VSドラゴンってなんてテンプレ!?

 忙しさもひと段落して、交代で休憩を回していたその時だった。すさまじい咆哮が聞こえてきた。

 グオオオオオオオオオオオオン!

 浮遊城の方から凄まじい騒ぎが聞こえてくる。そう自覚した瞬間俺は走り出していた。

「バルド!」

 あ、呼び捨てなのは、この前こう言われたからだ。

「あなたは私の旦那様じゃから、わたしのことはバルドと呼び捨てにしてほしい」

 なんですかこの可愛い生き物。そりゃ抱きしめますよね。って今はそんな場合じゃなかった。

 全力で駆け抜けるとなんか後ろにソニックブームができた。ガ〇ルのアレじゃなくて戦闘機とかでできるやつな。

 するとなんかでっかい生き物が見えてきた。バルドが魔力を剣に流して衝撃波を叩きつける。あれはゾンビの軍を薙ぎ払ったやつだ。だがその生き物、ドラゴンには全く効果を現さなかったようだ。

「旦那様!」

「バルド!」

 とりあえず魔力を掌に集め叩きつける。なんとか後退させることができた。その隙を縫ってバルドを回収する。

 ところで、魔王も強い存在ではある。人外の力を持ってはいるが、あくまでも人である。世界にはそれすら凌駕する生き物がいる。災害指定とかされてるやつらだ。そしてこのドラゴンも当然災害指定である。

 そしてこのドラゴンというやつにはアンデッドのようなわかりやすい弱点がない。いうなればひたすら力押しをするしかない。小手調べの魔力弾はとりあえず相手を退かせたが効果があったとは言えない程度だ。ふむ、これはいかん、決め手がない。

「バルド、下がってなさい」

「はい、旦那様!」

 キラキラしたまなざしを俺に向けてくる。そのまなざしを裏切ることなど俺にはできない。これがあれか、愛というやつか、無限の力が湧いてくる……気がした。


 ぴこーん。新たなスキルに目覚めました。

 スキル:愛・戦士 嫁が近くにいるとステータスアップ


 なんというご都合主義。なんか魔力の集まりがさっきよりもなめらかである。そして冷静になって相手を見ると、なんか目がうつろである。とりあえず、足の裏に魔力をためてそれを一気に放出することで跳躍する。そして空中で俺は技名を叫んだ。

「か~〇~は~〇~破!」

 背後に向かって魔力を放出し、その反動で弾丸のように飛び出す。イチ〇ーさんも習得済みのアレだ。

「俺のすべてをこの拳に賭ける……ぶち抜けぇぇ!」

 先ほどドラゴンに魔力弾を当てた感触は……堅牢な結界だった。なので拳を焦点に、魔力を一点集中して叩きつける……ガキイイイイイイイイイイイイイイイィンと甲高い衝突音のあと、ガラスが割れるような破砕音が響く。そして若干勢いを弱めつつドラゴンの脳天をぶっ叩くことに成功した。

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 派手な悲鳴を上げてドラゴンがぶっ倒れると……ぼやっともやのようなものがドラゴンを包んで、そのあとに残されていたのは……幼い少女だった。そして彼女の口がこう動いた。おなかすいたと。


 がふがふがふがふ。なんだろう、大型犬がエサ皿に顔を突っ込んでいるところを幻視していた。少女は目を覚ますと、すっごい勢いで俺がコンビニから持ち込んだ食料を平らげ始めた。後ろでカエデちゃんが少し頬を赤らめている。どうも身に覚えがあるようだ。

「お兄ちゃん、お替り!」

「誰がお兄ちゃんや!?」

 ツッコミを入れつつ新たな弁当を渡す。がっつき始める。頬っぺたと口周りを拭く。何これかわいい。

 そうして10人前以上の食事を平らげ、やっと人心地ついたようだ。人というか……ドラ心地?


「えっと、初めまして。古龍のナギっていいます」

「うん、俺はコンビニハヤシの店長やってるケイタって言います」

「よろしくね、お兄ちゃん」

「俺は君のお兄ちゃんじゃないんだけど?」

 そう告げると彼女、ナギは少し表情が固まっていた。

「おかしいな……お兄ちゃんって呼びかけたらたいていの人はデレデレになるのに……もしかしてこのひと妹属性がない?」

「おいまてこら」

「ん? ごめんねお兄ちゃん?」

「もういいって。で、君何処出身?」

「えーとね、日本ってわかるかな?」

「やっぱり同郷かよ!?」

「うわー、コンビニって聞いたしなんか見覚えのあるお弁当出てきたからまさかって思ったけど」

「っておい……まさかだが、君」

「あれ? 店長じゃないですか!?」

 どうやらこいつは元バイトの龍法院美凪であるようだった。俺が転移してきたあの日、バイトに来るはずのこいつが来なくて店に一人だったのだ。そしてもう一人のバイトに電話している最中にあの地震が来た。あとはみんなの知ってる通りである。

「とりあえず、どうする?」

「店長、また雇ってください」

「仕方ねえな。わかったよ」

「ありがとー!」

 抱き着いてくるナギを躱す。ついでに魔力弾を撃ち込んで奴の身体をずらす。一瞬前までナギのいた場所をアロンダイトが通過する。まあ、こいつのスペックも非常に高いから、斬れないかもしれないが念のためだ。

 そしてとりあえずバルドを抱きとめる。というか、俺がナギを抱きとめていたら一緒に真っ二つだったわけだが……。

「旦那様どいてそいつ殺せない」

「いやいかんて」

「浮気、浮気なの?」

「この子はね、俺と一緒なんだ」

「どういうこと?」

「俺と同じ世界から来たんだよ。だから保護したい。ダメかな?」

「んー……この子ドラゴンだから、ペット枠?」

「そうだな」

「待って、それひどい、待ってえええええええ!」

 ナギがなんか叫んでる&土ほこりまみれだが気にしないことにした。

 ひとまず俺たちはナギを回収し、コンビニで事情を聴くことにしたのだった。

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