店長研修 チェーンストアについて

「さて、これよりコンビニチェーン研修を始めます」

 壇上でそう宣言すると各店の店長と、本店副店長のルークが立ち上がり拍手を始めた。


「先ずチェーンストアとは何か、これを理解してもらえることでより良い店舗運営に生かしてもらえればと思います。各地にお店ができまして、みなさんの努力により、順調に業績は伸びております。しかしながら、各店独自の問題や悩み事もあることでしょう」

 ここでいったん言葉を切る。全員の視線が自分に向いていることを確認してさらに言葉を紡ぐ。

「チェーンストアとは何かを一言でいうならば、同じルールで運営されたお店の集合体です。我らはコンビニという業態ですが、例えば本店の人が他店に異動しました。ではすぐに仕事ができないかと言えばそういうことにはなりません。

 商品の並び、価格、POSの操作から発注などの運営についても同じ基準で構築されているからです。これを標準化と言います」

 このタイミングで店長の一人が手を上げる。

「質問よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「はい、標準化のメリットとはどのようなことでしょうか?」

「そうですね。先ほど申し上げた内容にかぶりますが、従業員の立場から申し上げたメリットが先ほどの内容となります。では、お客様の方から見るとどうでしょうか?

 たとえば、本店の常連様が王都に旅行に行きました。そこでは本店ではあったはずのポーションがない、もしくは質が大きく異なる。これを見たお客様はどう思うでしょうか?」

「……場合にもよりますが失望されると思います」

「おっしゃる通り。ということは標準化することで、どこへ行っても同じサービスを期待できる。即ちお客様に大きな安心感を与えることができます。無論地域ごとに、お客様に合わせたニーズを拾うことは忘れてはいけません。北の寒い地域に涼しさをアピールしても意味はありませんし、暑い地域であったか商品も無意味でしょう。標準化された店舗はほとんど手を加える余地はありません。けれどゼロではないのです。そこに諸君らの創意が入り込む余地がある。私はそこに期待しているのです」

「ありがとうございます。よくわかりました」

「はい、では話を進めます。ああ、そうそう、疑問がありましたら都度挙手するように。あとからよくわかりませんでしたは通用しませんよ?」

 その一言で場の雰囲気が改めて引き締まる。

「さて、標準化を成し遂げるには、店舗のオペレーションを誰でもできるようにしなければなりません。本店でやっている鍛冶師によるフィッティングや、錬金術師によるエンチャントは例外ですが、商品の陳列、清掃、レジ作業などはどのスタッフも同じようにこなせなければ意味がないのです。

 これを単純化と言います」

「単純化のメリットは何でしょうか?」

「そうですね。それこそ鍛冶師の弟子入りではないですが、実際にその仕事に就いて、一人前になるまで10年かかるとしましょう。のれん分けをして店が増えるのはいつの事やら」

「確かに」

「チェーンストアの目標とは、極論すれば社会を変えることです。社会の隅々までサービスをいきわたらせ、人々の暮らしをよくすること。これが理念です。無論そのためには従業員の皆さんの幸せも同じく叶えないといけません。コンビニハヤシはお客様のためと従業員のためにあるのです」

