死者の軍団

 バルドさんを先頭に、右にルーク、左にリンさん、後ろにラズ君という陣形で進む。アンデッドは個体では強くない、が何しろ数が多い。しかも毒とか持ってる。長期戦になれば不利だ。

 ダンジョンに続く道、と言っても獣道程度のものだ。見つかって一月ほどだから仕方ない。坂を息を切らして昇る。ほかの皆さんは……問題なさげですね。もやしですんません。


「むう、これは……」

 バルドさんが眉を顰める。丘から先は開けた平野になっているのだが、そこを埋め尽くすほどの人影、釣ってもゾンビとかスケルトンとかである。風上でよかった。後ろから風が吹いているにもかかわらず腐臭が漂ってくる。やばい、吐きそう。

 集団の中央部に黒い靄のようなものが見えた。どうやらあそこにアンデッドの親玉がいるようだ。

「まさか、レイル王子もこの中に混じってないよな」

「店長、笑えないっすそれ」

「そうなったら当家はもうおしまいですね」

「そうなったらさ、リン、俺と一緒に来てくれるかい?」

「ルーク、いえ、若。何を?」

「今更だけどさ、俺リンが好きだ。この国で生きていけないなら、一緒に旅に出ないか?」

「ルーク……」

「どう、かな?」

 リンの目が潤んでいる。ここぞとばかりにイケメンスマイルを向けるルーク。決めに来たか!?

「だが断る」

 リンはバッサリとぶった切った。一刀両断だ。

「はい!?」

「そんな逃亡者みたいな生活にどんな未来があるんですか。自分に酔うのもいい加減にしなさい!」

「がーーーーーん!」

 真っ白に燃え尽きるルーク。あの真ん中に捨てたらいいのかな?

「くるぞ!」

 青春ドラマが終わるまで待っていたかのようなタイミングだった。

「一気に突っ切ってリッチを討ち取るんだ!」

「「おお!」」

 バルドさんが聖剣を抜き放ち切り込む。白銀の光を纏った斬撃はアンデッドの一群を薙ぎ払った。リンさんとルークは武器に聖水をかけて属性付与状態にしている。ルークの剣はスケルトンを真っ二つにした。

 ラズ君は火炎弾の呪文を唱え、アンデッドを焼き払う。しかしあれだ。マスク持ってきてよかったよ。んで、俺は何をしているか?それはこうだ。

「そぉい!」

 聖水をバケツでぶちまける。さすがバルドさん曰く最高級の品質、アンデッドの皆さんがきれいに消滅してゆく。これに気をよくした俺は水鉄砲を取り出し、ピストンをスライドさせて撃ちまくる。

 ふわっとした半透明の影が通り過ぎた。なんだこれ?

「店長、ゴーストです。触れられると生命力を吸い取られます!」

「なるほど……ていっ!」

 水鉄砲は避けられてしまった。何度か打ち込むが当たらない。俺は腰にぶら下げていたものを手に取った。そして顔めがけて飛び込んでくるゴーストに向けそれを放った。

 ぷしゅっ! 霧吹きで吹きかけた聖水はふわっと広がりゴーストを消滅させた。再び水鉄砲を手に取りゾンビどもを消し飛ばす。そういえば頭の中に何度かファンファーレが鳴り響く。その都度、俺は疲労を忘れ、次の攻撃を繰り出すことができた。たぶんこれがレベルアップなのだろう。

 バルドさんが気合一閃、半月状の光の刃がゾンビをなぎ倒してゆく。そして黒い靄に触れた瞬間……パキーンと甲高い音を立てて刃が砕けた。

「くっ、防御結界が固いな」

「ちょいと時間を稼いでください……」

 ラズ君が呪文を唱えながら目を閉じてゆく。周囲の魔力が彼を中心に渦巻いてゆく。

【逆巻け真空の刃、紅蓮なる炎を巻き上げ焼き尽くせ! 紅蓮竜巻地獄フレアサイクロン!】

 高さ10メートルほどの竜巻が炎を巻き込み、その温度を上げながら荒れ狂う。無数のアンデッドやゴーストを巻き込み焼き尽くしてゆく。そして、黒い靄に突っ込んでいった。

「やったか!?」

 うわ、それフラグ!? 案の定というか、竜巻はパキーンと消滅する。とりあえずラズ君にはマジックポーションをぶっかけた。

「はああああああああああああああああ!!」

「てえええええええええええええええいいい!!」

 リンさんとルークがタイミングを合わせて斬りつけるが、これもあの靄を突破できなかった。靄の向こうで骸骨の顔が哄笑している。

「くらえ!」

 空中に飛びあがり、落下の勢いを付けてアロンダイトが振り下ろされる。だがこの一撃も届かなかった。

 リッチが手をかざすと、地中からアンデッドが現れる。これはまずい状況になった。

「えーと、ちと試したいことがある。これがダメだったら離脱しよう」

「ケイタ殿、わかった」

「ラズ君、これを飛ばしたいんだけど、風魔法で補助できるかな?」

「なんですかそれ?」

「ドローンだよ」

 コントローラーを操作すると、ラジコンヘリが浮かび上がる。そして俺はその真下にビンを一つ括り付けた。

「こいつをあの骸骨野郎の真上に飛ばしたい」

「わかりました」

「んで、真上に行ったらあのビンをあいつの頭上に落とす」

「あの中身は…‥そういうことか!?」

「じゃあ、頼むよ」

 俺はコントローラーを慎重に操作する。ずばーんとかばすーんと余波があってなかなかまっすぐに飛んでくれていない。時間にすれば数分の事だろう。だが俺には無限に長い時間に感じられていた。

 そしてついに頭上にたどり着く。

「いま!」

「はい!」

 ラズ君の放った小さな風の刃はドローンからぶら下がっているビンをくくっているひもを断ち切る。そしてリッチも何かが頭上から落ちてくることに気付き、手を頭上にかざす。防御魔法を展開しようとしているようだが、そうはいかない。

 レベル4になって買えるようになった、使い捨てマジックアイテム。5秒間だけ全ての魔法効果を打ち消すオーブを投げ込んだ。

 思った通り、あの靄もなにかの防御魔法だったようだ。そしてリッチの頭上でビンが弾け虹色の輝きをまき散らした。

「ギョオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアア!!」

 リッチが断末魔を上げる。上位のアンデッドは自分にアンデッド化の魔法をかけるという。ならば、常時かかる状態異常のようなものである。そこを逆手にとった。奴にぶっかけたのは神の雫だ。そしてその効果はリッチからアンデッド化の魔法を解呪してゆく。そうなれば後に残されるものは、呪いで魂を無理やり体に縛り付けていた哀れな死者である。呪いでとどめてきた悠久の時間が過ぎ去り、その体は塵に帰っていった。

 アンデッドの軍団はリッチの無尽蔵の魔力によって召喚されていた。その召喚者が倒されたため、現れていた死者たちも、塵に帰ってゆく。

 みんな半ば放心し、生きていることを不思議に思っているかのようだった。

 そして俺は、さっきから鳴りやまない脳内のファンファーレに気が狂いそうになっていたのだった。いつになったら止まるのこれ!?

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