魔王襲来(ママ・ストライクス)
レベル4になってから入れることができるようになったエスプレッソマシンで、コーヒーを入れる。これが結構好評で、カフェラテなども入れることができる。アイスドリンクはサイズ別に提供できるようにした。ほか、フライドフーズも導入すると、イートインスペースは常に何組かのお客様が入っている。
魔王陛下にはとりあえず商談スペースに来てもらい、レナさんがコーヒーを持ってきてくれた。
「ふむ、良い香りだ……にがっ!?」
「ああ、このミルクと砂糖を入れてみてください。まろやかになりますよ」
「ほう……っておい。砂糖はものすごい高級品のはずなんだがな」
「へ? そうなんですか? どうりでよく売れると……」
「まあ、いい……おお、これはいい!」
「お気に召していただけたようで」
「うむ、褒めてつかわす」
ドヤ顔で頷く魔王陛下。それにしても何しに来たのかね?
「ふむ、それでだな。うちの娘はどうじゃ? ちゃんと良き妻をしておるか?」
「ああ、バルドさんは最高です」
「のわりにまだ手を出しておらぬようだが?」
「えーっとですね……実は……」
「うむむ、箱入りに育ちすぎておるな」
「そうなんですか? 冒険者とかやってんでしょ?」
「あの子は強すぎる。それゆえに人が寄ってこなかった」
「ってもしや……」
「うむ、男に対する免疫がないのでな。ゆえに普通に接してもらっただけでコロッと行ったんだろう」
「身も蓋もねえ」
「蓋もバケツもないわ」
「それはさておいて、本題は?」
「おお、そうじゃった。二つある。簡単な方は王都にも店を出すのじゃ。とりあえずこのコーヒーとやらが気に入った」
「は、はあ……」
「それでじゃな、何人か店長候補をよこす故、仕込んでもらいたい」
「わかりました」
「もう一つじゃが……浮遊城を知っておるか?」
「ラピ〇タですか?」
「なんかよくわからんがそんな感じじゃ。超古代のろすとてくのろじーとやらで浮いておる」
「なんかロマンを感じますね」
「ふむ、よくわからんが……それでじゃな、徐々に高度が下がっておるのじゃ」
「ほう?」
「どうも何らかの動力が切れたようでな。で、落下予想地点が……この辺でな?」
「ほう……ってうちの目の前じゃないですか!?」
魔王陛下はドヤ顔で頷く。っていうかそれどころじゃねえ。と焦っているところにバルドさんが駆け込んできた。
「母上!」
「おお、バルドよ。ちょっとこっちに来るのじゃ」
「は? え?」
「婿殿、ちょっとこのアホ娘を借り受けるぞ」
「わかりました」
首根っこ掴まれて引きずられるという非常にレアな光景を見送りつつ、俺は冷めかけた珈琲を流し込むのだった。
冷たい飲み物というのはかなり希少性があった。そもそも冬場でない限り気温以下に飲み物を冷やすことができない。だがうちは機械でそれをできる。氷も用意できる。動力は考えたら負けだ。
それでフルーツジュースや、コーヒーを冷やして提供すると……長蛇の列ができた。あと炭酸飲料も受けた。しゅわーっとするーっと子供だけでなく大人にも人気だ。そこに投入するはフライドポテト。
余談だが、一般的に出されるポテトフライは、正式にはフレンチフライドポテトという。これはフランス風ではなく、細切り(フレンチ)にしたポテトのフライという意味だ。まー炭酸の御供には最高である。食べ過ぎるとメタボ一直線だがな。
などと現実逃避していると、レジ周辺が騒がしくなってきた。様子を見に行くと……阿呆が暴れていた。
「なんだこのコーヒーの少なさは?」
「いや、エスプレッソですので、そういう量なんです」
「そうなのか、ではエルプレッソで出してくれ」
「は、はい?」
「飲み物のサイズだ、これはエスサイズなんだろう? じゃあエルサイズで出してくれ」
「いえ、エスプレッソのエスはサイズの事ではありません。よろしければもう一つお出ししますが?」
「じゃあそれでよい。まったく、最初からもっと大きいカップで出せと言うのに……ぐぶはっ!?」
あーあー、やりやがった。エスプレッソをがっつり口に含んでやがる……。
「にがっ!? にげえええええええ!?」
おっさんの悶絶は見ていて目の毒だな。
「あー、先ほど説明しましたよね? これ凄く濃いのでって」
「そういう意味か!?」
「口直しにこちらをどうぞ」
「う、うむ……うまい!」
「エスプレッソを同量の温めたミルクで割ったものです。カフェ・ラテと言います」
「うまい! お替りだ!」
「はい、少々お待ちください」
「おい、俺にも今のをくれ!」
「ありがとうございまーす。少々お待ちくださいねー」
うん、ルークが飄々と対応し、相手の気がそれたあたりでリンさんがフォローに入っている。コーヒーのお供のケーキ類なんかも売れているな。いいコンビネーションだ。
目が合ったルークにサムズアップを向ける。するとハンドサインで給料上げてくれと要求してきた。まあ、それもいいかと思い、OKのサインを出す。するとまさか承諾されると思っていなかったのか一瞬ルークの動きが止まる。それはほんの一瞬で、すぐに元の動きに戻ったのだが、前よりいい動きをしている。ルークのやる気を引き出せたのなら、昇給もありだなと思った。
そしてトラブルも解決したことだし、商談スペースに戻ると……親子による性教育が施されている場面に出くわし、俺は即座に踵を返すのだった。
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