店長研修 店舗運営の心がけ

「さて、では講義を始めます。店舗を経営するにあたって必要なものは何かについてお話します」

 俺が話し始めると雰囲気が引き締まった。いい傾向だ。


「経営の目的を順に説明すると、まずは利益を上げることとなります。そのためには商品を販売しなくてはならない。商品は食品であったりサービスであったりと様々ですが、各店、得意な分野があると思います」

 この言葉にうなずく店長とその候補生たち、熱気のようなものが伝わる。

「さて、利益を上げることが大事だと言いました。しかしそれ以上に大事なことがあります。わかりますか?」

「売り上げでしょうか?」

「正しいがこの場合の正解ではないですね」

「利益を上げ続けることですか?」

「その通り! 前回の講義で従業員の福利厚生について話しましたが、これもそれに繋がります。顧客、従業員、そして関連する商人などの関連事業主。これらを総括してステークホルダーと言いますが、これらすべてに利益がないと長期的に事業が立ち行かなくなります。

 顧客から利益を取るため高額な価格設定で商品を売れば顧客は離れてゆきます。店の利益を確保するため従業員の給料を削ればこれは仕事の質の低下や離職を招きます。そして、関連する商人に利益を提供できなくなれば、我がコンビニだけでは手が届かない分野も発生し、結局サービスの低下につながります」

「しかしそれでは経営がものすごく難しくなりませんか?」

「そのための本部です。本部がその土台を作り、みなさんがそれを実行する。ステークホルダーとの利益調整はこちらで実施します。故に、みなさんが全力で戦うべきことは、目の前のお客様に如何に誠実に対するかということとなります」

「ならばそのことだけを学べばいいのでは?」

「そういう意見もあるかと思います。しかし、私が皆さんに望むことはそれにとどまらない。本部の手足になるだけではなく、店の頭脳としてより良くするためのアイディアを上げていただきたい。そのためには本部の為すべきことを理解し、同時に最前線に立っている皆さんからの情報をいただきたい。

 それにただの手足が本部に上がってきて働けますか? ああ、誤解の無いように先に伝えます。店長の上位には複数店舗を統括するスーパーバイザーを置きます。ここからは本部付の役職となります。幹部候補生ととらえていただいて差し支えありません。

 優秀な店長はどんどん上にあげます。よい働きをした人には相応の待遇を約束します。しかし一つだけ誤解してほしくないことがあります」

 その一言に皆が固唾を呑む。

「定時は守ってください。無論止むを得ない残業は認めます。ですが、仕事が終わらないからとずるずる残業をしたり、それを部下に強要することは許しません。これは、クビになりうる重大な規則違反と認識していただきたい。

 定時に仕事を終えることができないということはいくつか理由があります。仕事量が多すぎる。人が足りない。能力不足などなど。

 そこで思考停止をしないでください。仲間と上司と、そして本部を頼ってください。必ず手を差し伸べます。なぜならば、誰かの犠牲の上に成り立つような組織は必ず破たんします。

 そして、ここまで大きくなったコンビニハヤシが破たんすれば、大きな不幸がばらまかれます。一滴の水が集まり川を作り出すように、蟻の一穴で堤防が崩壊するように、きっかけは些細なことかもしれません。けれど、私はその可能性を限りなく0にしたい。

 だから問題が発生したら、それを周囲に知らしめてください。現場で解決できるに越したことはありませんが、現場で解決できない問題を上に相談することは全く恥とは思いません。それを抱え込んで問題解決の道を閉ざし、さらに問題を深刻化させることこそ悪です。それを心に刻んでください」

 場の雰囲気が引き締まる。まあ、あれだ、ブラック会社は悪だからね。


「そして、これから店舗のアドバイスやフォローをするスーパーバイザーの皆さん。報連相を忘れないでください。

 すなわち、報告しやすい環境、雰囲気を作る。連絡は密に行う。相談されたら必ず対応するということです。

 さらには、怒らない、否定しない、対応する、指示する、おひたしも忘れずに。

 そうそう、今度のおかずメニューにはほうれん草のおひたしを投入します。あとで試食もやりますので、お楽しみに」


 少し場の雰囲気が緩む。うん、ここらが潮時だな。

「以上、店舗運営に当たっての心がけとします。今回はここまで」

 挨拶が終わり、休憩に入る。精神論だけになってしまったことを若干後悔していたが、なんか机に突っ伏して泣いてるやつがいた。俺、この仕事に一生を捧げるとか言っている。

 うん、ソルジャーげっとだぜ(笑)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る