店長研修 利益と売り上げについて

「さて、店長研修も3日目です。今日は売り上げと利益についてお話します」

 俺が話し始めると雰囲気が引き締まる。この研修の重要性はしっかりと浸透しているようだ。

「何のための経営かチェーンとは何かをお話してきました。前回は若干話がそれてしまいましたが、商売をやる以上は利益を上げなければいけません。ここでいう利益は、最もざっくりと計算するならば、売り上げ-経費となります。

 すなわち、今日は15万ゴールドの売り上げがありました。そして経費は14万ゴールドでした。利益は1万ゴールドです。簡単ですね」

 ここで会場から笑いが漏れる。けどまあ、そんな簡単な話で終わるわけがない。

「では、店舗を運営するにあたり、経費をすべて把握している方はいますか?」

 数人を使命して答えさせる。仕入れ、人件費、光熱費様々な答えが出た。どれも正解である。

「そうですね、みなさん、日々の職務をしっかりと把握されているようで安心しました。では売り上げはどう計算するのか。計算式は客数×客単価となります。売り上げを伸ばすにはどちらかの数字を上げればいいということになりますね。

 では客数を伸ばすにはどうするか? 一番簡単なのは値下げすることです。ミネラル水を今まで150ゴールドにしていたのを120ゴールドにすればいい。それ以外でもかまいません。販売数の上から3位くらいまでを値下げすれば爆発的に伸びるでしょう」

「しかしそれでは利益を下げることになりませんか?」

「そう、その通り。それに一度値下げを始めると切りがなくなります。一度下げればお客様は喜びますし、来客も増えます。しかしその後価格を戻すと……値上げしたと思われてしまうのです」

「なんと理不尽な……」


「まあ、そこは気にしても始まりませんがね。そういうものとして割り切るしかありません」

「では値下げは下策ということでしょうか?」

「必ずしもそうではありません。例えば最初から期限を切る。今日から10日間値下げします。これを何種類かの商品でローテーションすることで来客増加効果は見込めます」

「なるほど!」

「そういった施策は本部主導にて実施いたします。現場はその作業を確実に行ってください。ある店舗では値下げされていて、ほかの店舗ではやっていないということになるとお客様を失望させます」

「承知しました!」

「無論時間に余裕をもって指示します。チェーンの強みは、足並みをそろえることによって発揮されます。そこを忘れないでくださいね」

「「はい!!」」

「さて、次は販売商品の構成についてです。客単価は販売単価×販売点数となります。単価を伸ばすのは実は意外と難しい。やくそうとひかりの剣があるとして、1日にどちらが多く売れますか?」

「やくそうです」

「そうですね。ひかりの剣はダンジョン最前線の店舗でもないと1日1本も売れないのではないでしょうか?」

 ここで笑いが起きる。

「まあ何が言いたいかと言うと、まず店の環境ごとにしかけを変えないといけないこと。それと、販売点数を伸ばす仕掛けを作ることです。ダンジョン最前線の店舗ならば、エンドのディスプレイに鎧兜、盾剣の一式をセット販売などもいいと思います。

 ですが大都市圏の店舗ですと売れる物が違ってきます。売れ筋のスナックなどを置いたほうがいいかもしれません。

 ここからは本部方針ですが、店舗のスタイルを大まかに分けて、最前線をA、街道をB、都市圏をCといったカテゴリ分けを行い、プロモーションや仕掛けもそれに合わせて変更します。自分の店舗がどのカテゴリに入るのか、しっかりと確認をお願いします」

「3パターンしかないのですか?」

「無論、AよりのBみたいな部分もあると思います。あくまでも基本方針となります。現場のアレンジもありですが、あまり逸脱はしないでくださいね」

「ということは商品の構成も変わりますか?」

「都市圏で高性能な武具を置いても売れにくいですよね? 無論取り寄せ対応などは行います」

「承知しました!」

「あとは客層によるアレンジもありです。レジ前のスペースなどフリーにできる部分は用意しますので、ゴブリン族が多い店舗ならば工具を増やすとか、リザードマンの皆さんはミネラル水を好みます。そういった部分ですね」

「品ぞろえによって販売点数を増やすということでしょうか?」

「そうですね。買いやすい品を揃える、後は売れ筋を見る。消耗品は回転が速いので、そこも押さえるべきです」

「食品はそうなるとかなりの比率を占めますね」

「そうですね。レジ前のフライドフーズなどは利益も取れますので、ぜひ積極的に販売してください。タイムセールなどもありです」

「伝説のハヤシオーナー手ずからの唐揚げ棒ですか?」

「伝説って言うな(笑)。まあ、店長自らが範を示すのは悪い事ではありません」

「わかりました!」

「まあ、いろいろと話をしましたが、正解というものはありません。結果が出た内容が正解という程度です。そして正解の形は日々変化します。

 一日売り上げが落ちたとして、それで変に落ち込む必要はありませんが、それが続いたときはなにがしかの原因があります。日々の変化を見落とさないようにしてください。

 そして適切に対応をしてください。それができるから皆さんは店長という肩書を持っているものと自覚してください。

 では、本日は以上となります。お疲れさまでした」


 研修も3日目となり活発な議論が出てきた。俺がしゃべるだけではなく、店長サイドからも意見や質問が出てくる、いい傾向だ。

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