戦場のウェディングベル
テハスへと向かう途中、敵軍が陣取っているのを斥候が見つけてきた。周囲に伏兵はいないようで、全軍が集結しているとのこと。数は15000。かなりの大軍である。
しかも谷間のような地形を利用して深い陣を敷く。長期戦も覚悟の構えだ。
「言霊よ、あるべき姿を取り戻せ! ディスペル!」
敵軍の言語阻害魔法の解呪を行う。これでこちらの言葉が通じるようになるはずだ。
「敵軍に告ぐ。降伏とは言わないが、おとなしくここを通してくれないか?」
「断る。我らは闇の聖霊王を守る最後の砦である!」
「ならば蹴散らして通らせてもらおう」
「やれるものならやってみるがいい!」
盾を持った歩兵を前に出し、陣列を固める。気の利いたことに魔法防御向けの呪紋が施されている盾もあった。あれを打ち破るのは……まあ、俺が全力でやれば可能だ。ただまあ、手柄をたてさせにゃいかん当たり面倒でもある。
「ヨイチ、撃ち倒せ!」
「はは!」
ヨイチが弓を引き絞ると、放たれた矢は彗星のごとき軌跡を残して盾に突き立ち、木っ端みじんに砕いた。無論それを持っていた兵ごとだ。
「神箭ヨイチ、参る!」
ヨイチが弓兵を率いて散開する。彼の指揮下の弓兵はその力を増す。神器の加護のおかげである。さらに、西方の王国の名を冠した古代の弓、パルティアを再現し持たせている。
魔力を弦に変え射手の魔力が続く限り強弓を放つことができる。突き立った矢は燃え上がり、周囲の敵兵を殺傷する。これなんて焼夷弾?
「突撃!」
レイル王が麾下の騎兵500を率いて突撃する。盾兵がヨイチの弓兵に討たれ、陣列に空いた穴を駆ら突入し敵陣を切り裂いてゆく。後方に回り込まれて浮足立つ敵前衛を、ドーガ率いる槍隊が叩き伏せる。
「投擲!」
一斉に手槍を投擲してゆく。矢を防ぐことはできても槍となると分が悪く、撃ち抜かれる兵が続出した。そこにルーク率いる剣兵が盾兵の側面から切り崩した。そこで敵の後方から角笛が響き、前衛が退いてゆくと……そっくりそのまま盾兵のお替りがいる。
「なんてこった!」
「では、わたしが出る。ジェイド、行くぞ!」
「任せろ。お前には一本の矢も通さぬぞ」
「ふふふ、頼もしいのう」
「ソフィアのためにもな」
なんかピンク色の雰囲気を醸し出す。とりあえずバルドが咳払いをする。
「父上、母上、私の事はどうでもいいのじゃな?」
「「だって嫁に出したし」」
「ほえ?」
「嫁に出した娘を守るのは旦那の仕事だろう?」
「だからジェイドは私を守ってくれるのじゃな」
「当り前じゃないかヒルダ。それが俺の使命だからな」
「お前がいるからわたしは全力で戦える」
「任せろ、お前には一筋の傷も負わせることはない!」
いいからお前らとっとと出撃しろ。
なんかバルドが百面相を始めた。
「旦那様。私が危ない時は守ってくれるか?」
「それが俺の使命だ!」
「にゅふ、にゅふふふふふふふふ。デュフフフフフフフフフゥ……」
「うん、笑み崩れてよだれが垂れそうになってるバルドもきれいだなあ」
「殿、いくらなんでもあんまりかと……」
「ドーガ、まだお前は修行が足りない。好きな女はどんな顔してても美しいものなんだよ。むしろ、崩れた表情は俺にしか見せないとか考えてみろ。萌えるだろ!」
「は、はあ」
「と言うか、お前まだ独身じゃなかったか?」
「はい、職務に邁進しているため妻にかまう時間がありません」
「大タワケ。嫁がいるからやる気が3倍になるんだろうが!」
「な、なんですと?!」
「嫁に会いたい。そう思えばこそ仕事の効率が上がる。子供に会いたいと思うからこそ生きて帰る気力がわく。家族を守ると思うからこそ力を発揮できるのだ!」
「な、なるほど!」
「嫁、子供、家族。これらがあればお前の力は3倍になると思え!」
「嫁と子供はイコール家族ですねわかります!」
「お前も含めての家族だ。お前がいなくなって嫁子供が路頭に迷ったらどうなる?」
「死んでも死に切れません!」
「わかったか?」
「はい、では早速行ってまいります!」
そう言い残してドーガはすっ飛んでいった。なんか冒険者部隊の中からどよめきが上がる。面白そうなのでそちらを見に行くと……ドーガが跪いて一人の女性に右手を差し出していた。
「クレア殿。愛している! 我が妻となってください!」
「は? え? あのその……?」
「生涯をかけてあなたを守り抜くと誓います。この神盾アイアスにかけて!」
「えーと、ドーガさん。普通はまず恋人になってくださいとかじゃないんでしょうか?」
「そういうものですか? 私はそのあたりよくわかっていなくて……申し訳ない」
「いえ、いいのです。貴方は誠実な方ですね」
「それだけが取り柄です!」
「わかりました。一生、守ってくださいね?」
「もちろん! アイアスと、我が名にかけて!」
思わず拍手していた。ドーガのあまりに潔さにだ。
「って大公殿下?」
「ドーガよ。妻を娶れと言ったが、それは戦いの後でと言う意味だったのだがな」
「むう、思い立ったが大吉、善はハリーアップと言うではありませんか?」
「まあ、若干違うがニュアンスはわかる。と、それはいい。今その場で誓いを立てよ。俺が証人だ」
「それは光栄です!」
「あ、ありがとうございま……す?」
そうして、冒険者部隊の祝福と冷やかしの視線を全身に浴びつつドーガとクレア嬢は誓いを立てた。というか軍曹殿の電光石火としてこのプロポーズ騒動は伝説となったそうだ。
というか、俺この戦闘に勝利したら彼女に結婚を申し込むんだと旗を立てていたが、戦いの後とかではなく、その場で結婚してくれと申し込む者が増えた。とりあえず補給部隊には指輪を各種サイズ取りそろえるように命じた。あとは互いの持ち主が近くにいると、防御力が上がるなどのエンチャントを付与した。祝いの品や、ちょっと豪華な食事など、陣中にもかかわらずお祭り騒ぎが起きる。
うん、いい感じで売り上げアップのネタになったとほくそ笑む。
そういえば、敵の第二陣はゲイボルクが頭上から降り注いで1時間も持たずに壊滅したらしい。
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