ウィラメット会戦

 バルドを先陣に敵軍に切り込む。実際問題として、コンビニ所属だと彼女が一番強い。俺をのぞいてだけどな。

 突撃して敵兵を蹴散らす。バルドの副官としてドーガから推薦されたミシェルはいい働きをしている。ドーガが彼を推薦した理由が面白かった。

「ミシェル、君はどのようになりたい?」

「伝説になりたいです。初陣で戦死してもいい、けれど、俺の墓にみんなが花を供えてくれる。そんな働きがしたいのです!」

「面白い。大公軍の直卒を命じる。お前の器、大公に見極めてもらうがいい」

「はい! 光栄です!」


 勇猛果敢だが命知らずじゃない。周囲の味方ときっちり連携している。っと頃合いだな。

「攻勢限界に達した振りをして退却する。徐々に攻勢を弱めろ!」

「「ははっ!」」

 徐々に攻勢が弱まる。まあ、実際に息切れし始めてる兵もいる。しかし強い、さすがにレベルが違う。だが混乱すればレベルはあまり要をなさなくなる。

 押し戻されたように退く。だがそのままだと罠を疑われる。

「俺が殿だ。ミシェル。兵をまとめろ!」

「は、はい!」

 盾を持った兵を数列に分けて配置する。順番に敵を受け止め、入れ替わりながら退く。

 俺は魔力弾を放って敵の出鼻をくじく。そうしつつ自らの姿を誇示する。そうすることで功を焦った敵兵が突出してくる。ミシェルが陣を動かし、凹陣を敷き、攻撃を集中して押し返す。そして、敵全軍を引きずり出した。

 敵軍の横にドーガの手勢が叩きつけられる。だが敵もある程度予想していたのか側衛を分派して防ぐ。

 ドーガが交戦し始めたころ合いで反対側からルークが切り込んだ。さすがにこれには動揺を始める。

 そして背後からルイが率いる冒険者遊撃隊が襲い掛かるそぶりを見せる。

「よし、これで潰走し始め……ないだと?!」

「敵軍、円陣を組んで全方位に向け迎撃しております!」

「普通そこで士気がくじけないか?」

「よほど有能な将軍が指揮を執っていると思われますな」

「困ったもんだ。しかしまあ、3倍の兵を相手に包囲とかこっちの手勢も大概だけどな」

 そこに伝令が駆け込んできた。

「敵軍より500が陣より分離、ルーク隊に向け反撃を開始しました!」

「くっ、予備兵力がないのが痛いな。ミシェル、ここは任せる。俺が行く」

「わかりました。ご武運を」

 敵将とルークが一騎打ちを始めた。これはまずい。ルークに代わって指揮をとれるのがいない。

「ルーク、そいつは俺が引き受ける。部隊の指揮を取ってくれ!」

「あ、店長! わかりました!」

 そして俺は敵将と向き合う。こいつをここにくぎ付けにすればいい。そうすればほかの指揮官が敵陣を突き崩してくれる。

「名前を聞こうか?」

「四天王が一人、魔将軍ジーク」

「そうか、出てきてすぐで悪いけど退場してもらおう」

「笑止、わが身を滅することができるは勇者のみ。今代の勇者は北の地にあると聞いておる」

「大丈夫、俺も勇者の一人だ。そもそも、召喚されたのはノブカズ君だけじゃない。俺もそうなのさ」

「なに、どういうことだ。光の聖霊はルールを破ったのか!?」

「まあ、あれだ。先日まで四天王が16人いるって聞いてたからな。それもどうかと思うぞ?」

「召喚された勇者一人に付き、四天王が一組任じられる。と言うことは……召喚者は4人?」

「どういうことだ?」

「もうよい、ここで雌雄を決しようぞ」


 ジークは槍を振るってこちらに仕掛けてくる。俺は剣を抜いて迎え撃つ。息つく間もなく打ち込まれる攻撃をかわし、捌き、いなす。間合いが遠いので合間に魔法弾を撃ち込むがこれも槍に阻まれて命中しない。まあ、そこはお互い様だ。

 並行して使い魔を飛ばし、上空から戦況を俯瞰する。指揮官を押さえたため、動きに精彩を欠き始めたのがわかる。あとはうちの優秀な部下たちが的確に動いてくれたらいい

 少し戦いから気がそれていることが分かったのか、好機とみて大技を振るってくる。一呼吸で5か所を連続して突く。最後の一突きはすさまじい勢いで、手にしていた剣が砕かれた。

「ふ、武器がなくなったぞ?どうする」

「こうする」

 虚空から剣を取り出し、握る。

「なんだと?」

「数打ちの剣じゃいかんことが分かった、いい槍だな」

「なに!?」

「なんつーか、面白くない反応だな。さっきまで振るってたのはただのはがねの剣だ」

「なめおって!」

「誰がてめーなんぞを舐めるか!」

 ぐっと踏み込み、上段から斬り降ろす。相手は柄で受ける。その瞬間剣先がまばゆい光を放つ。

「ぐわあああああ!? 目が! 目があああああああああああ!!!」

 その瞬間、背後で事態が動く。砦に詰めていた兵が打って出て一気に突入したのである。

「閣下、ここまでです!」

「ぬう、無念じゃ」

 最初に突入してきた500が再び割って入ってきた。これ以上の攻撃は難しいと判断してこっちも退く。

 本隊は四分五裂の状態で、あちこちが切り崩されている。

 結局敵軍は1000近い損害を出して南へと敗走していった。

「くっそ、あれだけ策を張り巡らせて1000しか倒せなかったか。中々にやる」

 俺のつぶやきは誰の耳にも届かず虚空に溶けた。これより先、ウィラメットの地には要所に砦が築かれた要害の地である。そこに4000の兵が立て籠もる。しかも時間制限付きだ。

 状況を考えると頭が痛くなる。ひとまず情報収集を命じ、俺は砦に入ってわずかな休息をとるのだった。

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