新人さん入りました!

 バックヤードに駆け込むと、メイド服の少女が目の前のおにぎりを凝視していた。目が合う。そしてよくわからないままにうなずく。彼女はおにぎりにかぶりついた。ビニールを剝かずに。

「くぁwせdrftgyふじこl!?」

「あああ、そのままじゃいかん、ちょっと貸して」

 ビニールを外して海苔を丁寧に巻き、渡す。ミネラル水もペットボトルを開けてテーブルに置いた。

 一心不乱におにぎりにかぶりつく。がぶ、もしゃもしゃもしゃ、がぶ、もしゃもしゃもしゃ、ごっくん。くぴくぴ……ごくり。りすとかウサギの食事シーンのようだ。そして手渡したおにぎりがそろそろ10個目である。小柄な少女のどこに入っていくのか不思議だが、気にしないことにした。そうだな、大体5個目あたりからの事だ。


 ふと目線を感じた。物陰からバルドさんがこっちを見ている。光彩がないどんよりとした瞳で。とりあえず笑顔を向けると、なぜか頬を赤らめて引っ込んでいった。何だったんだろう。

 少女に目線を戻すと、なんか我に返ったようだった。

「生涯の忠誠を誓います! 何なりとお申し付けください、主様!」

「うん、ちょっと落ち着こうか」

 即座に返答できたのは、さすがにこっちの世界で鍛えられたせいだと思いたい。

「ですが、命を救ってもらった恩は命で返せと父上が」

「うん、じゃあ、こうしようか。おにぎりとミネラル水の代金が100ゴールド。お金は……持ってないのな」

 フルフルと首を横に振った後、こくんと頷く。何この子かわいい。

「んじゃ、うちで働かない?」

「えっと……主様はこのお店の?」

「うん、店長だね。だからそこらへんは俺が決められる」

「こんな立派なお店の主とは……素晴らしいですわー!」

「うん、天丼はもういいからね。で、どうする?」

「粉骨砕身の覚悟を持って働かせていただきます!」

「ほんとに砕かなくていいからね?」

 うん、そこで、なんで? って感じで首をこてんと倒すの反則。鼻から出血しそうだ。ぶはっ!


「というわけで、新人さんです」

「おー」

 バルドさんなんで棒読み??

「んじゃ、自己紹介をよろしく」

「はい、モモチカエデと申します。主様に身も心も捧げました! よろしくお願いいたします!」

 うん、元気いっぱいだね。いいと思います。けど誤解を招く表現は止めようか。じゃないと……ほどなく俺の意識は刈り取られた。

「へんたい! クソロリコン!」

「バルドさん、クソはひどいと思います」

 そう言い残して倒れた俺。

「店長、ロリコンは否定しないんすね、後変態も」

 ルーク、あとでしばく。俺は……ただの紳士だ。


 目覚めると、なぜかカエデちゃんとバルドさんが仲良しになっていた。やっぱ少女もイケメンがいいのか、いいんか!(血涙)

 リンさんがカエデちゃんにレジの打ち方を説明していた。レナさんが接客トークを教えている。自動ドアが開くたびに、いらっしゃいませーとやや舌足らずな声で挨拶する。

 黒髪をポニーテールにして、メイド服の少女。イイ!

 そう思ったのは俺だけではなく、おっちゃんおばさんたちが、カエデちゃんを蕩けそうなほほえみで見ていた。新たな客層、ゲットだぜ!


 そんなある日。戦線は膠着しており、大きな動きは出ていないとラズ君が情報を集めてきた。ただ、魔王軍のワイバーン部隊が後方の補給線を脅かしており、前線が物資不足になっているらしいと。

 行商人の人がやくそう、ポーション類を大量に買い付けてゆく。レベル3になったおかげで、発注単位が1000までになったので、ある程度の大量発注に耐えられる。しかし、王国軍は一万の大軍で、一日に三万食の食事が消費されるのだ。そう、うちで供給している分量などまさに焼け石に水なのである。

 などとのんきに構えていた時期が俺にもありました。


「いらっしゃいませー!」

「すまん、店主はどちらか?」

「はい、わたしですが?」

「ふむ、若いな」

 入ってきた身なりのよい壮年の男性はこちらを値踏みするように見てくる。

「ちと商談がしたい」

「わかりました、こちらへ」

 イートインスペースの一部をパーティションで区切った商談スペースに彼を案内した。さらに念のためバルドさんに同席してもらう。

「ふふん、ケイタ殿も私のありがたみを理解したか」

「え? バルドさんには感謝しかないですよ?」

「うぬぬ、なんということだ……」

 よくわからない会話をしつつ、商談スペースへ向かう。

「お待たせしました」

「いや、構わない。突然現れたのは私の方だからな」

「それで、どのようなご用件でしょう?」

「うむ、実はわたしは王国軍の補給を担当しておってじゃな。あまり大っぴらにはできぬが補給線を魔王軍に脅かされておる」

「あー、それすでにこの辺の冒険者ならみんな知ってます」

「ああ、そうじゃろうな。冒険者に補給部隊の護衛任務をかなり高額で出したからな」

「あー……、それで当店がお力になれるでしょうか?」

「うむ、飲料水と食料の確保だ。行商人にかなりの量流しておるじゃろう?」

「そうですね、ですが彼らとは契約の上の販売です。ゆえに、彼らに供給をさせていただきたい」

「しかしだな、こちらも購入の予算がある」

「ならば、まとまった数量の購入と引き換えに、価格を決めましょう。彼らの利を考え、それを踏まえたお値段にしますがいかがでしょう?」

「ふむ、それならこのくらいで……」

「うーん、ちと厳しいですね……これなら?」

「うむむ……ならばこれでどうじゃ!」

「ムムム……これで!」

「よかろう!」

「キャラバンが来たときに、その値段で販売できるよう卸値を調整します。全部買ってあげてくださいね?」

「余らせるようなことはせぬよ。そんな余裕もない」

「ええ、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いしますね」

「こちらこそ。若いのに対した胆力じゃ。長い付き合いをしたいものじゃ」

 がっちりと握手をして王国軍の補給担当の人は帰っていった。とりあえず日持ちのする商品はあらかじめ発注しておくことにする。

 忙しくなりそうだ!


「あー、ケイタ殿。私いる意味あったんじゃろか?」

「いてくれるだけで心強かったですよ」

「んな!? うむ、そそそそれならよい!」

 なぜかバルドさんは顔を真っ赤にしていた。照れる顔もイケメンだなーって思った。まる。

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