歓迎の式典

 王都ヴァルスは巨大な都市だった。街路には石畳が敷き詰められ、水路も行き交っている。主要な場所には衛兵が立ち、不審な者ははいないかと目を光らせる。その衛兵もレベルが高く、並の冒険者であれば全くかなわないだろう。

「どうかの? 我が都は」

「素晴らしいですね。魔王陛下を筆頭に国がよく治まっているのがよくわかります」

「おい、それは皮肉かね?」

「まあ、先日のアレはまあ……雑魚でしたし」

「一応、我が国随一の猛将なのだがねえ?」

「しつけ直しが必要ですね」

「ああもう、ペットみたいに言ってやるな……」

「というかですね、魔王陛下の力をもっと誇示したらいいのでは?」

「そうすれば身の程知らずは減るか?」

「ふむ、面白い。と言うか婿殿よ。そなたの宰相の地位をやってもよいと思うのだが?」

「それは身に余るお言葉。ですがお断りします。私はしがない商人ですので」

「おぬしがしがないならば、頭角を現すものがいないということになるがの?」

「ならば我が友人を紹介しましょう」

 そこでトルネさんを引っ張り出す。

「トルネと申します」

 ほぼサプライズで引っ張り出したが、堂々としている。大した人だ。

 魔王陛下と昔話をしつつお互いの腹を探っている。目がお互い笑っていない。火花が飛び散るようなにこやかな会話というのもなかなかに珍しい。


「ところで婿殿。儂を見て何か感じることはないかね?」

「ん……かなりレベル上がってますね?」

「ふふふ、もうバルドにも遅れは取らぬ!」

「ふむ、ならば陛下を含めて模擬戦などどうですか?」

「模擬戦じゃと?」

「ええ、陛下の力を示すことで不埒ものどもが蠢動するのを押さえられますし」

「よいな、さっそく進言してみよう」


 本の雑談程度のつもりだったが、王国と講和が結ばれていることもあり、各地の領主を呼び寄せての大規模イベントにされてしまった。俺もエキシビジョンで参加する羽目になる。相手は秘密とか言われた……

 しかも、イベントの理由がコンビニハヤシオープン記念イベントとか言われたら断りようがない。とりあえず、店舗はすぐに建てた。キースさんとビビアンさんが動き回っており、さらに和風リビングアーマーと言うか、動く日本式甲冑の信親さんとろくろ首のモミジさん。ちなみにビビアンさんとは親類で、魔力を実体化させて首を繋げているとか。だからその魔力を切ればただのデュラハンになるって……怖いよ!?


 さて、そんなこんなで魔国一武術会がひらかれた。なんで俺主賓席にいるんだろう? 隣にはバルドがドレスを着てふんわりと笑っている。出会った頃は凛としたたたずまいだったけど、あれは誰も信じられなくて壁を作っていただけだと今はわかる。

「あなた、バルドがあんないい笑顔で……」

「そうだなあ。バルドはいい婿を見つけたものじゃ。くくぅ……」

 そして後ろでなんか不穏な会話をするバルドの両親こと魔王陛下とその旦那。


「皆の者、今日は良く集まってくれた。今日はめでたきことがある。かの名高きコンビニがついに我が王都に出店の運びと相成った!」

「「「ウワアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」

「それゆえに祭りを催すこととした。皆、楽しんでもらいたい!」

「「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

「では最初の試合である。わが娘、黒騎士バルドと、コンビニオーナー、ケイタ殿。前へ!」


 はい? バルドと試合ですと? 謀ったな?!


「旦那さま、胸をお借りします」

「ああ、いいよ、来なさい」

 余裕があるように見せているが、実はそこまで平静ではない。バルドの趣味が組手であるので、彼女の戦闘技術は俺の身体的スペック差を覆しかねないほどになっている。と言うか毎日しているので手の内はお互いわかっている。要するにいつぞやのように一方的に勝敗を決めることはできないと言ってよい。


「行きます!」

 さすがにアロンダイトではないが、質の良い剣を手にこちらとの距離を詰めてくる。こちらははじゃの剣を手にしている。

 大上段からの斬り降ろし、体を横にして捌く。そのまま振り上げてくる。上体をそらしてかわす。次々と技巧、力ともに備わった攻撃が飛んでくる。

 決まった型の演舞をするかの如く、ひらひらと攻撃をかわす。右手の剣はだらりとぶら下げたまま。その姿を見て感嘆する観客たち。そして気づく、バルドは汗を散らし、息を弾ませ始めているが相手をするコンビニオーナーとやらは息は乱れず汗もかいていないことを。

「旦那様はやはり強い。これで……どうじゃ!」

「うわっと、危ないなおい」

「これでも当たらぬか、てえええええええええええええい!」

 剣を水平に突き出し、相手が避けた方向に剣を振る。

「って平突きかい!? お前は新選組か!?」

「戦術の鬼才、近藤勇の考えた平突きに死角はない!」

「おま、バルド、俺の部屋の漫画、また読んだのね?」

「てへ?」

「ってことは……あれをやる気か」

 俺が初めて剣を構える。バルドがカカっとバックステッポして突進してきた。

「たあああああああああああああああああああああ!」

 ほぼ一呼吸で九回の斬撃が叩き込まれる。そんなもん避けられるわけもなく、同じ斬撃を合わせて受ける。そしてそんな衝撃が加われば剣はぽっきりと折れた。数打ちの品だしなあ。

 そのまま左右の突きから回し蹴り。ちょ、お前スカートでハイキックはやめなさい。今日も黒か。

 とりあえず懐に飛び込み、ほっぺにちゅーして耳まで赤くなったところを両方の胸の中心をつついて動きを止めてやった。というか、腰が砕けてへたり込んだ。

 あまりの決まり手に観衆は唖然としている。そして頭から湯気を噴いているバルドと、鬼の形相のお義父さんがやってきて俺は舞台裏に連れ込まれたのだった。

「孫の誕生が楽しみじゃのう」

 のんきなお義母さんこと魔王陛下であった。

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