講和会談と新たな未来

 そしてやってきた会談当日。すでにある程度話はまとまっており、最後の挨拶だけらしい。立派なフルプレートに身を包んだ騎士様に案内され、ラグラン関門の内部に入る。城壁内の中央に宴席が張られていた。そこにすっごく場違いな俺が入っていく。なんというか、ジョゼフさん以外見たこともないしすごく豪華な服とか鎧とか着てるし、コンビニ制服の俺は浮きまくっていることだろう。

 テーブルは二列で、片方が王国、もう片方が魔王軍なんだと思うけれども、どっちも見た目は普通だった。後ろにいる護衛の兵とか騎士の人についても、なんか角生えてたり、尻尾あったりとしている。片方は中央にすっごいイケメンがおり、もう片方はものっそいゴージャス美女がいた。目が合うと蕩けそうな笑みを浮かべられる。思わずふらふらと付いていきそうだ。

 付き添っていたバルドさんに思いきりつねられた。それで正気に戻る。どうもあの方が魔王陛下らしい。バルドさんと目が合うと少女のような笑みを浮かべていた。


「えーと、お初にお目にかかります。コンビニハヤシの店長、林圭太と申します」

「うむ」

 なんかすごいイケメンに胡乱な目で見られる。そりゃそうだよね。

「私はレイルという。この国の王子で王位継承者でもある」

「はい、よろしくお願いいたします」

 そう言ってそのままぺこりとお辞儀した。すると場がざわめく。後で聞いたが、跪くのが普通の礼儀で、立ったまま一礼とは相手を対等に見ているという意味になる。この場でそれが許されそうなのは魔王陛下くらいだと後でバルドさんがいい笑顔で教えてくれた。そう、この会談の後でだ。

「ならば私も名乗るとしよう。ヒルダだ。魔王をやっている」

「はい、よろしくお願いします」

 ここでも俺はやらかした。同じように立ったままお辞儀で済ませたのだ。魔王陛下の周囲の人たちがなんかゴゴゴって魔力を放出している。だがレベル1の切なさ、相手の強さを肌で感じ取れない。すごいって言うのはわかるがどれくらいなのかがわからない。そしてそのまま立ち尽くした。

「はははははは、見事。これだけの猛者相手に平然とするとは! 見てみよ、王国側をおびえておるではないか!」

 ふと反対側を見ると、抜刀し盾を構えて魔力に耐えている。魔王軍は王国軍の半数ほどで圧倒したというのがよくわかる光景だ。これもあとからバルドさんに聞いたんですが。

「気に入った。ケイタとやら。私の婿になれ」

「うええええええええええええ!?」

「いかん!」

 バルドさんが俺の前に立って手をバッテンにしている。

「ほう、ヴァラキアの娘よ。我に立ち向かうというか?」

「うっさいわ年増! ケイタ殿に手を出すなら私が相手じゃ!」

「ああん? この小娘が! 誰が年増じゃ!」

「500年も生きてりゃ年増じゃろうが!」

「貴様、功臣の娘だからと目をかけてやっていれば付け上がりおって!」

 は? え? なんだって?

「えっとすいません」

 思わず割って入った。すごい疑問が浮かんだからだ。

「バルドさんって女性だったんですか?」

 空気が凍った。ぎしっと。

「というか気づいておらんかったのか?」

 魔王陛下がいい笑顔でこっちを見ている。なんだろう? 爆笑寸前といった風情だ。

「ケイタ殿……だからか、あの微妙な距離感は……」

「いやだって胸ないし?」

「これから育つのじゃ!」

 なんか胸元押さえて涙目でこっちを見上げてくる。萌えた。

「ソウナンデスカ……大丈夫だ、問題ない!」

「え?」

「胸がなくてもバルドさんは魅力的です! 今ちょっと胸がきゅんとしました」

 やべー、なんかドキドキする。これって恋?


「ふむ、ところで。あっちの連中は良いのかの?」

 魔王陛下が突っ込んだ。

「あ、ケイタ殿。うちの母方の姪がお世話になっているそうで」

「ジョゼフさん、なんの話ですか?」

「ええ、なんかうちの姪をもらってくれるそうで。ちなみに、カエデと言います。知らないとは言わせませんよ?」

「な、なんだってー!?」

「身も心も捧げますと言われていたのを冒険者中心に不特定多数が聞いておりましてな。そうなると今後の縁談にも差し支えますし。ケイタ殿にもらっていただくしかなくてですな」

「いやいやいやいや、ちょっとそれは」

「けども、ケイタ殿はそちらのお嬢さんと結婚されるのでしょう?」

「ほえ?」

「夫のために魔王様にも立ち向かう。それほど愛されておいて……ねえ」

「うえええええええ?!」

「ただまあ、それではバランスが良くないので、王国側、魔王軍側から各一人妻を娶っていただいて、これでバランスを取りましょうよ?」

 ふと王国陣営を見ると皆コクコクと頷いている。

「説明してもらっていいですか?」

「ふむ、レベル3の店舗を持つというのはだな、この世界を揺るがしかねないんだよ」

「はい?」

「伝説の大商人の本店でやっとレベル4だぞ? それにだ、君の店から供給される品は質が良すぎる。中級以下の職人を駆逐しかねないほどに」

「はあ……」

「ようするに、君を味方につけた陣営が圧倒的に勝ちかねないんだ。高品質の物資を大量に供給するっていうことはね、戦争を変えてしまう。あおしても倒してもポーションで復活するってのは悪夢だぞ? だから、今回の講和は君が原因ともいえるんだ」

「話についていけません」

「まあ、ね。それは仕方ない。だからあの店を中心に緩衝地帯を設けたのさ。まあ魔物の領域のど真ん中だし、都合はよかったんだけどね」

「そういうことだ。それと、ジョゼフから聞いているが君はいたって善良な人物だという。あえて告げるが首輪というか鎖だな、を付けてしまおうと」

「俺の人権はどこに行ったんですか?」

「最大限尊重しているぞ? してなければ今この場で討ち取っている」

「ちょ、ま!?」

「そんなことはさせんのじゃ!」

「うん、しないから。ちなみに君に拒否権はない」

「えーっと……お友達からでいいでしょうか?」

「変わった逃げ口上だな。まあいいさ、うちの娘をよろしくな、婿殿」

「ファッ!?」

「えーと、ヴァンピールって言うのは、ヴァンパイア族とそれ以外の種族のハーフでして」

「そういうことね。うん、まあ改めてだけども、バルドさんは命の恩人です」

「じゃあ、一生かけて恩返しをお願いします」

「はい」

 この時、俺は嵌められたことを知った。なんだろう、日本にいたときは喪男だったんだが、異世界に来て半年で嫁ができました。まる。

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