レベルアップしました

 コンビニに帰り着いた。カエデちゃんがしがみついてきた。バルドさんは優しく引きはがし、なんか相談しているようだ。

 ふと気づくとタブレットにメッセージが来ていた。レベルアップのお知らせである。早速Yesをタップする。ぴかっと輝くのも慣れた。

 大口用窓口が増設された。馬車ごと横づけにして注文、そのまま進んで在庫置き場で積み込み。店内に入る必要がないというか、これただのドライブスルーだな。

 同じく商談カウンターもできている。新規の行商人はここで取引許可証の発行を行う。これは王国と魔王軍の共同で発行されているもので、うちに運用が任されている。

 さらに武具修理窓口も追加されたが、各窓口に常置できるほどの人がいない。うちのスタッフ7人で、休憩の人間もいる。だから日が落ちたら通常のレジ以外の受け付けは止めることにした。まず人の確保が必要のようだ。

 あと、バックヤードが拡張された。変な方向に。休憩室が拡張され、各スタッフの居室になっている。共用ではあるが、風呂ができていた。そして部屋割り、俺とバルドさんが同室なのは何かの悪意を感じた。それに気づいたバルドさんが耳まで真っ赤になっているのを見て萌えたのは内緒だ。

 ちなみに、ラズ君とルーク、リンさんとレナさんが各相部屋である。カエデちゃんはこれまでの仮眠室を使ってもらうことにした。次のレベルあたりで独立した住居になるんじゃないか?

 なんか部屋ができたことで従業員満足度は上がったと思われる。風呂に入ろうとしたらバルドさんとカエデちゃんが入っていた。ボコボコにされた。けど幸せでした。


「君たち、そんな装備で大丈夫か?」

 ルークが声をかけているのは女性のみ5人のパーティであった。珍しくリンさんが飛び掛かっていない。前にスカートで飛び蹴りをしたときに自動ドアが開き、吹き込んだ風にスカートが……うん、思い出したらバルドさんにしばかれる。自重だ。

「大丈夫だ、問題ない」

「いや、未知のダンジョンに挑むときは最大限の備えをすべきだ」

 ルークがまっとうなことを言っている。めずらしい。

「ならばどうしたらいいと言うのだ?」

「この装備などどうだろう? ルビト彫金工房の最新作だ」

「ふむ、一つ聞きたいのだが……なぜビキニアーマーなのだ?」

「俺の趣味だ!」

「ヤッチマイナー!」

 リンさんも加わって5人がかりでボコにされるルーク。あんた漢や。

「レナさん、カタログからご予算聞いてお見積もりをお願い」

「はいはーい。お客様、こちらをご覧くださいな。これとこれで、こう組み合わせるとですね……」

「ふんふん、おおなるほど!」

「で、これをこうすると」

「いいね!」

 顔本か! と突っ込みを内心で入れる。そんな俺の内心を知らずにレナさんは商談をまとめていく。女子力たけー。


 ボコにされたルークは、後頭部をリンさんに踏まれぐりぐりされている。彼の右手が上がった。そして俺に向けサムズアップしてくる。俺はそれをきれいにスルーしたのだった。


 今日の夜勤はルークだ。もちろんバックヤードには皆いるし、不測の事態があったらすぐに声をかけられる。

 ところで、ルークはかなり腕利きの剣士であった。実はまっとうに試合をしたら、リンさんと互角かそれ以上らしい。ただ、このあたりで冒険者として名前を売る前に最初の依頼に失敗してしまい、そのままうちに居ついた。これらの事から何が起きるかというと……

「金を出せ!」

 三人組の覆面がルークを取り囲んだ。ナイフを突きつけている。とりあえず出ようとするとバルドさんに止められた。ちなみに、俺の部屋には店内監視カメラのモニターがある。

「お客様、当店ではそのような要求につきましてお応えできません」

「ふん、女たらしのへなちょこのくせに口先だけは一人前だな」

「で?」

「ぶっころ……」

 一人がいきなり崩れ落ちた。驚きに染まる残り二人もさっくりと倒し、電話を手に取る。彼らのギルドカードをはぎ取り、ギルドに通報する。奴らは拘束され、近くの鉱山に放り込まれることだろう。ちなみに、強盗はすでに片手の数では効かないほど入っている。そろそろ何か手を打つべきだろうか?

 モニターを前に考え込んでいたら、バルドさんがぴったりとくっついてきた。

「バルドさん、当たってます」

「当ててるのじゃ」

 そのあと無茶苦茶……以下黙秘します。

 翌朝の太陽は普段と違って見えた。

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