義父襲来

 バルドさんと義父さんがガキンバキンと斬り合いを続けている。というか速すぎて見えない。黒っぽい人影がすごい速度でぶつかり、離れ、その際に金属音が響く。

「はーい、名高きヴァラキア伯と、黒騎士バルドの一騎打ちを見物の方はこちらですよー。ワンドリンク制です。こちらのおいしいミネラル水は1本10ゴールドでーす」

「はい、掛札はこちらです。一口5ゴールドから! どっちが勝つか、目が離せませんよー!」

 うちの従業員、たくましいな。俺がいなくても大丈夫じゃね? 

 とりあえず、レナさんが素早く結界を作り二人の流れ弾を防いでいた。見物人席を素早く仕立て、リンさんが売り子をしている。ラズ君は掛札を販売し、店内のレジにはルークがぽつんと立っていた。

 袖を引っ張られる。カエデちゃんが俺の横に来ており、黒ずくめ鎧の青年二人に警戒を向けているようだった。

「ああ、すまん。自己紹介がまだだったね。わたしはあのバルドの兄で、カイン。こっちは弟のアベルだ」

「うん、妹がいつも世話になっている。義弟殿」

「は、はあ、よろしくお願いします」

「「ちなみに我らは双子だ」」

 完全にハモッた台詞を寸分のずれなく言い放ち、全く同時に同じ表情でニヤリと笑って見せた。なんかこれで見物料取れそうだなと失礼なことを考える。


 そうこうしているうちに、外の騒ぎは最高潮に達していた。やや押され気味になっていたことをカイン義兄さんから聞いた。そして、義兄さんのアドバイスに従い俺は声を振り絞った。

「バルドさん、頑張れ!」

「うぬ、ケイタ殿が私を応援している……にゅふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

「うむ、わが妹ながらあの笑顔はやばいな」

「ですねえ、あんなかわいい顔されたらたまんないです」

「お、おう。義弟よ、俺は君を尊敬する」

「はあ、ありがとうございます」

「だからもう一押しだ。妹をもっと有頂天にさせるんだ!」

「わかりました……バルドさん、愛してる!」

 その一言でバルドは耳まで赤くなった。なんかすさまじい高密度の魔力が彼女を中心に渦巻き始める。別の意味で、彼女の父親も憤怒の表情を見せる。

「娘はやらんぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「お父様、お世話になりました。バルドは幸せになります!」

「ぬあああああ、くらええええええええいハード・スラッシュ!!」

 大上段から振り下ろされる斬撃を躱す。そして下段から剣を振り上げる。

「てええええええええい、食らうのじゃ、パワースラッシュ!」

 振り上げた剣はフェイントで、相手がそれを避けるところで手のひらから魔力弾を放った。すさまじい密度で叩きつけられる魔弾が義父さんの顎を撃ち抜き吹っ飛ばす。バルドさんが辛くも勝利を拾ったようだ。


 そしてヴァラキア伯ジェイドは娘に正座させられていた。

「あのですね。バルド、美しくなったな」

「で?」

「立派になった。父さんはうれしいよ」

「で?」

「ほら、あれじゃ。娘を奪われる父の気持ちもわかってくれないか?」

「で?」

「ぬがああああああああああ、やっぱりお前はあの男にたぶらかされたのか!」

「で?」

 冷たいというにはいっそ鋭すぎる目線を父に向けるバルドさん。俺までぞくぞくしてくる。何かルークも少しうらやましそうだ。

「すまんかった」

 もはやプライドもなにもなく土下座するお義父さん。いずれ娘ができたら俺もああなるのだろうか……。

「うん、あれだ。義弟殿はあれと子供を作ろうと考えている時点でもう俺たちを超える器だ」

「いやあ……照れます」

「というかだ。あれは魔族のなかでも一二を争う力を持つ。父ですらあれで、俺たちが束になってもかなわぬ」

「ほえー、バルドさん強いんですね」

「はっきり言えば、あれは指先一つで君を消滅させられるということだ。恐ろしくないか?」

「なぜです? バルドさんは右も左もわからない俺を助けてくれました。一貫してです。彼女がいなければ俺は命がなかった。だから俺は信じます。恩人を信じられないとか人間としてどうかと思います」

「そうか。君は変わっているな。だが妹にはふさわしい。我らは君を全力で応援しよう!」

「ありがとうございます!」


 そうしているうちになんかコテンパンにされたお義父さんがやってきた。

「えーと初めまして。林圭太と言います。よろしくお願いします!」

 とりあえず全力であいさつする。その様子にぽかんとしていた。

「うん、我はこれの父で、ヴァラキア伯ジェイドという。君の話は先ほどから聞いていた」

「はい」

「ところで君はうちの娘をずっと男だと思っていたそうじゃな。そんな節穴にわしは娘をやるつもりはないぞ?」

「それでは、女性として下心をもって接した方がよかったと?」

「そうは言っておらん!」

「では何を言いたいのです?」

「うぬぬ……」

 そのあたりでアベル(たぶん)がアイコンタクトを送る。親指と人差し指で丸を作り、掌を上に向ける。それを見て意図に気付いた。

「そういえば、うちの店ですが、先日レベル4になりまして」

「なんじゃと!?」

 そのころ合いでひらひらと紙が手元に舞い降りる。中にはこう書かれていた。ヴァラキア伯爵領、財政破たん寸前と。

「さて、こういうのはいかがでしょう。うちの商品をお義父さんの領内で販売するのは?」

「それでどうなるのじゃ?」

「うちのポーションとか非常に評判がいいのですよ。伯爵家の御用商人と取引させていただいて、それを小売りに回します。売り上げが上がれば伯爵領の税収も回復しましょう。いかがです?」

「いやあ、婿殿。バルドは良き夫を見つけたのう」

 あまりに早い変わり身に、カインとアベルはため息をつき、バルドは先日入手した伝説のハリセン、ツッコミ最終兵器のイブシギン・タイムリーを振るった。六回閃いたはずのハリセンの打撃音が一回しか聞こえないような神速の打撃にお義父さんはあっさりと沈んだのだった。

 そして成り行きとはいえヴァラキア伯領都ヴァラキアに支店を出すことになりました。

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