閑話 誤発注パニック

 どずん!

 コンビニの前には山ほどのコンテナが着荷していた。

「は!? なんだこれ!?」

「え? 店長どんだけ発注したんですか?」

「いや、してないよ?」

「とりあえず検品しますね……」

「お願いね」

「店長……カフェオレ500本って取りました?」

「いや?」

「あとですね、ショートケーキ800個」

「ちょっとリスト見せて!?」

 そこには意味不明な数字が羅列されていた。消費期限の短いカフェオレとケーキ類が満載である。タブレットを確認すると返品不可の文字。いやな汗が背中を伝う。

「責任の追及はあとにしよう。まずはこれをどうさばくか……だ」

「はい! みんなを呼んできます!」

 誤発注による炎上騒ぎはコンビニ業界では珍しくはない。たまにやらかす奴がいるのだ。

「スクランブルです!」


 モモチ衆を招集し、ダンジョンや近隣の集落にチラシを配布してもらった。そして少量の商品を持たせ、場合によっては試食もしていただく。

 カフェオレとケーキを特価販売する。もともとそこそこ人気のあるメニューだけに、順当に売れてゆく。だが今日の閉店までに捌けるかと言うとなかなかに絶望的なペースでもあった。

「カフェオレはいかがですかあ? 今日は特価販売です! 普段150ゴールドが今日は100ゴールド!」

「たまにはちょっと贅沢なデザートはいかがですかあ! こちらのケーキ、普段350ゴールドが今日は200ゴールドですよー!」

「おっしゃ、たまにはパーティのみんなにお土産買うか!」

「さすが太っ腹!」

「息子と嫁さんにお土産にするかね」

「ありがとうございます!」

 まとめ買いをする人が出だすとペースが上がり始めた。レジと袋詰めを手分けして行う。

「カフェオレ売り切れです!」

「ケーキ残り50個です!」

 乗り切った。そう頭をよぎった。だが予想外と言うのはいつも意識の外からやってくる。

「店長、近隣の集落から注文が殺到しています!?」

「はあああ!?」

「どうもチラシを持ってきたみたいで……」

「ってチラシ効果ってまだ出てなかったんかい!?」

「ルーーーーーーク! ちょっとここ頼む! 発注してくる!」

「さーいえっさー!」

 なんかみんなテンションがおかしくなってきた。

 2階から周囲を見渡す。周辺の住民がコンビニを包囲しているかのように見えた。どうすんだこれ?

 半ばやけになって最初のコンテナの倍の量を発注する。ドドドドドドドドドとコンテナが積みあがる。ナギが素早くコンテナを開封し、追加商品到着ですと告げる。

「さっき買えなかったんだ!」

「嫁さんから買って来いって言われてなあ」

「ありがとうございます!」

 店外の特設売り場は阿鼻叫喚であった。そしてさらに報告が飛んでくる。

「店長、リザードマンの大軍が押し寄せてきました!」

「なに!?」

「上空にハーピーの大群が!?」

「んだと!?」

「あー……チラシ、持ってきてますね……」

 ここにきてモモチ衆の有能さが仇になった。彼らは今までうちのコンビニを知らなかったような奥地まで文字通り草の根分けて入り込み、宣伝した、してしまった。

 さらに悪条件が重なる。この世界では甘いものは基本高級品である。だがそれが手が届きそうな価格で販売されている。試食のケーキを食べた子供が笑顔をこぼした。さらに本日限りで通常価格よりも安い。村長は断を下した。コンビニへ行くぞ! と。

 コンビニに初めて来た人たちは困った。通貨を持っていない。だが素材を買い取ってくれると知るや買取窓口に殺到する。全員を対応していては間に合わない。集団のリーダーに声をかけ代表して対応してもらうことにした。

 店外買取カウンターがいつの間にか設置されている。どっかで見たビヤ樽親父が一家総出で素材買取を始めていた。とてもイイ笑顔である。

 地図を広げ集落の場所を記入する。あとでキャラバンを送り込むのだろう。馬車1台でも送り込むことができれば、今後の取引ができる。

 またドスンと音がした。コンテナが着荷したようだ。早速コンテナの開封に向かった。


 その日は閉店時間を大幅にオーバーして、騒動は収束……していなかった。コンビニ周囲には商品を買えなかった、もしくは追加購入を希望する人々がキャンプを張っている。どうすんだこれ……?


 結局、この騒動は7日間続いた。コンビニの七日間戦争として伝説に……したくねえ。翌日は1日店を閉めて全員が寝て過ごした。本当に誰一人部屋から出てこなかったのである。

 まあ、いろいろとメリットはあった。まず店の認知が大幅に上がった。来客数が大幅向上である。基本冒険者のごついおっさんどもが主要顧客であったため、デザート類はあまり売れていなかったが、主力商品の一つに大化けした。家族に買って行くといった需要も生まれたため、セット値引きを導入した。

 そういえば、4号店のジョージ店長がヘルプで来てくれた時に持ち込んだ企画商品が大ヒットである。やくそうと包帯などをひとパックにしたファーストエイドキット。冒険者たちにバカ売れである。


 さて、改めてタブレットを操作していて気付いた。異常な量の発注には確認のメッセージが挟まることに。あの騒動の前日、スイーツ類の発注に頭を悩ませており、これくらい売れたら面白いだろうなーって量を入力していた。もうあれだ、そのあと少し居眠りをしてしまったのだが、その時にピンポイントで発注ボタンを押してしまっていたようである。実に器用だ。

 そしてその事実がカエデちゃん経由で全員にばれた。あの7日間のカフェオレとケーキの利益を均等割りでボーナスにすると約束するとみんな喜んでくれた。

 さて、今回カフェオレとケーキ類を特価販売していたが、あれ、ほとんど利益が出ない。当たり前だが値下げ分は利益を食いつぶす。無論それ以外の商品も売れているし、素材買取による利益も出ている。だが今回は特価販売消費の利益とあらかじめ伝えた。

 帳簿を公開したうえで個々人にボーナスを渡す。特価商品の販売数14000点、利益は1つあたり2ゴールド。よって利益は28000ゴールド。俺の分は除いて一人4000ゴールド。

 もっともらえると期待に目を輝かせていた彼らは崩れ落ちた。最初の但し書きの意味を知って恨みがましい目を向けられたが俺は知らん。

 まあ、この騒動以降売り上げ、利益ともに大幅に伸びたので、定期支給ボーナス査定は大甘にすることにしたのだった。

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