「オーナー! 感動しました。涙が止まりません!」

「はっはっは。では泣き止むまで休憩にしようか」


 うん、リビングアーマーなのに涙が止まりませんとはこれ如何に? まああれだ、この世界のシステムと同じ、考えたら負けだな。うん。


 15分後。講義が再開される。

「さて、単純化、標準化と来て、次なる話をしましょう。それは差別化です」

「具体的にはどのようなことでしょうか?」

「ある分野においてほかの追随を許さない強みを持つことですね」

「いろいろとありすぎてどれの事ですか?」

「まあ、今はそうかもしれないですが、今後はわからないですよ。どんな天才が出てくるかわからないですし」

「は、はあ」

「まあ、うちの強みははっきり言ってしまえば物流です。タブレットを押すと次の瞬間には商品が届いている。これはまあ他にないですね」

「行商人泣かせすぎです」

 ゲストとして招いていたトルネさんがぼやく。まあ、今更だし、あんた十二分に儲けてるじゃないかと……。

「最近導入したATMとFAXサービスで金融、情報伝達においても参入できました。ただし手数料を高めに設定しています」

「なぜでしょうか?」

「同業者を圧迫しすぎないためです。飛脚や早馬が廃れると、それに付随する産業も衰退することはわかりますか?」

「はい、馬を育成する農家や、実際に手紙を運ぶ者が失業します」

「そういった者による影響はわずかかもしれませんが、敵を作ることとなります。なるべくならそれは避けたい。逆に、うちの店舗を拠点として、FAXで届いた手紙をさらに現地に届けるサービスを考えています。そうすればお互いに利益を生むことができる。同時に今まで手紙を届けることすら困難だった地域にサービスを提供できる。これによって利益が生まれます。

 むろん対立を完全にゼロにすることはできません。しかしそれを最小限にし、お互いの利益を生み出すことができれば、長く商売を続けることができるでしょう。利益は回さないと意味がないです」

「回す?」

「単純に言うならば、そうですね。たとえば皆さんの給与を最低限にします。それだけで店には利益が生まれます。最低限の生活は保障すると。商品を値上げしてもよろしい。利益率は大きく上がります。

 けれど、それでは先細りになるということです」

「といいますと?」

「従業員の皆さんは一度店を離れれば顧客、もしくは潜在的な顧客ということです。休みの日にコンビニを利用する方もいますし、店舗周辺の店を利用する人もいるでしょう。そうすることでお金を使います。店舗周辺の店の売り上げ、利益が上がればそれに関わる人たちも利益を得ます。そうすれば、再びうちの店で商品を買ってくれることが期待されます」

「なるほど!」

「故に、あなた方の給料を高めに設定しているのはそういう理由もあるのです。大いに消費してください。お金は巡り巡って、仲間を連れてきます。

 ついでに言うと、休日をしっかり取るようにしているのもそういう理由です。家と職場の往復だけだとお金使う暇がないですからね」

「なるほど、レイル王の政策はここからきていたのか!」

「さわりは説明したことはありますよ。それをしっかりと自国の政策に落とし込んだのは彼の王様の功績ですね。大したものです」

 王国の仕組みすら変える影響力を持っていると考えた店長たちの目の色がさらに変わる。まあ、それなりに上昇志向が高い連中だからな。

 モチベーションアップになってくれればいいさ。

 しかしながら見渡すとやはり若干腑に落ちない表情をしている者がいる。よって少し説明の切り口を変えることにした。

「そうですね。同じギルドに所属する冒険者を想像してください。防御が得意なものが前衛を勤め、味方を守る。攻撃が得意なものがダメージを与える。回復職は盾役を守り維持する。

 よくあるパーティの役割分担ですが、チェーン運営はそれと同じことが言えます。

 例えば攻撃や防御の合図をあらかじめ決めておけば共通の認識を持つ冒険者であれば、すぐに連携に参加できます。

 みんなが同じ質のポーションを持っていれば回復量が共通化できるので、指示にぶれがなくなります。

 装備品の規格を決めておけばメンテナンスやそれにかかわるコストを下げることができます。まあ、ものごとはそこまで単純ではありませんが、冒険者をやっていた方が多いので、この説明なら少しは理解していただき易いでしょうか?」

 これの説明はうまくいったようだ。目を輝かせ頷くものがいる。


「さて、今日のところはここまでとしましょうか。研修二日目は本部と店舗の役割についてお話します」


 挨拶が終わり講義室から出る。ああ、疲れた。慣れないことはやるもんじゃないな。

 けどまあ、意識の統一はチェーンをやる以上必要なプロセスだし、ここでしっかりと基礎を固めないとな。

 凝った肩を回しながら俺は講師控室へと戻った。

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