レイル王子の危機

 翌日、レイル王子一行が店に到着した。とりあえず物資の引き渡しを行う。

「ケイタ殿。助力感謝する」

 あれ? なんかこの前とやたら態度が違うな。

「主殿、この前魔王にコテンパンにやられて立場が危うくなってるから」

「そうなの?」

「今までさんざん大口叩いてたよ?」

「へえ?」

「魔王なんぞ我が剣の前に両断してくれるって」

「で、実際には?」

「バルド義姉さんより弱い」

「ふむ」

 カエデちゃんから報告を受けていると、目の前の王子様が顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。

 思わず肩を叩いて激励の言葉をかける。

「……イキロ」

「ぐぬ、言いようはともかく激励の言葉は受け取った」

「いえいえ」

 そうこうしていると、っコンテナが降ってくる。いつもながらこれ、どっから出てきてるんだろう?

「武具が届きましたね」

「今これどっから出てきた?」

「考えたら負けです」

「……そういうものか」

 王子はほのおのつるぎを装備して素振りした。目が少年のようにキラキラしている。

「ケイタ殿、先日の無礼を詫びたい。そして頼みがあるのだが……」

「なんでしょう?」

「我が友となってくれぬか? 立場上臣下はいても対等の者がおらぬのだ。魔王相手に平然と立つあの胆力。感服した」

「えー……」

 絶対に面倒くさいことになる。そう思ってしり込みすると、ルークに王子のお供が寄って行ってひそひそと話している。

「ルーク殿、貴殿の実家の子爵家にはそれ相応の褒賞と、貴殿個人に男爵位を賜るとの仰せである。レイル殿下に忠義を尽くせ」

「はは! なんなりと!」

「ルーク、貴様……」

「リン殿には騎士の位をそなた個人にと、近衛への配属も考えると」

「はは! ありがたき幸せ!」

 お前ら堂々とうちの従業員買収するんじゃねえ……。

 ただまあ、彼らもずっとコンビニ店員ってわけにはいかないし、ルークは実家を継がないといけない。そういう意味ではこの話はありなのかもしれない。ちょこっと寂しいが。

 なんか買収された従業員のおかげでレイル王子と握手をする羽目になる。私たちの将来がーとか泣きつかれたら勝てない。これだから権力者は……。とかなんとか思っていたら、レナさんから有給休暇申請が来た。なんか王子の後方支援を依頼されたとか。うまくすれば玉の輿ーってレナさん駄々漏れです。

 まあ、アベルさんがいるし、人数的には何とかなるので許可した。なんかレイル王子に熱いまなざしを送っているが華麗にスルーされている。どうせ大貴族出身の婚約者がいるんでしょ……。


 ダンジョンに突入する王子をはじめとした6人のパーティと後方支援の兵が出立していく。とりあえず手を振って見送った。

 レナさんがいないことで若干やくそうとかポーションの売り上げが伸びるが、彼女目当てのお客様の足が遠のいた。なんてこったい。


 そして彼らが旅立ってから10日後、早馬に乗った兵が息も絶え絶えに駆けこんでくる。

「大変です! ダンジョン内部で王子のパーティが消息を断ち、調査のために入った救援部隊が半壊、ダンジョン入り口からアンデッドの軍勢が沸き出ています!」

「はい?」

「なんだと!?」

 惚ける俺の代わりにアベルさんが慌てだす。

「義弟殿、まずいことになった。死者の軍勢が出てきたということはまず間違いなくリッチだ」

「お金持ちになれるんですか?」

「ちげええええええええ!!」

「兄上、とりあえず迎撃じゃ」

「うむ、バルドは先行してくれ」

「冒険者の皆さんに声をかけてきます!」

 ラズ君がギルドに向け駆け出す。ルークとリンは非戦闘員はラグランの砦に避難するよう詰所の兵に提案していた。すげえ。

「あ、カエデちゃん。ジョゼフさんに通報を」

「……御意」

「ああ、そうだ。バルドさん、ちょいと資金的にあれだけど、これ使って」

「なんじゃ、すさまじい魔力だな!?」

「うん、アロンダイトっていうらしいよ」

「はあああああああ!?」

「というか、俺も行くよ。嫁さんを危険にさらすだけっていうのは良くない」

「だがケイタ殿はレベル1なんだぞ?」

「じゃあ、あげられるってことじゃない。とりあえず君を守れるくらい強くなりたいね」

 このセリフを聞いた周りの連中はポカーンとしていた。そういえばバルドさんは強さなら世界レベルで上から数えられるんだった。なんかにゅふふふふと笑いながらくねくねするバルドさんだった。

 とりあえずいくつか使えそうな道具を手にする。後趣味で買っておいたあれが使えるかもと思い、バッグに詰め込む。

「冒険者の皆さんが動いてくれます。住民の避難を最優先らしいですが……」

 ラズ君の拳が握りしめられている。そうか、レナさんが心配なんだな。

「じゃあ、行こうか」

「へ?」

「レイル王子は一応友人だしね。助けに行かないと」

「は、はい!」

「それに、従業員を守るのは雇い主の責任でしょ?」

「そうですね!」

 こうしてコンビニハヤシの面々は死者の軍勢に向け撃って出た。とりあえずいくつか反則技もあるし、何とかなると信じたい。ちょっと足が震えてしまうのは見逃してくれている彼らに感謝した。

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