家族のだんらん……?
仕事から帰ると、子供たちが出迎えてくれた。長女のハルカはバルドが旦那様の国の名前を付けたらどうかと言われ、つけた名前だ。
「ぱぱー、お帰りなさい!」
バルドそっくりの白い肌に、ブラウンの瞳は俺に似たようだ。にぱーと笑う顔を見ていると、一日の疲れが消えてゆく。
「さあ、晩御飯にするのじゃー」
「はーい!」
テーブルにつき、バルド特製のスープを飲む。うまい。若干赤みが多いのは彼女の種族的な部分もあるのだろうか。まあ、血のスープと言うのも料理には存在はする。今日のはちっとばかり辛い。
ハルカはあまり気にせずにパンをかじっていた。ハンバーグを口に入れもきゅもきゅと口を動かすのが可愛らしい。
少しすると、リビングにあったベッドから泣き声が聞こえた。先日生まれたばかりの長男、ユウタである。
「あらあら、ユウタもご飯じゃの。うん、たくさん飲んで大きくなるのじゃ」
授乳するバルドはとてもきれいだった。慈母の微笑みを浮かべ、本当に幸せそうだ。
食事を終えて、後片付けを手伝う。洗い終わった皿をハルカが片づけてくれる。すっかりお姉ちゃんだ。
ユウタを抱っこしてソファに座る。まだ声を発したりはできないし、目も開いていない。だけども、親譲りの魔力を感じる。ハルカはすでに4歳にして並の冒険者と互角に戦える。遺伝子すげえ。
「ねえ、パパはどうしてママと結婚したの?」
「あらあら、ハルカはおませさんじゃの?」
「んー。パパはね、ママを大好きだったから結婚してもらったんだ」
「おー。ぱぱかっこいい!」
「むう、てれるのじゃ……」
母親の喜びの感情が漏れ出しているのか、息子がきゃっきゃっと笑っている。こんなに小さくても感情がある人間なのだ。俺の目線と表情に気付いたバルドがゆったりとした笑みを浮かべる。俺と同じことを感じているに違いない。
「じゃあね、パパはママをなんで好きになったの?」
「そうだなあ……ママはね、とてもきれいな人でね。すごく優しい人なんだ」
「そうなの? けど怒ると怖いよ?」
「そうだね。けど優しいから怒るんだよ?」
「そうなの? でもそうだね。ママは優しくてきれいで大好きなの」
「ケイタ、ハルカ……」
バルドは耳まで真っ赤だ。表情は緩み切っている。にゅふにゅふふふふふふといつもの含み笑いも聞こえる。可愛いなあ。
「怒られた時、ハルカはいけないことをしていなかったかい?」
「うん、そうなの」
「逆にね、ハルカが良いことをしたときは?」
「ママはにっこり笑って私を撫でてくれるの」
「ママがにっこりしてたら嬉しいよね?」
「うん、なんかね胸があったかくなってはにゃーんってなるの!」
やべえ、この娘可愛い。この笑顔のためなら世界を敵に回しても構わん。結婚相手が来たら決闘を挑んでしまうじゃないか。お義父さんの気持ちがよくわかる。今度飲みに誘おう。
「ママはね、すごく困ってたパパを助けてくれたんだ。ママには何の得もないのにね」
「そんなことはない。ケイタは私を救ってくれたのじゃ」
「結果としてね。俺は何も知らなかったから。バルドの悲しみも孤独も」
「うーん、むずかしいの」
「もうちょっとハルカが大人になったらわかるよ。けどね、慌てなくていい。ゆっくり大人になりなさい」
「あい!」
そしてしばらく談笑する。俺の腕の中で眠る息子。バルドにしがみついて舟をこいでいる娘。かけがえのない家族だ。
「ふふ、かわいいのじゃ」
「そうだなあ。とりあえずベッドに運ぼうか」
「よろしく頼むのじゃ、パパ」
「はいよ、奥さん」
奥さん呼ばわりにバルドが真っ赤になって湯気を上げる。いくつになっても新婚時代のようでだがそれがいい。
子供を布団に入れ、そのままバルドを抱き上げて自分たちのベッドに入る。そして3人目仕込みにとりかかろうとしたその時、水をぶっかけられた。
「旦那様、いい夢なのはわかるのじゃ。けど駄々漏れなのじゃ!」
へ? 夢オチ? そういえばまだバルドとは子供ができるようなことはしていないというかできていない。ちょいとした接触でプスンとブレーカーが落ちるし、寝てるところをなんて……ねえ?
「いやあ、お熱いですなあ。私も息子に弟か妹を作ってやりたくなりましたぞ。あっはっは」
「トルネ殿!」
バルドは湯気を上げている。
「すまん、バルド。ついつい本音が駄々漏れに」
「しかしあれです。家族団らんの光景と言うのは、独り身にはしんどいようですなあ」
周囲を見渡すとトルネさんに従ってきた若い商人が壁に向かってつぶやいていたり無言で壁を殴ったりしている。俺、この旅から戻ったらあの子に結婚申し込むんだって旗を立てるやつもいる。やめろ、それはいかんやつだ。
などと周囲の状況を確認していると、ずどんと俺たちが閉じ込められている建物が揺れた。ふむ、キースさんたちが動き出したみたいだ。こっちもそろそろ反撃と行きますか……。
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