王都へ

 魔国王都ヴァルスにむけ、馬車を走らせた。今回は王都に向けて移動するキャラバンに同行している。ビヤ樽商人こと、トルネ氏が主導していた。彼は伝説の勇者の従者の子孫であるという。

 当時謀略によって妻を暗殺され狂った魔王がいた。魔国も王国もその力の前になす術がなく、異界より召喚された勇者が魔王と討ったという。その時、勇者の旅に付き従いその財布を預かって物資や資金面で貢献し、その名声をもって大きな商会を築き上げたらしい。

 だが時は流れてご先祖の威光も薄れ、先祖の築いた財産も散逸し彼自身は店舗を持たない行商人であるという。だが、ご先祖様ほどとは言わないまでも、王都に店を持つ身代の商人になることを夢見て毎日働いているとのことだ。


「いやー、ケイタ殿の伝手で魔国でも商売ができるとは」

「いえいえ、トルネさんの商才ですよ」

「ご先祖の話もあって、魔国に足を踏み入れる踏ん切りがつかなかったのです」

「そうなんですか?」

「ええ、ですが今代の魔王様は、過去にはこだわらぬと言ってくださいまして」

「器の大きい方ですよね」

「やー、あなたを取り込むためなら普通じゃないですかね?」

「ほえ? 私はしがないコンビニオーナーですよ?」

「あー……謙虚は美徳ですが行き過ぎるのもよくない。貴方は個人的武力で、世界でも五指に入る方だ。極端な言い方ならば、国を滅ぼしうる。そこを自覚していただいたほうが良いです」

「魔王様にも言われましたね、それ。ですがねえ、私の本質はいうなれば商人です。国を滅ぼしてどんな商売があるんですかと」

「ああ、確かに。おっしゃる通りだ」

 そういいあって笑う。この人とは気が合う。そう思ってふと口に出してしまった。

「王国で支店を出す時に、その店をやってみませんか?」

「おお、それはうれしいお話です!」

「それじゃあ……」

「ええ、店を持つならば最短の方法であることは理解しております。ですが、こんな身でもご先祖の誇りなんてものがありましてですね」

「うん、聞き流してください。ですが今の申し出は本心です。トルネさんとは今後とも末永いお付き合いを望んでいますよ」

「ありがたいことです」

 にっこりと笑うおっさん。髭面だが、丸っこい顔は人を和やかにする。そんな笑顔だった。


「ケイタ殿。前方にゴブリンの集団が」

 護衛を買って出てくれたリザードマンの戦士、ザルさんが報告を上げてきた。

「夜盗の類ですか?」

「いや、キャラバンのようです」

「ふむ、ならば挨拶だけでもしておこうか」


 ゴブリンの集団は、行商をしつつ各地を放浪しているそうだ。彼らは細工物が得意で、食料などの物資と引き換えに彫金細工や、金属の加工品を入手する。その細工が見事だったので、うちのコンビニに商品を下ろしてくれないか交渉することにした。コンビニ弁当を渡すと彼らは大喜びで、近いうちに寄ってくれることを約束してくれた。

 タブレットで店長代理のラズ君にメールを送る。どういう理屈でこれが機能しているのかは考えることはすでにやめて久しい。動けばいいじゃない。


「旦那様。父にはっぱをかけてくれてありがとなのじゃ」

「ん? やー、まさか領地を放り出していくとは、迷惑だったかも?」

「母上から、すんごいのろけまくった手紙が届いたのじゃ」

「……うへえ」

「なんか弟か妹、どっちがいいとか書いてあってじゃの……」

「うん、それはすでにできたのかこれから……」

「わからんのじゃ」

 そう言って頬を赤らめてぷいっとそっぽを向いた。思わず馬車の中に引っ張り込みそうになったが、にんまりと笑うトルネさんと目が合って、顔が熱くなる。

「若いっていいですねえ」

「あはははははははは」

 笑ってごまかす。なんか妻に会いたいですねえとつぶやいたトルネさんの表情が寂し気で、少しだけ、チクリと胸が痛んだ。


 そうこうしているうちにヴァルスに向かう街道へと入る。ゼルロン関門に差し掛かかったとき、魔王軍近衛兵に出迎えられた。とおもったら、魔王陛下の結婚に反対していた、むしろその結婚相手の座を狙っていた貴族に捕らわれることになってしまう。

 俺とバルドだけならばどうということはなかったが、トルネさんやその仲間の商人の皆さんを危険にさらすわけにいかず、ひとまずおとなしく捕まったのである。

 さて、どうしてくれようか……

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