武器は冒険者の相棒です

 さて、ドワーフの里から仕入れた武具を検品する。というか数打ちでも十分に品質が高い。ルークがソードブレイカーを見てため息を吐いていた。

「ルーク、どうした?」

「ああ、店長。これが半人前の習作とはとても信じられなくて」

「ん?」

 気になって鑑定してみた。ランクB、作者:フリッジとある。

「ルーク、これBランクだわ」

「やっぱり!?」

「うん、ていうか、ほしいの?」

「んー、俺の適正考えると、正面から斬りあう騎士じゃなくてスカウトの方が向いてるんですよね」

「ふむ。けどそれって……」

「ええ、実家からはいい顔はされないでしょうね。けどまあ、とりあえず何かの功績を上げれば」

「まあ、しばらくは大きな動きはないと思うけどね」

「まあ、魔国と王国が講和しましたしね。実は実家から戻ってこないかって話もあるんですよ」

「君はどうしたい?」

「店長には返しきれない恩がありますんで」

「それは気にしなくてもいい。天引きで代金の回収は終わってるし、それは伝えたと思うけど?」

「まあ、お金の問題じゃなくて困ってるときに手を差し伸べてもらえたのが嬉しいんです」

「そんな大したことはしてないけどね」

「仲間の命を救われたなら、こちらも命で返します。冒険者の流儀ってだけじゃなくて、騎士の家に生まれた者としての、そうですね……誇りです」

「そうか、まあ君の好きにしたらいい。それにルークがいてくれると俺も助かる」

「そう言ってもらえて光栄です」

「ははっ」

 野郎同士でなんかさわやかな笑みを浮かべた瞬間、ルークの顔が真横にずれた。そして彼の顔があった場所にはうちの制服の一部の編み上げブーツのつま先が見える。

 つま先から本体をたどっていくと、すらっと伸びた脚はそのまま引き締まった体へとつながり、釣り目がちの美女が目を怒らせていた。当然のようにリンさんである。

「るーーーーーーーーく! 何サボってんのよ!」

 うん、そのセリフが先じゃないかな? とりあえずルークはこめかみを的確に打ち抜かれて意識は明後日の彼方へと飛んでいてるし。


 そうこうしているうちに武器の仕分けが完了した。ランクDからAまで様々だった。一部はバラケルスに預けて魔力付与を行わせる予定だ。

 とりあえずある程度の収益が見込めるめどがついたので、武器を使うスタッフには現物でボーナスを支給した。リンさんにはミスリル拵えのロングソードを、ルークにはさっきのソードブレイカーと聖銀のダガーを、レナさんには魔力付与がよさげなミスリルのメイスを、ラズ君には適当な武具がなかったので、ちょいとした伝手で入手した魔導書をあげた。

 さて、明日はセールだ。準備もできたし解散しようか。と思ったが、一つ気になることがあり、転移魔方陣へ向けて歩き出したのだった。


「いらっしゃいませ! コンビニハヤシへようこそ! 店主自らがドワーフの里で仕入れてきた武具の数々、全て一品ものです。お早めにお求めください!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

「武器お買い上げのお客様はポイント5倍セール中! ふるってお買い求めください!」

「「「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 店内は大混雑だった。武器の奪い合いも出てきたがその場合は問答無用で制圧する。そしてその場でじゃんけんをさせ、勝った者がその武器の購入権を得るというルールをその場で決めた。

 まあ、武器も様々なら使う者もいろいろ、人生いろいろである。

 実際に振るってみて違和感を覚えたりとかもある。武器の重心があっていないとか長さとか、握りとかまあ、いろいろな要因があるだろう。

 そして命を懸けた戦いのさなかではそのわずかな違いが命を奪うこともある。

 そう、ここで俺は秘密兵器を投入した。ドワーフの里からスカウトしてきた鍛冶師のデルガド師である。

「皆さん、武器は手にしっくりきますか? 今日は特別サービス。先着50名様、ここなるドワーフの鍛冶師がフィッティングをしてくださいます。なんと無料!」

 俺の一言にデルガドさんがジト目で見てくる。

「ブランデー飲み放題。氷もつけましょう」

 彼は無言でサムズアップをしてきた。

 ところで、ドワーフの里はかなり標高の高いところにある。俺はグラスに氷を落とし、そこに酒を振り掛ける、いわゆるオンザロックと言う飲み方を提案してきた。

 スピリタスを煽って飲む猛者はさすがにドワーフでもおらず、この飲み方は歓迎されたのだった。そしてウィスキーやブランデーとかも彼らに喝さいをもって迎えられた。

 正直酒の原価は武器の価格と比べればただみたいなものである。まあ鉱石などの素材も提供し、酒代はほぼ加工費用というあたりに調整はしている。


 デルガドさんは武器を持ち込んできた冒険者の体つきを確認し、武器を数回振らせた。そして俺が設置した簡易炉に武具を入れて加熱するとハンマーを数回振るう。そしてごくわずかな工程にしか見えなかったが武器のランクが上がっていた。なんてチート。


「どうじゃ?」

「なんだこれ!?」

「うむ。お主の戦闘スタイルからちと重心をいじってみた。うまくいったようじゃの」

 そのまま俺はその冒険者を案内する。

「こちら試し斬りコーナーとなっております」

「ってこれてつのよろいじゃないか」

「万が一刃がこぼれた場合の修復は無料で致します」

「ふむ……そこまで言うなら……」

 彼の目が鋭くなる。呼吸を整え、裂帛の気合と共に振るった。

 音はしなかった。まるで幻影を切り裂いたかのような光景で、剣は鎧を素通りしたかに見えた。

「なんだよ、勿体付けて空振りかよ」

 残心の姿勢のまま固まる冒険者。彼が剣を鞘に納めた瞬間、鎧は今朝がけに真っ二つになっていたのだ。

「なんという切れ味。ドワーフの鍛冶師とはこれほどか……」


 この一幕がきっかけとなって店内の武器争奪戦は熾烈さを増した。だがまあ、平等にじゃんけんで購入権を決し、レジを通した際に所有者の刻印を行う。これは後で強奪を防ぐという建前だが、実際問題として転売防止の対策でもあった。

 デルガドさんは忙しく手を動かしている。というか複数の武器を同時進行で打ち直しているように見える。一応あの人里では中堅どころって聞いてたんだけどな。それであのレベルか。


 その日は大盛況のままに営業を終えた。そして閉店と同時にデルガドさんは冒険者を集めて酒盛りを始めていた。磊落な彼の人柄は冒険者たちに受け入れられたようである。

 こうしてコンビニハヤシの名物商品がまた一つ増えたのであった。

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