色で彼にしがみつき、一息で唇を奪った。
あまりな光景にポカーンとした雰囲気が漂う。
そういえばと様子を見ると、ノブカズ君は真っ白な顔色で必死に彼女のホールドを外そうとしている。だが力の向きをよほどうまく制御しているのか彼が振りほどこうとする動きはすべて事前に読まれ、受け流されている。達人かい!?
たっぷり3分ほどなんか水音をさせていた顔が離れる。うわー、糸引いてる。若いな。
「あなた、あの子王女様」
「はい?!」
いつの間にか隣にいたカエデちゃんが爆弾を落としてきたのだった。
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