支店準備は着々と

 さて、支店を出すにあたって、タブレットにその手のメニューができていた。何でもありだな。場所を指定して、店の規模、レベル1のみを指定してレイアウトを決める。あとは並べる商品などはテンプレートがあり、後は直接いじって決定。ノータイムで建物が建つ。本気で何でもありだな……


「んじゃアベル義兄さん。研修を始めますよ」

「はい、よろしくお願いします!」

「そんな硬くならないでいいですよ?」

「いえ、これは仕事です。わたしはここでは一新人スタッフです」

「わかりました。ではアベルさん。改めて、店長の林です。よろしくお願いします」

「はい!」


 こうしてPOSの使い方。タブレットを使った発注システム。店舗管理の全般を教えていった。さすが伯爵家の男子として厳しく仕込まれていたせいか……関係ないかもしれないが、とても優秀で、仕事をどんどんと吸収してゆく。

 というかなぜにアベルさんがうちで研修しているかというと、ヴァラキア領に出す支店の店長になることが決まっているからだ。身内びいきと言われたらそれまでだが、場所も場所だし、信用できる人物が望ましい。嫁さんの兄で、さらに現地領主の息子。コネとしてはある意味最大級である。

 仕事に励む俺たちをバルドさんがとてもイイ笑顔で見ている。にこにこしてたら本当に美人だなあ。きりっとしてるとイケメンなんだけども。それについて問い詰められた時は怖かった……


「ケイタ殿、それはわたしが女らしくないということかのう?」

「違うんだ。バルドさんってすごく顔がきれいなんだ。男とか女とかってレベルじゃなくて、ただ綺麗なんだ。けどね、今は笑ってるバルドさんが一番好きだな。それだけで俺は幸せだよ」

「ぐふっ、そそそ、そうなのか……にゅふ、にゅふふふふふふふふふふ、でゅふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

「うん、そういう笑い方も悪くないよバルドさん……」

「義弟殿。おぬしの器は無辺だな。果てが見えぬよ」

「やー、一度突き抜けたら変わりますよ。それに、かわいいじゃないですか」

「まあ、魔王陛下に真っ向から立ち向かおうとしたとか……無茶をする」

「そんなことされたら惚れますよねえ」

「む、むむむ、まあ……わからんでもないが」

「そういうことですよ」


 こうして支店の計画は着々と進んでいた。そんなある日、ジョゼフさんが訪ねてきた。


「御無沙汰してます。ジョゼフさん」

「おお、水臭い、叔父上と呼んでいいんだぞ?」

「まだ呼びませんよ。そもそも、カエデちゃんいくつだと思ってるんですか?」

「17だぞ?」

「ふあ!?」

「ちょっと童顔だが、間違いなく17だぞ?」

「すいません、10歳前後だと思ってました」

「主殿……ひどい。私の裸見たのに」

「ちょ、あれ事故、事故ですから!?」

「ふむ、また責任を取ってもらう理由が増えたな」

「主殿、今度お風呂一緒に入って。それで帳消し」

「ちょ、それ何の解決にもなってない!?」

「あと、今日は一緒に寝るのです」

「いいぞカエデ、そのまま既成事実を積み上げるのだ!」

 ぐっとサムズアップする二人。何これ怖い……。

「ああ、そうそう、そろそろ本題にはいりますかな」

「はい、お願いします」

「先日未知のダンジョンが発見されましたがご存知ですか?」

「ああ、冒険者の皆さんが色めき立ってますね」

「王国からも調査隊を出すことにしたのだが、そのバックアップを依頼したい」

「それは構いません、後ほど清算という形で伝票切って品物先渡しでいいですよ」

「うむ、武具はどの程度のものが手に入るかね?」

「なんかアンデッド系が多いらしいので、せいすいとかランタンとかが売れてますね。後炎属性とか光属性の武器ですか」

「って待て、何だこのほのおのつるぎとか!? 9800ゴールドだと!?」

「あー、カタログ通りのお値段で売ってますよ?」

「魔王国側でしか手に入らない極炎石を使ったレアものじゃないか!?」

「らしいですね。いかがですか?」

「剣士がいるからな、注文しよう」

「ありがとうございます」

「さて、ここからが一番重要なポイントなのだが……実はな、調査団の隊長がレイル王子なのだ」

「ふむ……って、えええええええええええ!?」

「故に万が一にも遭難されたら」

「されたら?」

「王国は傾く。がらがらっとな」

「いやそんな、欠陥住宅みたいに」

「まあ、明日にはこちらに立ち寄られるので、物資の用意などをお願いしたい」

「承知しました」

「ではカエデ、よろしく頼むぞ?」

「はい、お任せください叔父上!」


 とりあえず、せいすいとかランタンとかポーションとかどくけしそうとかいろいろ取りそろえた。とりあえずコンテナを使い取りまとめておく。それと武器もいくつか発注しておいた。歩くと体力回復効果のあるせいなるよろいとか、魔法攻撃をたまに跳ね返すまきょうの盾とか、ほのおのつるぎも入れた。明日には届くはずだ。


 さて、俺は絶体絶命の危機に陥っていた。いきなり黒づくめに取り囲まれ、あれよあれよと服を奪われ、真っ裸で風呂場に叩きこまれた。バスタブにはカエデちゃんが名前通り真っ赤な顔をして浸かっている。入浴剤が入っていてお湯は乳白色に濁っており、彼女の身体は見えなかった。幸か不幸か。

「主殿、私の事きらい?」

「そんなことはない。なら逆に聞くけど、カエデちゃんは俺のことどう思ってる?」

「えっと……えっと……恥ずかしいから一度しか言わないので、ちゃんと聞いて……ください」

「わかった」

 風呂の洗い場の椅子に座りカエデちゃんと目線を合わせる。腰には何とかタオルを巻くことができた。

「あのとき、助けてくれて、ご飯をくれたときから、ケイタさんが好きです。一目ぼれ……です」

「そうか、そうなんだ。うれしいよ」

 思わず立ち上がっていた。そして外れるタオル。カエデちゃんはある一点を凝視している……。

「ごりっぱ……です……きゅう」

 風呂場で待ってる間にいろいろあったのだろうか、彼女はのぼせて失神した。そこでバタバタと風呂場の外で騒ぎが聞こえる。まずい!?

「ケイタ殿!」

 バルドさんが乱入してきた。そして俺は思わず振り向く。真っ裸で。そして彼女は……鼻血をたらしつつ失神した。

「なんだと!?」

 そして背後でブクブクと音が聞こえる。カエデちゃんがバスタブに水没しかけている。慌てて引っ張り出し……つるぺたーんを目撃して……俺も鼻血を噴いた。薄れる意識の中、黒づくめが誰かを呼びに行ってくれたようだ。気が付くと自室で川の字になって寝かされていた。後で聞いたが助けてくれたのはレナさんがヒーリングをかけてくれ、リンさんが俺たちを運んでくれたようである。

 そして彼女たちはそろってにんまりと笑ってこう言ってきた。中々にご立派でした。

 とりあえずそのまま布団に潜り込んだが、俺は裸のままだということに気付き、そして隣の二人もそうだと思い、布団をめくろうとしたところで……目つぶしを受けた。

「ケイタ殿、乙女の柔肌をなんだと心得る?」

「主殿……えっち……」

「目が、目がああああああああアアアアアアァァァァァァ!」

 あれおかしいな? 俺ってリア充になったはずじゃ? どうしてこうなった!?

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