峡谷の戦い
さて、敵陣は混乱している。魔王様のゲイボルクの一撃はごっそりと中央を吹き飛ばした。そこにジェイド卿率いる親衛隊が斬り込む。普通の人間よりも強靭な種族が集まっており、さらにレベルも高い。
あっという間に蹴散らされ、潰走を始めた。そのまま追い打ちをかけるが、さらに陣列を敷いた兵に阻まれる。そしてその背後では敗走した兵が態勢を立て直し、再編されている。このままでは打ち破るのに多大な時間がかかると思われた。
「どうしたものかね? 亀のように閉じこもっている」
「誘い出しは……難しいのう」
「うーん。神器持ちで一気に突破するか?」
「それもありじゃが、魔力を大きく消耗する。あの陣の後ろにそれこそ四天王クラスの猛者がおれば防がれる可能性があるの」
「そうなるとじりじり削るしかないことになりますが」
「こっちも損害なしとはいかんしのう」
「あ、てんちょ。空から見てきたんだけどね。ここに道があるんだけど……」
「ナギ、よくやった!」
「えへー」
「なれば我らが行こう」
「レイル王、お願いできますか?」
「ジョゼフ、俺は親衛の500のみ率いる。残りの兵は任せる」
「御意!」
「ロビン、レンジャー隊を率いてレイル王の支援を命じる」
「はは!」
迂回には5日ほどかかると予想された。王国軍はジョゼフさんが預かるが、彼は兵站の専門家である。ルイを一時的に指揮官代行としてもらった。
第3陣はナギのブレスで焼き払うが、魔法防御をしっかりと整えていたため、思ったような損害が出ていない。ドーガの槍兵の投擲と、ルイ率いる王国兵、冒険者の連合部隊が斬り込み被害を増大させる。
だが今回は敵も粘る。中々後退しない。俺の魔法弾も盾に弾かれたが、ヨイチの弓兵に山なりの軌道で矢を放たせることで前線の防備を混乱させることに成功。何とか突き崩す端緒となった。
第4陣の後ろには本隊がいるようだ。常に新手を繰り出す戦術でこちらの兵もそれなりに疲弊する。矢も減るし武具も損耗する。何より負傷者や戦死者もでる。まあ、ポーションややくそうをピストン輸送して、負傷者の治療を行いすぐに戦列に復帰させている。コンビニの兵站維持能力は半端ない。
第4陣もこちらの波状攻撃の前に崩れた。そのまま本陣に攻めかかる。ここで、別動隊の分派から5日が経過していた。近くまで来ているはずで、ここで退くと敵に各個撃破の機会をみすみす与えることになる。
そして、敵もさるものだった。本隊で攻勢を受け止めつつ、今まで破られた1~4の部隊が再編され、こちらを包囲戦と布陣を始めた。敵軍はこちらほどの継戦能力がないので負傷兵などは復帰していない。各兵力は最初にいた兵力の4割ほどだ。一度敗れているため士気も上がらない。だが戦いは数だ。
こちらの兵力は4000あまりにすぎず、ここ10日ほど戦い続けている。そこに包囲を受ければさすがに厳しい。
「方陣を組むのだ! 急げ!
前衛はドーガ、左はルーク、右はルイ、後方は俺が率いる。
中央に騎兵を集めておけ!」
方陣で敵の攻勢を受け止める。各辺が正面戦力となり敵の包囲を受け止めるのだ。攻勢を仕掛けてきた敵陣が退くところに騎兵で突撃を行い、体勢を崩す。角には魔法兵を置く。これで各辺の支援を行う。
「じり貧だな。まずいか」
「大丈夫、レイル王はきっと来ます。あなたが弱気になっては勝てる戦も勝てませんよ?」
「ってことは物見が戻ったか?」
「ええ、もう少し持ちこたえれば大丈夫です」
「ならせいぜい派手に戦ってひきつけようか」
「その意気です!」
敵の攻撃はなかなか途切れない。だが、それを受け止め、跳ね返し、必死の防戦を続ける。すると敵左翼が崩れ始めた。こちらもヨイチに命じてありったけの矢を放たせる。矢が不足するという報告があったのでタブレットで注文をかけた。すぐコンテナが頭上から降ってきた。実に便利だ。
途切れない射撃に敵の根性が先にくじけた。それでも背後からの攻撃を受け止めつつだから大したタマである。
だがそこから戦線が崩壊してゆき、こちらの攻勢を受け止めきれなくなってきた。頃合いを見計らって騎兵を突入させ、敵の左翼を分断し、その状態で敵右翼に攻勢を仕掛けた。
これで両翼が崩壊したことになる。一気にドーガの部隊を前進させ、敵本隊を突き崩すことに成功したのである。
事ここにいたり敵本隊は退却した。本隊の背後にいた負傷兵たちはそのまま捕虜となる。5000近くいた。戦士もほぼ同数出ており、敵軍は完膚なきまでに叩きのめされたと言っていいだろう。
捕虜は、ノースウッドに送る。そのうえで食料を支給してやれば……。
ひとまず補給を済ませた後は、敗走した敵残存兵を追ってテハスの地に足を踏み入れるのだった。
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