王女と勇者

「で、どうしてこうなった?」

 ひとまずお姫様を引っ剥がし、事情説明を求める。

「お父様が魔王を討伐したら勇者様に嫁ぐようにと言ってきたのです」

 まあ、ありがちだな。

「言ってませんからね? 魔王討伐の暁には褒美は望むままじゃとか言われましたが」

 まあ、これもテンプレな。

「だってあの国で一番価値があるのって……」

 自分だと言いたいらしい。

「すげえな、その思考回路」

 なんか照れている、褒めねーっつの。

「というかですね、ファーストキスを公開処刑された僕はどうしたら?」

「んー……爆発しろ?」

「ぽっ、わたくしも……初めてです。これは責任を取っていただかなくては」

 なんかくねくねしている。既視感を感じた。

「ノブカズ君。おめでとー(棒」

「かっこぼうとか口で言ってる当たりおちょくる気しかないんですね」

「はっはっは、まあ、ある意味お仲間か。それはさておきだ。魔王討伐何ぞさせないからね?」

 そもそも子供たちの祖母で、バルドの母親である。

「くっ、私たちの将来に立ちふさがるのはやはり大魔王ですか……」

「だから誰が大魔王やねん」

「店長、すでになんかのRPGの裏ボスっぽくなってます」

「うっさいわ」

「自覚あったんですか?」

「なんかさ、成り行きなんだよね。そもそも、俺の力の源泉ってこのコンビニだし」

「はっはっは、なんかあれですね。魔王と勇者みたいな舞台装置の一環なんですかね?」

「さあね、けど俺は自分の意志で生きてる。だれかの操り糸なんかはないと信じたいね」

「まあ、そうですよねえ」

 すこし雰囲気が変わった。ここで気になっていたことを切り出す。

「そういえば、王女様。俺たち貴方の名前とか全く知らないんだけども」

「ふん、敵に名乗る名はございません!」

「俺さー、ノブカズ君の親代わりなんだよねー」

「お義父様、お初にお目にかかります。セリカと申します。今後ともよしなに」

「だって、ノブカズ君愛されてるね」

「ヤンデレストーカーなんかいりませんよお……」

「愛が重いと思った時はだね」

「時は?」

「その重さを受け止められるような人間になれば万事解決だ!」

「だめだこいつ!?」

「あの……お義母様からは私と同じものを感じますわ」

 そこで一言も口を開いていなかったバルドが動き出す。

 セリカと見つめ合い、お互い頷き、がっちりと握手を交わした。そして意中の人を射止める方法とか、相手の力を利用した制圧法とか、ロープの使い方とかの情報交換をしている。ロープって何? 何に使うの?


 とりあえず、セリカ王女の希望を容れてコンビニバイト見習いとした。もちろん教育係はノブカズ君である。あと、寮の部屋も同室にした。

 ルークとリンさん、ラズ君とレナさんは面倒なので同室にしてしまっていた。備品の明るい家族計画が消費されているので、まあ、そういうことなのだろう。子供可愛いんだけどねえ。

 ちなみに、いつぞやアベル君にも伝えた、結婚の場合の手当てと福利厚生。子供が生まれた場合の祝い金制度などを説明したら、備品の使用率が減った。現金な人たちである。

 そういえば、ラズ君は准子爵に叙任された。これは一代限りでさらに領土のない法衣貴族位だ。けれど、爵位に応じた恩給が出る。ドーガ軍曹のキャンプに参加する連中は、レナさんよりドーガに惚れて帰ってゆく。そういう事情も相まって年貢を納めたようだ。普通男がわの使い方だよね、これ。


 翌朝、ノブカズ君はげっそりとしており、セリカ王女はつやつやになっていた。

「しちゃったの?」

「いえ、何とか守り抜きました」

「なんでそんなげっそり? 一応ベッドは二つおいたじゃない?」

「気づいたらこっちに潜り込まれてすやすや寝てるんです。で、もう片方に移ったら気が付くとすやすやと……」

「ヘタレ」

「なんとでも言ってください」

「旦那様は言う資格がないんじゃないですかねえ?」

「バルド、今夜はおしおきね」

「むう、ハルカをカエデに預けねば」

「楽しみだなあ。デュフフフフフフ」

「ぽっ」

「いいからお前らも爆発しろこのバカップル」

 ノブカズ君の受難は始まったばかりだった。あ、ちなみに。セリカ王女のひとめぼれらしいです。伝説の勇者と同じ黒髪だからとかいう理由で。南無。

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