ルークとリンさんと呼び出し
なんか王国軍と魔王軍が講和するって話が聞こえてきた。少し意外だった。ああいうのってどっちかの国が亡ぶまで続くものじゃないのと。
「さすがにそんなことはしないぞ」
「そうなんですか?」
「今回突っかけたのは王国側だしの。しかも魔王陛下に返り討ちに会う始末じゃ」
「まあ、そうですね。だからこそメンツが立たんとか言い出すんじゃないかと」
「ケイタ殿は権力者のそばにおったとかか?」
「いえ? ただの一般市民です」
「ふむう、権力闘争とかに詳しそうじゃなあと思うての」
「いえいえ」
レジ内での雑談としてはいささか物騒な気もするが、まあ、異世界だしで済ましている俺はたくましくなったんだろう。図太くなったとか言ってるルーク、給料下げるぞ?
「はい、こちらのハイポーションを500本ですね。では在庫をご用意いたしますのでこちらへ」
リンさんの接客も手馴れてきた。最初はセクハラかましてきた冒険者のおっさんを問答無用で蹴り倒していたのだが。あの奇麗なおみ足で蹴ってもらえるとかなんというご褒美と感動していた紳士の皆さんもいたが、出禁かますぞ? と笑顔で伝えたところ、実にマナーの良い、文字通りの紳士になってくださった。
ルークは相変わらずだ。きれいな女性に対してよくわからない口説き文句をかます。そしてリンさんにしばかれる。ていうかあいつらもうデキてんじゃね? って思ってたらラズ君が教えてくれた。
「ああ、ルークの実家ってちょっといいところで、リンの父上がルークの実家で働いてるんですよ。というか、家臣ですね」
「へえ。ってことは?」
「ああ、別に婚約者とかじゃないですけどね。一応武家なので武者修行的に家から出されて、お目付け役にリンを指名したということで……」
「下心満載?」
「リンのほうはそういうつもりはなさそうですね。ただまあ、ルークの実家の評判を考えて止めてるのかなあ? けどルーク自身、とくに有名なわけじゃないですけどねえ」
「だよねえ。いつからあんな感じなの?」
「我々がここにお世話になるきっかけになった、リンが死にかけたときですね」
「なに!?」
「まあ、立場上、ルークが死んで、リンが実家に戻れるかってなりますよね?」
「そうだね、だからリンさんはルークをかばったのか」
「正直義務以上のことはないと思います。けどルークがそれでのぼせ上ってるのかなーと」
「ああやって気を惹こうとしてる?」
「たぶんですが……違和感はあるんですよね」
「うん、俺もそう思うんだ。まさかぶん殴られて目覚めたとか……?」
「そういえば、あの時初めてですね。リンがルークをドツキ倒したのって」
「「あははははははははーー」」
これ以上の会話と追及は誰も幸せにならないと悟った俺たちは、無理やりに会話を打ち切った。
「……主殿、おてがみ……です」
シャツの裾をクイクイと引っ張ってカエデちゃんが封書を渡してきた。
内容は意味不明だった。ジョゼフさんからだったが、講和に立ち会ってほしいという内容である。なんで俺??
「この店は冒険者たちの評判がよく、扱う品もよい。うちの父上からの情報によると、このあたり一帯がどちらも領有権を主張しない緩衝地域になるそうじゃ」
「はあ、バルドさん、唐突ですね」
「さっきからいたぞ? それでじゃな、両国の武官と文官が駐在することになってな」
「はあ、それと自分にどんな関係が?」
「ジョセフ殿はケイタ殿を自分とコネがあると見せたいのだろう。魔王陛下の方でも討ち取ったはずの王子がぴんぴんしていることに疑問を持っていたのでな」
「あー、それって……」
「たぐいまれな錬金術師みたいに思われているようじゃぞ?」
「神の雫を即座に用意したからですか」
「まあ、正直なところじゃ。あの折に王子が本当に死んでいたら本気で泥沼になりかねなかったからの」
「ですよねー。少なくとも魔王様を討ち取るまではみたいになりますよね」
「実際は、王子がそこそこ強くての、魔王陛下もそこまで手加減ができなかったようなのじゃ」
「ほえー、そりゃすごい」
「まあ、それゆえに魔王陛下がケイタ殿に興味を持っておって……じゃな」
「えーとそれって……」
「王国側だけでなく、魔王軍にも伝手があると……いうことにさせてもらえんかと」
「それってどうなるんですかね?」
「どちらかの陣営に付くのではなく、中立を保つように持っていこうと思うておる」
「あー、魔王様の使者なわけですね、今のバルドさんは」
「理解が速くて助かる。というかこういう時には察しがよくて……なんで……」
というあたりで来客が増えてきたので仕事に戻る。そういえば武具の修理依頼も最近多い。刃こぼれ凄いな、この剣。コンテナに入れてリペア依頼……ぽちっとな。ぴかっと光ってそこには新品同様の剣が出てくる。お値段はそれほど安くはないが、時間がかからないのがいいらしい。どういう仕組みになっているのか考えるのはもうやめた。できるんだからいいじゃない。
あ、リンさんが腰の入った震脚から崩拳を打ち込んだ。ズダンっていい音するなあ。被害者はもちろんルークである。お客様もいつもの光景になったのか特にリアクションはない。ある意味すさまじいな(笑)
そうして、三日後、俺はラグラン関門に出向く羽目になったのだった。
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