魔国の変遷
さて、事情を聴いた。とりあえず王都からライル王子を召喚している。王子をさっくり呼び出せる当たりなんか裏ボスとか言われるのも……納得できねえ。
「姉上、生きてたんですねえ」
「どういうこった?」
「まあ、兄上からすれば、勇者が魔王を討伐してしまうとまずいわけですよ。もしそうなれば姉上と結婚させてそのまま跡継ぎまっしぐらです。兄上の存在意義がなくなります」
「それはそうなんだろうけど、ぶっちゃけるね」
「そもそも私兄上のスペアとして育ってますからねえ。そこらへんはドライにもなりますよ」
「まあ、わかる気がする。ってことは……?」
「ええ、絶対に生還不可能な秘境に放り込んだはずです」
「おい、結果としてだが、あの勇者さ、身内なんだけど?」
「それは知らなかったとしか言えませんね。まあ、責任は父王と兄上にあります。追求しちゃっていいんじゃないですか?」
「いいの?」
「それはもう。私自身はコンビニで生計立てちゃってますし。妻も見つけました」
「要するに王族に戻るメリットがない?」
「そうです。ああ、これ書類です。ついでに持ってきました」
「ん、わかった。あー、副店長にするのね。なら手当てがこれくらいと、これ結婚祝いね」
「ありがとうございます。ってこんなに?」
「まあ、先日ちょっと本店でね?」
「ああ、七日間戦争ですか。壮絶だったそうで」
「同じこと王都でもやるかい?」
「ご勘弁を。ただまあ、多めに商品を仕入れてチラシとかで告知する手法は使わせていただきます」
「はは、抜け目ないね。どんどんやっちゃって。あとうまくいった手法とか商品は報告してくれたら評価にプラスするよ?」
「オーナー、ここに報告書が」
「掌返しはええな……ほほう。いいね!」
季節ごとの贈答品を用意するといういわば日本ではありふれた手法である。貴族は季節ごとの贈答を行い、コネの構築や見栄を張りあう。そこに付け込んだわけだ。さらに、母の日や父の日など、祝い事の火を提案し、日付はでっち上げてしまう。5の月、2回目の休日は母に一年間の感謝を贈りましょうと言った感じだ。さらに言葉だけではなく気持ちを形にしましょうとか、記念になるものを贈りましょうと言った煽り文句で盛り上げる。
まあ、普通と言えば普通だ。だがここでポイントになるのは、王子たるライル君が父母に感謝の気持ちを形として贈ったという事実である。そして王がそのことを貴族たちに自慢話として広める。こうかはばつぐんだ。
さて、王女についてだがまあ、勇者について行った時点でいない者として扱われたらしい。呼び戻すにも人手がいるし、そもそも行方不明である。探さないで下さいと置手紙があった時点で、王とレイル王子は嘆息一つで王女をあきらめたらしい。ある意味ひどい話だ。
さて、ライル君の報告書を魔国王都に向け転送した。魔国でも同じようにキャンペーンを展開し、かなりの利益を叩きだした。
コンビニ開店から魔国内部に大きな変化が起きたそうだ。これまでは職人とは武具を扱う者だけだった。だが戦いが一時的とはいえ遠ざかり、平和が享受され出す。もともと生産量が足りなかった。食料しかり、物資もだ。それを戦いで補っていた。王国軍の物資を奪ったり、略奪によってである。
だがその欠乏をコンビニが救った。店に行けば基本何でも手に入る。これまであまり見向きもされなかった素材の収集や魔物の狩猟が推奨され始めた。コンビニに素材を持ち込めば通貨や食料に交換してくれる。素材をため込めば武具になる。
ここでアベルが取った施策は、コンビニの昨日としての仕入れだけでなく、現地の産業を発展させるためそちらへの発注を徐々に増やした。職人は武器職人だけではない。様々な生活を支えるための道具類を作る人々がいる。そんな彼らに対して投資をした。
モノづくりが発展してゆく。素材調達に伴い、魔物の領域が開拓される。食べていけるので人口が増え、それに伴って消費が増大する。またタルーン商会のキャラバンは、様々な財物をもたらした。トルネさんのとった方策も、王都から先は隊列を散開し、小さな集落にまで荷を運ぶ。
行く先々で、通貨を提示し、これをためればいろんなものが買えると教え込んだ。珍しい布地や甘味、服飾品などである。そして近隣でとれる素材を買い取った。これはコンビニに持ち込んだり王国まで持って帰って売りさばく。
魔国は空前の発展を遂げていたのである。そして魔王夫妻がラグランを表敬訪問することとなった。
特に俺なんもしてないんだけどな。
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