逆襲からの……

 ビビアンはキースの胸甲を開き、武器と爆裂の呪文が仕込まれたオーブを取り出した。

「うふふ、うちらをだまし討ちにしたことを後悔させたるでぇ……」

【目にもの見せてやろう!】

「ぽちっとなー」

 魔力を込めてオーブに流す。そしてそれを外壁に向け転がす。キースは盾を構えその背後にビビアンをかばった。

 ズズンと腹から響くような爆発音が砦を揺るがす。その響きを合図にケイタたちも動き出した。


「さて、行きますか」

「承知じゃ!」

「お手柔らかに」


 指先に魔力を集中し、鉄格子を切断する。そのまま魔力弾を飛ばし番兵を打ち倒す。鍵束をトルネさんに渡しておく。トルネさんはその体躯に似合わない素早さで順番に牢を開き、仲間を救出してゆく。

 カエデちゃんが合流する。彼女は先に牢から抜け出て情報を集めていた。

「主殿、こっち」

「うん、ありがとう、助かるよ」

「いい、ご褒美は……娘がいい……かな」

「うん、って何を言い出すの?」

「バルド義姉さんだけはずるいと思います」

「了解、善処します」

「約束……ね」

「カエデ、私が先なのじゃ!」

「接吻で気絶してるようじゃ主殿にあきれられる日も近い」

「ぐぬ、旦那様! 子供を作るのじゃ!」

「ああ、ええ……カエデちゃん、わざと煽ったね?」

「こうでもしないと私の番がいつまでたっても来ない」

「ごめん、苦労を掛けるね」

「いい、愛してるから」

 唐突な言葉に俺の全身が燃えたように熱くなる。スキルが発動した感覚があった。


 この騒動の首謀者は、ドラゴニュートのリンドブルム伯レキスであった。彼はその武勇を誇り、魔王の王配には自分が相応しいと主張していた。だが過去の男が舞い戻ってきて、しっかりと魔王の旦那に収まった。となれば、一人娘を力ずくでも妻にして王家に連なり、更なる権力を濁ろうと考えたとのこと。

「人の嫁をなんだと思ってやがる……」

 とりあえず俺の怒りが有頂天に達した。


 砦の中央、閲兵場に竜人族の将軍がふんぞり返って立っていた。大剣を手にこちらを睥睨していた。でかい。二メートルはありそうな巨体だが鈍重な感じはしない。強靭さとしなやかさを兼ね備えているように見えた。

「貴様がバルド姫をたぶらかした異世界人か?」

「たぶらかすことすらできない脳筋が口を開くんじゃない」

「なっ!?」

「取ってつけたような言葉しか話せないのか? その程度じゃバルドを口説けるような言葉も出てこないだろ? 土台貴様には無理なんだよこの三下」

「ならば言葉はもういらぬ。我にその力を示せ!」

 レキスが全力で大剣を振り下ろす。その軌跡を見切って横から魔力を込めた手刀を叩きつけ剣を切り飛ばす。

「なにぃ!?」

「誰に焚きつけられたかは知らないけどな。俺のレベルは178だ。それは知っていたか?」

 ぶんぶんと首を横に振る。尻尾がぺたーんと垂れ下がっている。完全に戦意喪失していた。

「で、うちの嫁をどうするって?」

「ご結婚おめでとうございます! 全力で祝福させていただきます!」

「だそうだ、バルド」

「リンドブルム伯の忠節、母も嘉したもう」

「ははーー!」


 砦の外が騒がしいと思ったらカエデちゃんが確認してくれていた。王配率いる魔王親衛隊が砦を包囲しているとのこと。

「バルドーーーーー!」

「おお、父上ではないか」

「無事か?」

「わが夫がそばにいて危険があるはずがないのじゃ」

「むう、だがその武勇は本物じゃのう。レキスをひとにらみとは……」

「犬をしつける時とおんなじ要領ですよ」

「あの、魔王軍随一の猛将を犬呼ばわりとかやめてあげてください……」


 トルネさんのキャラバンにも被害は出なかった、積み荷も問題ない。リザードマンの戦士たちはドラゴニュートの兵に憧れを抱いているようだが、それを鎧袖一触にした俺はなんか遠巻きにされた。ザル君だけが普段通りに接してくれており、ちょいと嬉しい。


 なんだかんだあったが俺たちは王都にたどり着くことができたのだった。

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