お手紙取り扱いを始めました

 コンビニハヤシは今日も大繁盛だった。キャラバンがやってきて馬車に荷物を積み込んでゆく。そういえばあのあと、補給責任者の人、ローエンド子爵ジョゼフ氏から手紙が届いた。ローエンド(低性能)なのにハイエンド(高性能)とはいかに? なんか俺のこのつぶやきがきっかけで、彼は後日家名をハイエンドと変えたそうである。

 そういえばなんかここを起点に様々な物資がやり取りされるようになっているそうである。カエデちゃんの実家は、忍者の元締めとか聞いたので、手紙の配達を考えた。お客様から手紙を預かり、うちの刻印の入った封筒に入れ封印する。これで中身が見られている可能性を減らす。まあ、大体想像がつくが、たいていは戦況の情報を王都に送る内容がほとんどだろう。というか、カエデちゃんがポンポンと手を叩くと黒ずくめの人が現れて手紙を受け取ると、シュッて消えるところを見て、すげーと感心した当たり俺も染まってきている。というか日本に戻って生活できるんだろうか?


「店長、大変です!」

 ラズ君が駆けこんできた。やべえ、いやな予感しかしねえ。

「なにがあったんだい?」

 勤めてのほほんと聞く。

「昨日大規模な戦闘があって、王国軍が敗北、ラグラン関門に立て籠もったらしいです」

「ナ、ナンダッテー」

 なんか状況がよくわからないがとりあえず深刻そうに答える。

「店長、よくわかってませんね?」

「うん、てへぺろー」

「あー、簡単に説明しますんで」

「ありがとね」

 ラグラン関門はやや山がちなこちらの土地と、平原の境界にある。谷間に築かれているのだが、魔王軍の一部隊が関門を攻撃した。それで退路を断たれると勘違いしたどっかの侯爵の兵が戦線を離脱、これで戦力の均衡が破れて王国軍が押し戻されたということらしい。

 うん、信長〇野望とか三〇志とかのシミュレーションゲームやっててよかった。ふとダメもとでカエデちゃんに情報を集めるように頼んだらポンポン手を叩くと、10人くらい黒ずくめが現れて、あちこちに散っていった。さすがにこれは度肝を抜かれたね。


 翌日、いつぞやの商談以来のジョゼフさんが現れた。やつれている。ちなみに、父上はジョナサンというらしい。ファミレスか!? ところで家宝に怪しげな仮面はないとのことだった。

「とりあえずポーションをありったけ譲っていただきたい」

「んー、在庫がこれくらいですから……冒険者の皆さん向けも残したいので、こんなもんでどうでしょう?」

「そういえば、冒険者のうわさで、ここで神の雫を取り扱っていたとか?」

「ああ、ありますよ。今から注文になるので、少しお待ちいただきますが」

 そう言うとジョゼフさんの顔から表情が消えた。

「儂をたばかるか? あれは調合に10日かかるんだぞ?」

「へ? ちょっと待ってくださいね」

 手元のタブレットを操作する。うん、神の雫、あるな。とりあえず1つ発注でタブレットの決定ボタンをタップする。すると目の前のテーブルに段ボールが現れた。

 ポケットからカッターを取り出し開封する。中から虹色に煌めくポーションのビンが出てきた。ふとテーブルの向こうを見ると口をあんぐり開けて固まるジョゼフさんがいた。

「そ、それはまさしく神の雫!? いくらだ、言い値を払おう。ぜひ譲っていただきたい!」

 あまりの剣幕に何かあったかと勘繰る。その時手元にひらっと紙片が落ちてきた。そこにはこう書かれていた。王子が魔王軍を食い止めた際に魔王と交戦、敗れて重傷を負った。と書かれている。それを俺は空気を読まずに音読していた。空気は読んでないが字を読んだのである。

 ジョゼフさんはもうあれだ、化け物を見るかのような目で俺を見ていた。

「えっと……三万ゴールドです」

 俺のセリフをきいてぽかんとしている。

「それは……神の雫の値段か?」

「うちの定価です。どんな時でも定価販売、というか定価より高く売りつける商売を私はしていません」

「恩に着る」

 そういうと金貨の入った袋をテーブルに置き、俺は段ボールにビンを戻して差し出した。

「破損防止の箱なので、安全ですよ」

「この礼は後日。また会おう」

 そう言い残して、ポーションを積み込む輸送隊を残して一人早馬で走り去った。


「ケイタ殿、良かったのですか?」

「なにがです?」

 バルドさんが妙に晴れやかな顔で俺に話しかけてくる。

「あのポーション、もっと高値で売ることができたでしょう?」

「だって、定価は定価ですからね。それにね、人の足元を見る商売って長く続かないんですよ」

「なるほど」

「まあ、それに、王国にコネができたらいいことあるかもって下心もありますけどね」

「ふふ、そうだの。けれど私はケイタ殿の高潔な心を尊敬するぞ、それでこそ……の……にふさわ……」

「ん? 何か言いました?」

「なんでもない!」

 いつものようなやり取りをしつつ、さっきの金貨袋の中身をPOSに投入する。きっちり三万ゴールド入っていた。

「えー、けちくせーなー。もっとくれてもいいのにね」

「店長がいいと言ってるのだ、お前が口を挟むな!」

 一呼吸で五連撃をルークに叩きこむ。ハリセンの打撃音がほとんど一つに聞こえるほどの技だ。無論というかルークの意識は明後日の方向に旅立っていた。口元が緩んでいるのは見なかったことにした。


 このやり取りが後日さらに大きな騒動を呼び込むことは、俺には想像もつかなかったが、テンプレ通りなのだろう。まる。

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