王子救出

 俺たちはリッチを倒して凱旋した……はずだった。来た道を戻る途中で出会ったジョゼフさんが俺の顔を見るなりこう言い放ったのだ。

「レイル王子は無事ですか?」

「あ……」

 即座に踵を返し、ダンジョンに向け走り出す。そういえばレベルが上がったことで体力が格段に上がっているようだ。来るときはひーひー言ってたはずの道を難なく踏破する。

 リッチと決戦に及んだ平原に差し掛かると見覚えのある馬車がいる。王子のパーティを運んでいたやつだ。そしてちょっとすすけた状態になっているレナさんが俺たちに向けて手を振っていたのだった。

「レナさん、だいじょう……ぶわっ!?」

「レナ!」

「ラズ君、痛いよ。私はだいじょうぶ」

 涙ぐみながらラズ君はレナさんを抱きしめる。感動的な再開シーンだった……かに見えた。

「でさ、なんでラズ君、わたしに断りもなくこんなことしてるのかな?」

「え……?」

 メコッとレナさんのメイスがラズ君を吹っ飛ばす。

「ふん、わたしに触れるなんて10年早いんですよ?」

 年収が不足していたようだ。哀れラズ君。

「ところで、王子は?」

「ああ、無事ですよ。コンテナ一杯の聖水で何とか持ちこたえました。で、なんだかわかりませんけどアンデッドが消滅していったので、脱出してきたんですよ」

「ああ、それは良かった。リッチ倒したところで気が抜けて帰っちゃったんだよね」

「は? リッチを倒した?」

「うん、防御結界を解呪して神の雫ぶっかけた」

「はあああああああああ!? というかですね、リッチって災害級の魔物なんですよ。それを5人で討伐した?」

「ラズ君もいたよ?」

「ラズ君、大丈夫、なんてひどいことを!?」

 リッチを倒したとなるとそれ相応の褒賞があるし、場合によっては何らかの地位についても不思議ではない。手近な玉の輿に気付いたようである。回復魔法をかけて、ラズ君の意識が戻り掛けたあたりで、あの胸に顔をむにゅっと押し付けている。実にあざとい。だが今の俺はあのきょぬーにも心を動かされなかった。なにしろ動いた瞬間、アロンダイトが降ってくるし。


「ケイタ殿! 救援感謝する」

「ああ、レイルさん。無事でよかった」

「殿下、無事でしたか!」

「ジョゼフ、すまん、心配をかけた」

「いいのです、御身が無事でありましたら」

「して、リッチはどうなったのだ?」

「倒しました」

「いまなんつった?」

「倒しました」

「どこの軍勢が?」

「えーと、バルドさんと……」

「ヴァラキアから援軍を呼んだのか?」

「いや、うちの従業員で」

「ほう、ケイタ殿は万の手下がおるのか?」

「や、レナさん以外でしたら5人ですよ?」

「まて、5人であの死者の軍勢を退けたと?」

「そうなりますね」

 俺がリッチを倒したやり方は搦手もいいところだったらしい。それこそ百人単位の魔法使いが絨毯爆撃をかけてあの結界を飽和させて吹き飛ばすのが一般的なやり方だとか。

 まあ、今回の功績(?)はいろいろと変な影響が出そうなので緘口令が敷かれた。

 後うちの従業員同士でもなんかいろいろ片付きそうだ。リンさんとルーク、ラズ君とレナさんでいい雰囲気になっている。というかレナさんの黒さに俺ドン引きなんですが。いいのかラズ君?

 そういえば、リッチを倒した時のレベルアップだが、全員レベルが上がったらしい。バルドさんも上がったらしい。久しぶりだったとかなんとか。


 そういえば、リッチが出現した理由だが、あほ王子が封印を間違えて壊したのが原因らしい。それについてはジョゼフさんが王子を正座させて説教していた。またダンジョン自体も封印が決定したらしい。リッチがいなくなればと思われたが、さらに大きな魔力が深部から感知されたようだ。正直あんな戦いは二度としたくないし、封印には賛成しておいた。


 騒動がひと段落ついて、懐かしいコンビニに帰還する。店番をしてくれていたカエデちゃんがすっ飛んできてしがみついてきた。プルプル震えている。

「主殿、お帰りなさい」

 ウルウルしながら見上げてくるカエデちゃんがかわいくて、小脇に抱えてお持ち帰りしかけた。

 なんか精神的に疲れたので、バルドさんを抱き枕にして寝た。

 そして目が覚めると、目の前にゴージャス美女がいる。

「やあ、婿殿。久しいな」

 しゅたっと右手を上げて挨拶してくる魔王陛下だった。

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