技術供与と酒盛りと

 ドワーフの里に赴いていた。技術供与のためだ。タブレットの武器リストにある武器がないことに気付いた俺は様々な調査を行った。

 そして出た結果。日本刀は遺失技術によってもたらされた秘法扱いだということ。

 ムラサメとかマサムネとかキクイチモンジという刀は存在するし、冒険者のジョブ(職種)としてサムライも存在はする。

 だがここでいう侍は刀を振るう剣士ではなく、説明文には「剣術を極め、攻撃魔法を習得した剣士。彼らの刃には鎧も盾もその意味をなさない。主君に忠義を誓い、そのために死ぬことを喜びとする変質者」と書かれていた。最後の一文には全力で抗議をしたい。これでも一応元日本人で侍の国の出身だからだ。

 ただまあ、外国から見た日本ってイメージがいろいろとねじ曲がっているので、それもある意味仕方ないのかも知れない。これが侍の名誉回復のため刀の製法を探し、それをドワーフの里に持ち込んだ経緯である。


「ふむ、興味深い」

 俺の説明した内容にヘパイストス氏が目を見開いている。

「複数の性質の違う鋼を組み合わせ一本の刃とするか。これを考え出した者は真の天才じゃな」

「俺の故郷の技術です」

「というか、遺失技術である伝説のニホントウの作り方とはな……お主の底が知れぬわ」

「私はしがないコンビニ店長ですよ」

「それを本気で言うておるから始末が悪い。まあよいわ、たしかに承った。試作品ができたら早急に送ろう」

「よろしくお願いします」

「うむ、ところで、わしらのやる気を引き出す命の水じゃがの……」

「そうですね。ウオツカというのですが……」

「ほう……くううううううううううう!」

「厳寒の地で作られた酒です。胃の腑に染みわたる熱さが病みつきになりませんか?」

「これは良い!」

「あとは酒精は弱いですが、ブドウ酒です」

「ほう、良い香りじゃな……ふむ、これはうまい。女子供にもこれなら行けるな」

「あとは蜂蜜を発行させたミードなどですかね」

「ふむ、これは甘い。だが同時に力がみなぎってくるな」

「まあ、今更ですが、酒なら何でもありなんですね……」

「まあ、よく言われるが、強ければいいというものでもないんじゃよ」

「それはそうですね。各々好みもありますし」

「というわけで貴様らも入ってこい! 今夜は飲み明かすぞ!!」

「うええええええええ!?」

 大挙して押し寄せてくるドワーフたち。どうも酒の匂いを嗅ぎつけて長老の屋敷を取り囲んでいたらしい。慌ててタブレットで各種酒のオーダーを入れる。彼らのおかげで大もうけしたこともあり、投資と割り切って大盤振る舞いをした。


「ここなる林殿は我らに多くの酒をもたらしてくれた救世主である。さらに新たな技法を授けてくれた。これは後程主要な鍛冶師に伝える故、飲み過ぎぬように」

 無茶言いやがる。酒を前にお預けができるなんぞドワーフじゃねえ。

「では、新たなる友に。乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 そこから先はよく覚えていない。なんかいつの間にか杯を重ね、気づいたら朝だった。

 里の中央にある広場で累々と横たわるドワーフたち。いっそ何かの襲撃でもあったのかという体たらくだ。

 というか、真横から聞こえてくるいびきは……ヘパイストス氏だ。お互いの腕を枕にしてぐーすか寝ていたようである。なんと嫌な朝チュンか。


「うぬぬ、まさか飲み比べでわしと引き分けるとはな」

 起き出したヘパイストス氏の第一声がこれだった。ていうか記憶は遥か彼方にかっ飛んでおり時間でも巻き戻さない限り復元できないだろう。

「いえいえ、さすがは長老、見事な飲みっぷりでした」

 よくわからんままに話を合わせる。

「うむ、気に入った! わしの娘を連れてゆけ!」

「はっはっは、だが断る」

「ンだとゴルァ!?」

「というか最愛の嫁がいるのにそこに追加されてもお互い不幸になるでしょうが」

「なに!? 貴様! 嫁がいるのに儂の娘に手を出したのか!」

「出してねえええええええええええええ!」

 

 そこで唐突に風切り音がした。ゴスンと鈍い音が鳴り、くるっと白目をむくヘパイストス氏。

「もー、お父様。どんだけ酔っぱらったんですか!」

 うん、両手持ちの金属でできているメイスが直撃している。フツー頭蓋骨砕けるよな。なんて頑丈なんだドワーフ。などと現実逃避気味な思考に耽る。

「あ、どうも初めまして。長の娘のヘレンと言います。よろしくお願いしますね、婿殿」

「ちょ!?」

「あらあら、さすがに冗談ですよ」

 ころころと笑う幼女。どうもドワーフという種族は背丈があまり伸びないらしい。男性は盾に押し潰したような体格になるが、女性は一応縦横のバランスがとれている。しかし……上から下まで見事なまでに凹凸がない。などと考えているとふと殺気を感じたので左手にシールドを展開してガードすると、見事に1枚突破された。要するにゴーレムのパンチと同じ威力ってことか。

「ウフフ、何を考えてらっしゃったのかしら」

「なに、たわいもない事ですよ」

 改めて話を聞くと、デルガドさんは一応若手の有望株で彼と恋仲らしい。一安心した。こんな合法ロリを嫁その3として連れ帰ったら修羅場待ったなしである。

「ということで、ラグランというところに私も向かいますね。夫を助けるのは妻の役目ですし」

「了解、宿舎を夫婦向けに変更するように伝えておきます」

「はい、ありがとうございます」


 とりあえずこれ以上ここにいるとややこしいことになると考えた俺は転移陣を使ってヘレン嬢を連れてラグランに戻る。

 そしてデルガドさんの部屋に案内したところ……酔いつぶれて寝ていた。

 ふっと空気が冷えた感じがしたので、俺はそのまま踵を返す。

 背後から野太い断末魔が聞こえた気がしたが気のせいだと思うことにしたのだった。

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