新商品はなかなかに難しい

「いらっしゃいませー!」

 俺は笑顔でお客様を出迎える。

「はい、やくそうですね。今ならお得な3つセットがありますよ。はい、ありがとうございます!」

「はい、素材ですね。ありがとうございます。アイギス! こちらのお客様素材買取です。受付よろしく!」

「はーい!」

 戦場ではその盾で多くの仲間を守り抜く彼女も、ここでは一介のコンビ移転員である。笑顔で素材を受け取っている。

 むしろ持ち込んだ冒険者はどうもアイギスに気があるのか、毎日のように彼女指定で素材を持ち込んでいた。

 出かける前に、相場の高い素材を見て、可能な限りそれを持ち込んでくるという念の入れようである。逆に、ある程度日替わりで不足している素材は変わる。

 昨日はオーク肉が不足。今日は鉄鉱石が不足。そして明日は? そういった日替わりになる素材を毎日持ち込めるあたり、腕は確かなのだろう。

「はい、ありがとうございます。不足品なので買い取り1割増しですね。お支払いどうなさいますか? はい、ポイントですね。カードお預かりします……はい、追加完了しました。いつもありがとうございます!」

 アイギスの笑顔と、「いつも」の一言にパアアアアアアと笑顔を浮かべて去ってゆく。だが若人よ、騙されてはいけない。買取の履歴はカード単位で端末に表示される。ここ二週間、毎日買取の履歴が残っているのだ。別に顔を覚えていなくても、いつもありがとうございます程度は言えてしまうのだ。

 そして、ぶっちゃけると、彼女目当ての客は多い。今の彼のようなことをしている冒険者は片手の数では聞かない。

 そしてこれはオチであるが、アイギスは非常に顔覚えが悪い。たぶん、足しげく通っている冒険者の一人たりとも店から出たら顔を覚えていないだろう。

 そもそも、俺の顔すらまともに覚えていなかったしな(笑)


 さて、街づくりとか戦争とか、いろいろやっていたけども、俺の仕事はコンビニ経営者である。コンビニが本職である。大事なことなので二度言った。

 この前の戦いでブロマイドの種類がまた増えた。他にも活躍した冒険者のコラボグッズも増やした。かの有名な剣士ダルトンはコンビニで買った剣を使っていたとか、重戦士ルカはコンビニで買ったお守りのおかげで命を拾ったとか。

 駆け出し冒険者がコンビニで買った鎧のおかげで彼女ができました。バラケルスさんのエンチャントのおかげで髪が生えてきました……待て、最後のフレーズ誰のだ!?

 うちの商品のおかげでXXになりましたというキャッチフレーズである。誇大広告にならないように注意しつつ、ポスターを各地の店舗や出張所に張り出してゆく。

 ごつい髭面をゆがめて笑顔っぽい表情を浮かべるダルトン氏。これで意外と女性ファンが多い。最近人気が出ているのが、猫獣人の軽戦士、シェラである。本人の許可を得ている前提であるが、日向で丸くなってすやすや眠るブロマイドを出したところ、バカ売れした。いざ戦場に立つと敵はその動きを捕らえられず、次々と討たれる。

 そしてこれはトップシークレットではあるが、彼女には旦那がいる。この秘密が漏れたら暴動の一つくらい起きるかもしれんなあ……。


「季節ものだ!」

「てんちょ、恵方巻でもやるの?」

「ナギ、それは向こうではタブーになってしまった」

「でもこっちじゃ関係なくない?」

「んー、なんかゲン担ぎ的な感じにしてみるか?」

「専属冒険者の皆さんに協力を仰ぐんだね。わかります」


 いろいろとアンケートを取ってみた。冒険に出る前、戦闘に参加する前、いつもやっていることは何ですか?

 答え。剣を研ぐなど武器の手入れ。一度町を離れたら食べられないものを食いだめる。信仰している神に祈りをささげる。要するに出した人数分くらいの返答か返ってきた。まさに人それぞれ。

 ひとまず商品として万能砥石を開発。刃物であれば、ある程度のメンテナンスができる。無論、強い衝撃などでゆがんだりすることもあり、その場合は専門の職人によるメンテが必要だ。

 携行食料の開発。カロリーの友のほかに、ゲロ甘チョコレートやショートニングを大量に練り込んだハイカロリークッキーなど。少量で栄養と言うか、カロリーをとれるようにした。登山食のようなイメージである。味付けもしっかりと行ったため、これは非常に売れた。

 あとは簡易祭壇。小さな神像を祭ることができる。これでいつでもどこでもお祈りが! とやったが、これは不評であった。なかなかうまくいかないものである。

 こうして新商品開発に試行錯誤を繰り返すのだった。

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